第150話 友達としても仲間としても

 そういえばサッキュンはどこに行ったのだろうか。俺達が外に出るというのにサッキュンは部屋の中に残っていたはずだが見渡していても見当たらない。


 サッキュンはあかねの能力下にいたし、あかねがいなくなったことでもしかしたらどこか遠くに行ってしまったのかもしれない。それならそれでも構わない。そんなことよりも今はみんなに説明しないと。


 それで勇者探しは終わりにしよう。出来る限りばれない様に静かに暮らしていれば異世界生活を存分に楽しむことが出来るだろう。こんな喪失感を味わうくらいなら逃げてもいいだろう?


 あかねもいないしもう勇者の呪いを解く方法もなくなってしまったし俺にはもうどうすることも出来ない。


「何をどうすればよかったんだろうな」


「とりあえず今は何も考えずぼんやりしてなさい」


 俺がぼんやりとつぶやくとクロエがそう返してくれた。完全に独り言だったがクロエはそれを拾ってくれて優しく頭を撫でてくれる。いつもなら泣いて喜ぶくらいの感動を覚えるが落ち込んだ気分が晴れることは無かった。


 俺はこの後どうすればいいんだろうか。物理的に生き返らせることが出来ないなら非常識な方法で生き返らせることは出来ないだろうか。


 いやだめだな。そんなことをしてあかねが喜ぶはずがない。その手段だけは無しだ。だがこんな世界にあかねを埋めることは出来る事ならしたくはない。魔物に荒らされる可能性もあるからだ。


 ……誰も触れられず、生き物は入れない、そして俺だけしか干渉できない場所があるなそういえば。そうだな、みんなに会わせたらそこに保管しよう。


 ひきこもりのあかねだし文句はきっと言わないだろう。


 そんなことをぼんやりと考えているうちにイリスとフラフィーが帰ってきた。


「二人ともおかえり」


「お姉ちゃん、通信機での話は本当なんだね」


「あかねさん……」


 クロエは二人を出迎えて軽く中を見せる。いつものようにピクリとも動かないあかねだが、俺の落ち込みようから実際に起きた出来事だと二人は察した。俺がいなきゃあかねはほんといつもと変わらないんだけどな。


「俺がふがいないからあかねは殺されてしまったよ」


「キミヒトさん……」


 俺の言葉に最初に反応したのはフラフィーだった。フラフィーはよくあかねの世話をしていたし仲良くしていた。それが打算だとか言っていたが、それだけの感情だったわけがない。


 友達としても仲間としても大切に思っていたはずだし、一緒に旅をしていた時も楽しそうにしていた。クロエとイリスがべったりな都合上、フラフィーとあかねは一緒にいることも多かった。


 だからあかねが殺されて一番悲しいのはフラフィーかもしれない。


 しかしその後に続く言葉は俺が想像したものとは違っていた。


「キミヒトさん、あかねさんが亡くなって悲しいのはわかります。私も凄く悲しいです。けどキミヒトさんがそんな風だとみんなどうしていいかわからなくなっちゃいますよ。キミヒトさんは私たちのリーダーなんですから」


 あかねが死んだことを悲しむ言葉ではなく、俺について叱咤するようなものだった。


 俺がリーダーか……そうだな、確かにみんなの行動目的を俺が決めていたもんな。リーダーならみんなを引っ張って行って当然だよな。ああ、こんなに情けない姿を見て軽蔑されたのかな。


 すまんな、俺は仲間の死をまともに受け入れられないダメなリーダーなんだよ。ここの世界の住人じゃないんだよ。ご都合主義、平和な世界を当たり前だと思ってる人種だ。


 人を殺していたって、殺される覚悟なんて持ち合わせちゃいないダメな人間だよ。


 俺が負の思考に落ちていきそうな時にさらにフラフィーは続ける。


「だからキミヒトさん、今は堂々と泣いてくれていいんです。私たちはみんなあなたと一緒にいると決めたんですから。悲しい時は悲しいと、辛い時は辛いと、みんなで考えていきましょう? キミヒトさんがふがいないなんてことはありません、私たちはずっとキミヒトさんを見ていましたから」


 フラフィーに抱きしめられる。慈愛に満ちた抱きしめ方で、とても心が安らいでいく。気づけばクロエもイリスも一緒になって俺を抱きしめていた。


 この悲しみも苦しみも、みんなで慰めあえば少しは楽になっていくんだろうか。ロリ達に囲まれて、優しい言葉をかけられて段々と落ち着きを取り戻していく。それと同時に涙があふれてきた。


「キミヒト、私たちも家族がいなくなった。悲しかったけど、時間があれば少しずつ癒えていく。薄情かもしれないけど、私とお姉ちゃんは二人で支えあって生きてきたよ。だからキミヒトの事は私たちが支える」


 クロエとイリスは村が襲撃されて無くなっている。俺よりも辛い現実と向き合ってきたのは間違いないだろう。厳しくも優しい現実を教えてくれるロリからは達観した雰囲気を感じられる。


「そうよキミヒト。あなたには私たちがいるわ。いくらでも慰めてあげるから弱音をちゃんと吐きなさい。出ないとあかねにずっと顔向けできないままになるわよ」


 クロエからも真っ直ぐな言葉を向けられる。このロリ達は現実をしっかり見てきたんだな。こんな世界だし殺伐とした営みをしている人たちが普通なんだろう。


 だからこんなに冷静でいられる。


 そうだよな、俺が落ち込み続けていたんじゃ何も始まらない。みんなにも心配かけてしまうだろうしこの世界で長く生きてきた経験からくるありがたい言葉としてもらっておこう。


 悲しんだとしても落ち込まず前向きに、それでいて俺らしく。無茶苦茶だが異世界らしいじゃないか。この世界は現実よりもゲームのような異世界、だから自由にやるって決めた。


 あかねも俺と同じようにしていた。それならあかねの意志を継ぐという意味も込めてまた好き勝手にやってやろうじゃないか。


「ごめん、みんな。ありがとう。ちょっとガチで泣きたいからあかねと二人きりにしてくれないか」


 それでも区切りは必要なので全力で悲しもう。あかねが死んだ、ゲームのような世界でも死人は生き返らない。教会に行ったところで蘇生魔法なんて存在しない。


 俺はようやくあかねの死に向き合うことが出来た。


「私たちも、一緒に泣いても、いいですか……?」


 顔をあげてみればフラフィーの目からもぽろぽろと涙がこぼれていた。クロエとイリスも涙目だ。なんだよ、みんな既に泣いてるじゃねえか。俺も涙が止まらなくなるじゃねえか。


「私たちは仲間だもの、キミヒトの弱いところ見られることもそうそうないし、一緒に泣かせてもらうわ」


「キミヒト、よしよし」


「そうだな……みんなで泣くか」


 そして俺たちは抱きしめあい本格的に泣き始める。一人で泣いていたら暗い考えに落ちていきそうだが、みんなで泣けば悲しみが薄れていく気がする。


 みんなであかねの事を想い、今日はただただ死を思おう。


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