第110話 ファンタジーの世界
「このダンジョンは森って感じですね」
「そうだな。今までのダンジョンと違って天井も高いし光も強いな」
俺たちは薬草のダンジョンにやってきたが中は人が多く、魔物は全くいないような状態だった。というかみんな採取する気しかない恰好をしている。
このダンジョンの難易度は一番下のF~Cまでと幅広く設定されている。というのもダンジョン攻略されていく度に、序盤はほぼ変わらずただただ階層が増えていきそこから魔物が変わるという仕様になっていたからだ。
今までにクリアされた回数は五回。外にある石板で確認したところロンドが最新の攻略組だった。もしかしたら選ぶダンジョン間違えた可能性があるな。
「とりあえずガンガン下に降りていくか」
難易度がCまでなら俺達でも充分攻略できるが、探索が止まっているのは何か理由があるのだろうか? それとも探索せず俺達みたいな攻略したい人たちに任せているのが現状なのだろうか。
攻略放置してるといえば屑鉄のダンジョンどうなったかな。あとで見に行っておこう。
そのままさくさく進んで行くが、今までのダンジョンに比べると非常に広い。薬草のダンジョンというだけあってそこかしこに便利そうな草が大量に生えている。
『薬草:食用に適している。そのまま食べても煮ても良し。味は微妙』
『解毒草:食用に適していない。そのまま食べるとまずすぎて吐く。煮て成分を抽出したものを使うのが一般的』
『まず草:雑草の一種。とにかくまずい、まずすぎる。たまに魔物が食べているのを見かけるが吐いてる』
とかこんな感じ。雑草に鑑定をかけるとほとんどがまず草。薬草のダンジョンだからって何もかもを薬草チックにすればいいわけじゃないと思うんだ。なんで魔物はまずいのわかっててまず草食うんだよ。
そんな感じで進むことしばし、五階層に着いたあたりで結構な時間が経ったので今日はここでお泊り。長くこもっている人たちもいるようで、安全地帯にはそれなりに人がいる。
そういえば安全地帯で知らない人たちがいるのは初めてか。屑鉄もミスリルも全力疾走で抜けてったから人がいないことしか経験していない。
また二人ずつにわかれて見張りをするか。
「んじゃ俺と見張りしたい人」
「私とイリスは今日は良いわ。久しぶりの森だしなんだかはしゃぎすぎたみたい」
そういってクロエとイリスはテントの中に潜っていった。珍しいな、クロエはともかくイリスが俺の争奪戦に混ざってこないとは。となるとフラフィーが一番手になるのか。
ついでだしデートという名の教会掃除の件も言っておくだけ言っておくか。
「……あの二人何か企んでるんじゃないですか?」
フラフィーも疑り深くなったもんだなぁ。最初の頃だったら素直に喜んでいたというのに今じゃこれよ。度重なるクロエのバインドと仲間外れに疑心暗鬼になっておられる。
でもたしかに何か企んでいるという線は捨てきれないな。
「良いじゃないか。今は二人っきり……というには人が多いけど」
「これじゃあんまりいちゃいちゃ出来ませんよ」
と言いつつぴったりくっついてくるフラフィー。ここの安全地帯は人が多いため、常に階層の切り替わりの所に簡易結界が張ってある。薬草を取る人にとっては非常にありがたく、探索者にとっても財布に優しい。
この街の豊かさが異常。おかげで一応見張りしてるけどいらない気しかしない。
「しゃあないさ。いちゃいちゃの代わりにってわけじゃないが今度教会に行こうぜ」
「キミヒトさんも何か企んでるんですか?」
「おいおい、俺からだってたまには誘うよ。この前の服似合ってたからそれのお礼って事で」
そう言うとフラフィーは少し照れたような感じで嬉しそうに笑う。いじるのもいいけどこういう普通の会話も楽しいです。
「ウエディングドレス着ていけばいいですか?」
「もしマジで持ってたらドン引きなんだけど」
