第114話 スタンピード
ジーギスムンドが言うには数十年前にも同じようなことがあり、そのあと大量に魔物が湧き出してきたらしい。スタンピードってやつか? もしかしてなんだけど教会の神父さん死んじゃったのはそれが原因?
「こればっかりは対処のしようがない。溢れてくるダンジョンは魔物が出なくなった直後に攻略したところに限られるが、そのボスの強さは普通のランクの二つくらい上になるんだ」
ジーギスムンドは深くため息を付き話を続ける。そこにはダンジョンを攻略する難しさやこれから起きるである参事に心を痛めている雰囲気がにじみ出ていた。
「だから並みの冒険者じゃ太刀打ちできないし、最低でもBランク以上の探索者の力が必要だ。しかしロンドのメンバーが返り討ちに合ったんじゃな。全箇所見張って対処するしかないか……」
「ボス部屋なんて最低がBみたいなもんですからね……」
受付嬢は俺達に視線をチラチラと投げかけながら、その問題をクリアしていることを早く伝えろと訴えてくる。うん、解決してるもんねそれ。だが何故俺達に言わせようとするのか。
もしかしてなにかしら突っ込むといけないことでもあるのだろうか。じゃあ言わなくていいな。
「Aランクの人たちってダンジョン攻略しないんですか?」
気になっていた質問をする。ロンドのメンバーは積極的にダンジョン攻略をして知名度もあげているし報酬ももらっている。それなら他のメンバーだって攻略しててもおかしくないんじゃないだろうか。
「ああ、普通はしないな。ドロップアイテム納品するだけで稼ぎは十分だし、ボス部屋の魔物は非常に強い。わざわざ命の危険を犯そうなんて奴はいない」
それもそうか。あかねは納品だけでAランクまで達しているし魔物と戦って経験を稼ごうなんて考えの人はそんなにいないよな。
安定した収入と安定した楽しみがあれば人はそれだけで生きていけいる。日常的に危険に身を置いているならそれ以上の危険を感じる行為はやらないということか。
「なるほど理解しました。俺達も探索者になりましたから力になりますよ」
「ロンドのお墨付きのお前たちなら安心だ。防衛組は適度な位置に分かれて待機ということになるが、お前たちはロンドと共に行動してもらえればと思う」
テキパキと指示を出していくジーギスムンドに受付嬢は慌て始めていた。その不審な様子にジーギスムンドも気づき問いかける。
「どうした何かあったのか? キミヒト達もダンジョンを見てきたって言ってたのが報告だろう? それ以外にあるのか?」
「ええと実は……キミヒトさん達は薬草のダンジョンを攻略してきたようです」
「……」
ジーギスムンドは受付嬢をにらみ、ついでに俺達に優しい視線を向けてくる。やっぱいけてるおっさんだよなこの人。
「その情報は本当か?」
「ええ。受付嬢さんには報告していたんですが、なかなか言い出さなかったのでどうしたものかと思っていまして」
俺が責任を投げつけると受付嬢は恨みがましい目でこちらをにらんできた。幼女だったら最高の視線だが、受付嬢はロリでも幼女でもないのでそこまで興奮はしない。
「……お前は探索者と一緒に最前線で報告の任務だな」
「……はい」
ああそういうこと? もしかして報告すると一番危ないところに配属されるとかそういう理由があったのかな。たしかに自分で報告したならその場所に行くのが普通だけど、言わなかったらもっとひどいことになるのは明白だろう。
俺達にびびりすぎて色々な思考を放棄し始めてるなこの受付嬢は。自業自得なのか不憫なのか考えが足りないのか。そのうち受付嬢クビになるんじゃなかろうか。
「そういうことなら配置は最低限で済むことになるな。ありがとう、非常に助かった」
ギルドマスターという立場でありながら頭を下げてくると言うことは相当にやばい案件だったんだろう。どのくらいの魔物が溢れてくるのかは俺には分からないが、街の危険だったことはこの対応でわかってしまった。
受付嬢煽って遊んでる場合じゃなかったな。
「どういたしまして。俺たちはどうしたらいいですか?」
「そうだな、キミヒト達には有事の際に動いてもらいたい。薬草のダンジョンのみというのならそんなに難しい話でもないし、出てくる魔物もそこに関係する魔物ばかりだ。草系の魔物なら魔法使いが入れ替わりでやればいいから困ることはないと思うが一応な」
不測の事態に対応できるように見ててほしいと言うことか。確かに決まったダンジョンから魔物が這い出してくるなら遠距離から安全に処理したほうがてっとりばやいし安全だ。なんなら入口閉じて蒸し焼きとかもあり。
わざわざ近づいて危ないことをする必要もないしな。魔法使いもこの街のなかには結構いるだろうしそれならみんなの戦いを見学させてもらおう。
なんだかんだで人の戦いを見ることはほとんどなかったから参考になるはずだ。魔法使いに関してはイリスの火力か勇者の火力しか知らないから、標準的な火力が気になると言えば気になる。
「それじゃ見張りは頼んだぞ。俺は人を集める」
「はい、わかりました……」
受付嬢は今から見張りの役割をすることになる。ということはもしかして結構戦える人なのかもしれないな。じゃないと見張りなんて危険なことできないし。
「大変だ! ギルドマスターはいるか!?」
俺たちが動き出そうとしたときに外から大声で誰かが扉を叩き始めた。相当焦っているのが伝わってくる。
「どうした、騒々しい」
ジーギスムンドは扉を開けて入ってきた探索者に声をかけるが、その探索者はジーギスムンドを確認すると声を張り上げた。
「外から魔物が押し寄せてきた! 百体くらいだが異常に強い! それに率いている人間がいるんだが話も通じないしそっちも馬鹿みたいに強いんだ! 早くしないと街の中に入ってきちまう!」
「外からだと? 警備隊で蹴散らせないのか?」
「だから俺が来たんだよ! 魔法で入口を防いで阻むのが精いっぱいだ! 何とかしてくれ!」
百体の魔物を率いてくる強い人間。そして話も通じない。普通ならテイマーの能力を持った人物を疑うところだがテイマーなら本人は対して強くない。勇者かもしかして。
この街の警備隊の人たちは強い。探索者たちをまとめることが出来る実力というのは並みの冒険者よりもはるかに上だ。それが防戦一方でかつ伝令を送るだけしか出来ないというのはおかしい。
そしてスタンピードに合わせたかのようなこのタイミング。偶然か?
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