第111話 スピーディ
「村の話ですか? そんなに面白い話はないですけど私に興味持ってくれたことが嬉しいです!」
「じゃあいいや」
「なんでですか! 全くキミヒトさんが私の事いじるからクロエさんもイリスさんもいじるんですよ!」
毛を逆立てて怒ってくるが、包丁を持ち出すことがだいぶ減ったので普通に可愛がる。いやもしかして包丁出すと警戒されるってやっと気づいた?
どっちだろうともいじり倒すからかかってこい。俺は全てを受け入れていくよ。
「それでどんな話が聞きたいですか?」
俺はフラフィーから村の話を色々聞いた。大きな村ではなかったけど、だからこそみんな家族のように協力しあって暮らしていたとか、家事と狩りは得意不得意に別れてたとか。
フラフィーはどちらも出来たが、子供たちの世話は戦えない女性が多かったので護衛を兼ねて村にいることが多かったとかそういう何気ない話をしていた。料理出来るのはそういうことか。
フラフィーの昔の話は全然聞いてなかったので新鮮だった。聞いた話は自分達を囮にしてワニ捕まえたとかアグレッシブ過ぎる話ばかりだからな。
しかし聞けば聞くほど平和に暮らしているのがわかる獣人達だけど、どうしてフラフィーは一人になってしまったのだろうか?
「あー、それにはちょっとわけありで。簡単に言うと獣人狩りに合っちゃったんですよ。全部返り討ちにしたんですけどね」
やっぱ獣人つえーわ。どんな人数で教われたのか分からないけど全部ってことは結構いたんだろうな。そら水の中でワニとタイマン張れるようなやつらがそう簡単に負けるわけないよなっていうね。
王都は獣人差別もあったから結構ギリギリなことしてる奴はしてるみたいだし。奴隷が厳しく管理されているとはいえ、王都以外に行けばいいだけだからな。
「それで場所がばれたということでみんなバラバラに。私は冒険者やりたかったので王都に行きましたが、他の方々は違う国とかに旅立ちました」
なるほど、それでフラフィーは一人で行動していたわけか。ケットシーと作った村を手放す決断したのも凄いけどやっぱこの世界殺伐としてるところもあるよな。
「私の話はこんな感じです。キミヒトさんの世界はどんな感じだったんですか?」
「俺か? こっちの世界とは比べ物にならないくらい平和だったなぁ」
「キミヒト、私も聞きたい」
「交代の時間よ」
どうやら結構長くフラフィーと語り合っていたようだ。四人いるから二人きりで話す機会はあんまりないからだいぶ楽しい時間だったな。
「もうそんな時間か。俺の話はまた後でみんな揃ってるときにしようか」
「わかりました。それじゃ少し休みます、クロエさんイリスさん、よろしくお願いします」
「ええ、しっかり休んでね」
クロエ達と交代した俺たちはそのままテントの中に入り休んだ。フラフィーがちょっかいかけてくるかと思ったけどダンジョンの中というのと声が外に聴こえてしまうというところから自重したのだろうか。
次の日からまたダンジョンを潜っていくことになったが、圧倒的な広さを誇っていた上の階とは違い、段々と階層が狭くなってきていた。
十階層に着いた頃には一時間もかからず次の階層に行けるくらいの短さになっていた。俺の透視を使っているとはいえあまりにも快適すぎる探索に俺たちはおかしいことに気づいていた。
「全然敵がいないな?」
「そうね、気配もないし」
「においもしません」
さくさくすぎる探索だが、このダンジョンは全体的にこんな感じなのだろうか? 探索者がいたあたりはみんなが処理しながらやってると思っていたが、もしかして最初から存在しないとかなのだろうか。
人がいなくなったら出ると思っていただけに、ここまで来て魔物が出てこないのはおかしいんじゃなかろうか。だが気にしてもどうにかなるわけじゃないしな。
「考えても仕方ない。ガンガン行けるうちはガンガン行こう、クリアが目的だから楽ならそれでいいさ」
「キミヒト、今日は私」
というわけで今日はイリスと見張りをしてから寝ることになった。安全地帯にもうほとんど人は存在せず、ごくまれに上質な薬草を探しにきた探索者がいるくらいで貸切状態だ。
簡易結界も自分たちの持ち込みで張り、まったりとした時間を過ごしていった。
次の日も階層を下っていくとある草を発見した。
『酸草:酸素を大量に生み出す草。水と光があればほぼ無限に生み出す』
「便利そうなもんあるな」
これがあれば水の中だろうと透過を使っていようとも呼吸が出来るようになるだろう。となると誰も探索していなさそうなダンジョンを攻略する幅が広がる。
特に水のダンジョンでは非常に有用になるだろう。っていうか必須。五階層以降ではずっと水の中に埋まりっぱなしという可能性があるためどうにかしたいとは思っていたが、これがあれば解消できそうな気がする。
というわけで薬草などと一緒に摘みながら進んで行き二十五階層でクロエといちゃいちゃして階層を踏破していく。
まじで魔物がいねぇ。これならだれでも攻略出来ると思うんだけどみんな潜ってこないんだろうか。この辺りの魔物は食虫植物とか出てきてほしいんだけどどうだろうか。
そんなことを考えているうちにボス部屋まで来てしまった。スピーディすぎるだろ。
「いいのかダンジョン攻略こんなんで」
薬草のダンジョンの簡単ぶりはあまりにもおかしいだろう。今までのダンジョンもそれなりに簡単に攻略したけど戦闘や大変なことはそれなりにあった。
屑鉄はあかねの小屋ぶっこわしただけだし、ミスリルは攻略っぽいっちゃぽいけどミスリルゴーレム倒した時は一方的な狩りだった。ボスよりゴブリンの方が脅威だったよまじで。
こんな攻略が続いたら色々な意味でやる気を失ってしまいそう。
「じゃあ、行くか」
扉を開けると、そこには非常に大きい植物がいた。部屋のなかのほとんどの場所に根が張られ逃げ場はないと言う風に立ちふさがるその姿は嫌悪感を抱くには充分すぎる見た目だった。
無数に生える触手、本体部分っぽいところには人を数人一気に丸呑みできるような大きな口と牙、じゅうじゅうと音を立てて床を溶かしている溶解液まで完備している。
なるほど、あれが洋服だけを溶かす液体だったら完璧だったな。
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