それなら言いかた早まったかもしれないけどまあいいか。こっちの世界でも協会は結婚式に使われると言うのを初めて知ったわ。でもあの廃墟っぷりを見るとあんまり一般的ではなさそう。
「じゃ、じゃああの服着ていきます」
「あ、それはダメ。だって掃除しに行くから」
「デートじゃないじゃないですか! あ! 教会ってあの廃墟みたいになってる所ですか? キミヒトさん宗教に興味があるとは知りませんでした」
おう、フラフィーもあそこ知ってるのか。そう言えばなんだかんだで別行動したこともあったし知っていてもおかしくはないのか。説明する手間が省けて丁度いい。
「ああ、実はちょっと縁があってな。宗教っていうかある女神様だけを信仰しているというか」
「へー特定の女神様だけを信仰するのって珍しいですね。人族はそういうイメージあまりありません。特に冒険者とかの方だと信仰すらしてないなんてこともありますし」
「あー、なんか女神さまもそんな事言ってた気がする。私にだけ感謝してくれる人いないんですーって」
俺がそう言うとフラフィーは怪訝な顔をして俺の顔を覗き込んで来た。フラフィーがこういった顔をするのは非常に珍しいので思わず思いっきり見つめ返してしまう。
光に当たってると栗色の毛並みが金色っぽく見えるなとか、それなのに肌は白くて綺麗だなとか、耳と尻尾もふりてぇとかそんな感じの衝動に駆られる。やっぱペット枠なんだよな。
「キミヒトさん、女神様の声聴こえるんですか?」
ああそこが気になってたのか。普通見えないとか言ってたもんな。
「うん。女神様狙って思いっきり感謝しまくってたら存在が感じられたというか見えるようになったというか」
最初は全く見えなかったしお祈りを捧げていくと段々と見えるようになってくる。それは二回目に行った時も同じで、最初は見えずお祈りの直後から見えるようになった。
もしかしたら俺だけじゃなく他の人でも思いっきり感謝すれば見えるようになる可能性もある。俺が勇者っていうのと一度会ったことがあるから特別って可能性も充分あるけど。
「それは……羨ましい話ですね」
「そうか?」
「そうですよ。獣人は特に自分たちの祖先の神を信仰しています。私の所はケットシー様でした」
この世界にもいるんだケットシー。そいつは是非とも猫好きな俺としては見てみたいと思わされるな。ケットシーって色々な姿で描かれてるからな、黒猫だったりブチ柄だったり。
「祖先の信仰か、神様っていうより仲間意識的な感じか? それでフラフィーはケットシーに会ってみたいのか?」
そう言うとフラフィーは耳をピコピコさせながら興奮気味に話しはじめた。
「ケットシー様はですね、幸運を司るんですよ! 会えれば絶対にたくさん良いことがあるって話で、長老が猫獣人の村を作るときに手伝ってもらったって言ってました! このご時世に獣人の村を作るなんて奇跡みたいなものですよ! なので会ってみたいです!」
目をキラキラさせて語る姿を見てるとアイドルかなにかを語るヤバ目の人にみえてくるな。もしくは幸せの青い鳥みたいな伝説とかそういう系統の何かを信じてる感じの。
でもそういう伝説はファンタジーの世界にいる以上起きてもおかしくないから信じてるのは良いことだと思う。俺も実際に女神様に会ってるわけだし普通にありえる。
「もし会ったら何かしたいことでもあるのか?」
「いえ、感謝の気持ちを伝えたいんですよ。今はみんな離ればなれになっちゃいましたけど、村で過ごした時間は確かにありましたしとても楽しかったですから。ケットシー様がいなかったら村はなかったって村長いつも言ってました」
少し寂しそうにしているが、過去の楽しい思い出を思い出すことで寂しさの中にも楽しかった気持ちが見えてくる。
いつも元気でみんなからいじられてるフラフィーだから、こういう真面目な話はほとんど聞いてなかったもんな。せっかくだし村の話とかも聞いてみるか。
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