第62話 生存は保障します
アトラクションのダンジョンは結構込み合っていた。しかもみんな非武装。ここはダンジョンじゃねぇ、まじでただのデートスポットか遊び場だ。
というわけで俺もイリスも装備を全部収納に突っ込んだ。というか俺たちは生身でも戦えるし一般人っぽい人たちが非武装なら俺達なら余裕でいけるよねっていう安心感から脱いだ。
中がどんなに安全でも入る人たちの姿を見なかったら非武装で入ることはなかっただろうな。
「キミヒト、行列すごい」
「ああ。某テーマパークみたいな勢いだな」
俺が日本にいたころにあったあのテーマパークは今も込み合っているのだろう。平日だろうと休日だろうと待ち時間は異常にながいあの場所。
緩和するために予約制度みたいなのがあるけど、うまい具合に取っていかないと続けて乗り続けることは不可能だ。
年間パスポートを手に入れている熟練の猛者たちの力を借りながら適度に回るのが俺のオススメだ。お互い詳しくもないのに初デートで行くような場所じゃあない。
待ち時間の長さで疲れて破局。ざまあみろ状態になるから無難におうちデートでもしておくといいさ。
もしくは映画館。映画館をデートに選ぶのを批判する人たちがいるが俺は肯定派の部類に入る。なぜなら時間を適度に潰すことができ、共通の話題を手に入れることが出来るからだ。
ただしこれは女の子が観たい映画だった場合に限る。自分が観たいだけの映画だったらそら嫌われて当り前よってやつだね。
上級者になると家のテレビで映画鑑賞会なんてしゃれた物開いてそのまま次の日コースだろうな。それなりの期間付きあってるならそれが一番楽で楽しいだろう。
おうちデートで静かないちゃいちゃ、そして一緒に食事して夜はベッドでとか理想形のデートと言って差し支えないだろう。個人の意見だけども。
って話がだいぶそれたな。というわけで待ち時間がないのならどんなアトラクションでも楽しめるし特に問題はないよってことを言いたかった。
「キミヒト、あれ行こう」
「アタックコースター……行ってみるか」
なんとか入場を果たした俺たちはアトラクションを楽しむことにした。中には結構人がいたが、ダンジョン産のためか時間制限やら細かい規制が全くない。
アトラクション自体の長さも極めて長いものがあったりするし、場合によっては防具貸出所みたいなやばめなところもある。
人の多いところはやはりと言うべきかかなり安全面を考慮したものに見える。探索者とともに行く冒険ツアーみたいな感じで護衛も頼めるらしいし。
俺たちが乗ろうとしているこのアタックコースターは五分くらいの乗り物だが、人もめちゃくちゃ少ないし、乗り物を見ると安全バーとか何もない。気合いで耐えろと?
いやレールを見た限り急速落下はないから大丈夫……なのか? いやもう乗る前からこれで怖いわ。
「大丈夫ですよ。生存は保障します」
「安全を保障してください」
乗るところにはプリーストらしき人が待機していて声をかけてくる。なるほど、怪我前提か。なんで人少ないか理解したわ。不安感が増すだろどう考えても。誰がこんなん乗るんだよ。いや乗るけどさ。
「ただし回復するには多少寄付していただきます」
「なるほど、そういう商売か」
これは結構怖いものがあるが、イリスをみるとやる気満々だったので覚悟を決めて俺も乗ることにする。というか二人乗りしかない。
このダンジョンマジでどうなってるんだろうな。誰かが意図的に良い感じに改造したんだろうか。
ずっと目の前で止まっていた乗り物に乗りこむとゆっくりと動き……はっや!
「なんだこれなんだこれなんだこれ!」
あまりの急加速に体が後ろに持って行かれそうになる。ただしここで持って行かれたら本当の意味で持って行かれる。高さが無いけどこのスピードで落ちたら死ぬんじゃないかマジで。
え、これ本当に生存保障されてる?
めちゃくちゃ怖いがイリスがどうなってるか心配なので見てみるとイリスは平然と楽しんでいた。
しかし話しかける余裕はないのでじっくり観察すると……うん、魔法の形跡が見られますね。具体的には風魔法か何かで体固定して吹き飛ばされないようにしてますね。
しかも乗り物にも魔法使って加速させてるよね。そら死ぬほどのスピード出るわ。やめろし。もしくは俺も固定しろし。恨みでもあんのか。
「もう二度とのらねぇ……」
「いやー恐ろしい速度でしたね。あんなこともあるんですね」
あるんですねじゃないんだよプリーストさん明らかにおかしかったでしょ。文句は言う気ないけどそれで済ませていいのかマジで。
「キミヒト、楽しかった?」
「死ぬかと思ったよ……」
「ならよかった」
「……」
殺す気なの?
若干の不安と疑問を覚えつつイリスが次に向かったのはまたもや絶叫系だった。今度は振り回す系統のやつ。これも人がいないことから色々と察することが出来る。こっちは完全に人がいない。
「えーとイリスさんや、これは危ないんじゃなかろうか」
「大丈夫、キミヒトなら行ける」
「……」
イリスが決意のまなざしでこちらを見つめてくるので仕方なく折れることにする。なんか怖いんだもん。
というわけで例のごとくプリーストから生存を保障され、まったく信じられない気持ちになりながら乗り込む。
少しずつ高さが上がっていき、徐々に遠心力で振り回していく。当然安全バーは無しなので必死で椅子にしがみつく形だ。せめて手すりをくれ。
あと動力はなんなんだ。魔石か? 電気の代わりに魔石の力でやってるのか? まじでこのダンジョンなんなの?
ちなみに一人用なのでイリスは違う椅子に座っているはずだ。後ろに座っていたはずなのでいるとは思うが全くわからない。
そして加速し続けるこれもわからない。
地面と水平になって高速回転するものをアトラクションとは言わない。殺戮トラップというべきだろう。
椅子を支えている頑丈な紐がぶちぶちと嫌な音を立て始める。ちょっとまてやこれ死ぬだろ。
ご臨終だと思ったときようやく速度を落とし俺に地面のありがたみを教えてくれる。これも二度とのらねぇ。というか何故乗ったし俺。
「キミヒト、楽しそうだった」
「イリスにはそう見えたのか……」
「もう少しで紐切れてもっと楽しくなったのにね」
「……」
やっぱりイリスさん俺の事殺す気ですか?
というか今回のもどう考えてもイリスの仕業だしなんだったらイリス乗ってなかったし完全にロックオンされてるわ俺。
だれだよここがアトラクションでダンジョンじゃないとか言ったやつ。こんなデートスポットか遊びがあってたまるか。戦場よりやべえよ。
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