第91話 ロリサキュバス

「はぁ……」


 最悪な展開に俺は思わずため息をこぼさずにはいられなかった。くそかよふざけんなよまじで。ロリから大人に変身するとか本当にない。


「ちょ、ちょっとあなた! わたくしの命令が聞けませんの!?」


「ちょっと黙っててもらえる?」


 何が悲しくて好みのタイプの女の子が変身して好みじゃなくなるのを見なきゃいけないんだよ。男がみんなそういうスタイルの女性好きだと思ってんじゃねえよ。


「俺はお前に言いたいことがあるから先に聞け」


「この男……何者ですの!?」


「うるせぇ良いから聞けよ」


 ぶん殴りたい衝動に駆られるが、さっきまで幼女の姿をしていたことに免じて手を出すのはやめてやろう。せめてもの情けだ、もう一度幼女の姿になるなら考えてやるよ。


「まずなんでお前は変身したんだ」


「わ、わたくしの本当の姿だからですわ! さっきは弱っててあんな姿でしたけど」


「なるほど、弱れば戻るのか。腕一本でいいか?」


「何がですの!? 何がですの!?」


 めちゃくちゃうろたえ始めたので背後に回り込み地面に押さえつける。怒りがマックスなので自分の動きの滑らかさに自分で驚いた。


「うわ、キミヒトさんそんな動きも出来たんですね。獣人みたいなしなやかさでしたよ」


 成り行きを見守っていたフラフィーからそんな言葉をもらうくらい滑らかな拘束だった。腕を取り押さえつけ、暴れれば骨が折れるだろうという形になる。


「ふ、ふふ。わたくしに触れましたわね? 直接触れればそれだけ操りやすいというもの! さあ離しなさい!」


「だから黙れよ」


「ひぎぃ! 折れちゃいます折れちゃいますごめんなさい! っていうかなんで効かないんですの!?」


 大人サキュバスの体から俺を支配しようと何かしらの魔力が流れ込んでくるが全てシャットアウトする。不屈のキャパシティは今怒りを抑えることで精いっぱいなので他のデバフ効果は全て受け付けない。


 こんな使い方があるの初めて知ったけどどう考えても使い道ないだろこれ。どっちにしろカット出来るんだから意味がねぇ。


「で? なんでその姿になったんだ?」


「さっきも聞きましたわよねそれ!? どうしたらいいんですの!?」


「そういや聞いたな。すまんな、コレ折ったらいいんだっけ?」


「言ってません言ってません!」


 涙目になりながら訴えるサキュバスだが、俺の悲しさを想えばこれくらいなら生易しいだろう。本当にやってしまおうかと思うくらいにはお怒りだ。


「助けてあげましょうか?」


「へ?」


 クロエがサキュバスの前に立ち見下ろしながら問う。サキュバスの腕はギリギリと音がなっていて今にも折れそう。やってるのは俺だけども。


「何しに来たのか教えてくれれば助けてあげるわよ?」


「そんなわけには……」


「ちなみになんだけど腕が折れた時、折れたまま直して二度と元通りにならない様にすることって簡単なのよねぇ。あら、ちょうど試せそうね。キミヒト、手を貸すわ」


 クロエは俺に寄りかかり体重をかけてくる。このロリ相変わらず敵に容赦ねえな。


「あああああ! 言います言いますから助けてくださいいいいい! 痛い痛いもう無理です!」


「あら情けない。でもそれならいいわ。幼女に戻りなさい、話はそれからよ」


「はいぃぃ……」


 ボフンと煙が出たかと思うとそこには大人サキュバスじゃなくてロリサキュバスがいた。そうそうこれでいいんだよ。


 のしかかってる体勢だったが腕を解放し背中から降りる。幼女には乗るよりも乗られる方が好きだと俺は何度でも言う。


「それがあなたが唯一生き延びられる道よ」


「なんでわたくしがこんな姿に……」


「それじゃ話してくれるわね?」


 クロエは元に戻ったロリサキュバスをもう一度縄で拘束し身動きが取れない様にした。普通のぐるぐる巻きだけどこれはこれでいいかもしれない。


「そ、そんな事よりその男を何とかしなさいよ!」


「キミヒトのこと? それならあなたがその姿なら攻撃しないわよ」


「へ……? いやいや男の人があの姿で迫られて大丈夫だったのにこの姿で安全なわけ」


「私たちのパーティをよく見てみなさい」


「……あれぇ」


 ロリサキュバスは俺の仲間たちを順繰りに見ていき全てロリな事に気付いた様子だ。唯一フラフィーには胸があるが、身長は高くないことと小動物的な可愛さがあるのでさっきのサキュバスが完全なジャンル違いな事に気付いたようだ。


 流石サキュバス。様々な性癖にも知識があるようだな。


「というわけよ。死にたくなかったらその姿でいなさい」


「はい……」


 クロエに敵わないと悟り大人しく言うことを効くようになった幼女。そんな幼女を縄で縛り上げ尋問を開始するクロエ。


 パッと見平和だけど全然平和なことしてないよなこれ。


「じゃあまずはどうしてあそこに倒れていたのかしら?」


「……お腹がすいて気づいたら倒れてましたの」


 おう演技でも何でもなく本当に衰弱してたのかよ。この幼女もしかして相当に頭ゆるい可能性高いんじゃなかろうか。


「そんなになるまで何をしてたの?」


「お二人を探してました……」


「へぇ……?」


 クロエから軽く殺気が発っせられる。幼女は軽くビビっていたけどなんとか耐えているようだった。


 しかしクロエとイリスを探していたとなると厄介事だな。サキュバスということを考えると魔界の連中の可能性が濃厚だが、潜伏していたとなるといつからだ?


 この前のヴァンパイアとの関係はあるのかどうか微妙だが、なんとなく関係無さそうな気がする。だってこの幼女お使いすら失敗しそうなんだもん。


「あなたはどこから来たのかしら? 魔界? それとも人間の使い?」


「リーベンの奴隷商です……。数日前にわたくしにも連絡がきて発見し次第見張れと」


「あなたにもってことは他にもいるわけね。でもあなただけということはまだ連絡していないんじゃないかしら?」


「あわよくば捕まえるか見張れとだけ言われたので……」


 なるほど。これは逆に使えるコマになるんじゃないか? かなり頭の弱さが心配だがなんとかなりそうな気もしてくるぜ。


 しかし奴隷商か。魔界の住人であるだろうサキュバスを自由に扱える立場にあることに驚きを隠せないな。思ったよりもリーベンの奴隷商は力をもっているのかもしれない。


「私たちを見張ってどうするつもりだったの?」


「わかりません……」


 ……こいつ捨てられてんじゃないの? 理由はわからないけど何も情報与えてなさすぎだろ。クロエもそう思ったのか若干困惑している。


「……あなたはどんな情報を持ってるの?」


「ええとお二人を捕まえればお金もらえるってことくらい、ですわ」


「つまり理由もわからなければ私たちの正体も知らないってわけね。じゃああなたには死んでもらうわけだけど何か言い残すことは?」


「え!? 死ぬんですの!?」


「私たちを捕まえて売ろうとしてたのに情けをかけてほしいのかしら? 無理な相談ね」


 ここに至ってロリサキュバスは自分がどういう状況になったのか理解したらしい。いやもうほんと頭ゆるすぎるけどどうやってこの街に忍び込んだのだろうか。


 いやそうか、弱すぎて魔物と認識されなかっただけか。それなら納得できるし捨てられた理由もわかるな。


 しかしリーベンの奴隷商はまだクロエとイリスを探しているのか。どうやら偶然捕まえたっていう感じでもなさそうだな。情報が欲しいが末端の連中が全員こんな感じだったらあまりにもめんどくさい。


「クロエ、こいつ上手く使えないかな」


「サキュバスだし女だし私の魅了の効果は薄いわよ? ロリだからって甘く見ちゃだめよ?」


「だよなぁ。うん、じゃあさよならだな」


「うそつき! うそつきですわ! 助かるって言ったのに!」


「キミヒトには殺されないとは言ったけど私は助けるとは言ってないわよ?」


「こうなったらおさらばですわ!」


 ボフンと煙があたりに蔓延したが、今回はなかなか煙が晴れることはなかった。さっきまでの煙とは明らかに量も違う。変身するときに煙の量調整出来るとかなかなか面白い特技だな。


「なあクロエ」


「何かしら」


「殺す気なかっただろ」


「ええ。だってあの子連絡する気もないみたいだし何かあっても充分対応できるもの。それにあの見た目だしうまく使えば私たちの身代わりにもなりそうだし」


 やっぱそういう感じだよね。クロエの束縛はそう簡単には解けないしわざわざ逃がすような下手を打つわけもないからね。イリスもフラフィーも行動に移さなかったところを見るとわかってたのかな?

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