第60話 見えてますけど

 教会はそこまで大きい施設ではないが必ずどの街にもある。神の加護は大きいとされていてスキルもその一つと考えられている。


 宗教らしい宗教に発展している国もあるが、ここではそんなことはなかった。この街はダンジョンが主な生産になっているし、神の恩恵よりも自分の身は自分で守ると考える人が多いせいだろう。


 実際に存在してるかわからないものよりも自分の身体を信じると言うのは冒険者や探索者らしくてとてもいいと思います。


 でも教会管理してる人が全然いないっていうのもどうかと思うんだよね。


 神父さんとかいないのこの街。


 俺が訪れた協会はお世辞にも綺麗とは言えなかった。というか半ば廃墟と化している。茫然と眺めているとその理由を偶然通りかかった人が教えてくれた。


「本当は神父さんがいたんだけどね。ダンジョン探索に行ったまま帰ってこなくなったんだよ」


 何故神父が、と思ったがアンデットの多く出る場所で攻略するのもかなりきつかったらしい。ダンジョンだけでなく街にも被害がでるかもということで討伐に向かいかえらぬ人となったらしい。


 アンデットが多く出るダンジョン……屑鉄のダンジョンもそうだったから聞いてみたけど別の場所だった。


 別の神父が派遣されることにはなっていたらしいけど、いつまでたっても来ないため廃墟は廃墟のままになっていたようだ。ダンジョンはギルドでなんとか押さえきることができたらしい。最初からそうしてやれ。


 だがお礼を言うだけなら廃墟になっていようとも特に問題はないんじゃないだろうか。そう思うことにしてとりあえず中に入ってみる。


「おお……これはすごいな」


 廃墟となってはいるが一応教会。清浄な空気が流れているのがわかる。むしろ廃墟っぷりが趣を感じさせこのまま維持したほうがいいのではと感じさせる。


 透視を使ってみてもおかしな部分は全くないし悪いものが住み着いている様子もない。神父さんはこの教会に思い入れとかあったんじゃないかなって思う。


 せっかくなので先頭の椅子に座り女神に感謝を述べる。


 転生させてくれてありがとうございます。おかげでとても可愛いロリ達と出会えました。前世の夢だったロリとの生活も叶いそうです。ロリ最高です。ロリと出会えたことで人生が変わりました。ロリと会話することで世界に色が付きました。ロリが俺の身体を構成するのに必要な要素を持っていることを改めて実感しました。ロリにとって俺もそんな存在になれているようです。ロリと思いあう生活は最高です。もはや性活になりそうですが女神様のおかげですありがとうございます。


「はぁ疲れた……もう仕事したくない……」


 ……今まで何もいなかった空間に急に何かが現れた。これあの疲れ切った女神様かな。


「毎日毎日同じ作業の繰り返し……死んだ魂拾ってあげたのに感謝もされず罵倒される日々……まぁ罵倒してきた人は地獄のような世界に送り込んでやるからいいんですけど……」


 思わぬ暴露話が聴こえてくる。あの時積極的に異世界転生望んだ人たちはさくさく手続きが住んでいた。しかし騒いでた人たちはそれなりに時間がかかっていたように見えたけど、やばい世界を厳選していたのか。


 女神も大変だなぁ。


「しかしこの場所は人がいなくて楽ですねぇ。休憩スポットとして最高です。ん? おお、今日は人がい……る……? あれこっち見てますね」


 女神様は空中でだらしなく体を伸ばしぐちぐち言っていたが俺の存在に気付いた。だからと言ってだらだらをやめる様子はなく俺をじっと見つめている。


「気のせいですかね。強い祈りでもなければ人に見えるわけもありませんし。この世界で私の事が見えた人なんていませんし。そもそも祈られても逃げますし。うんうん気のせい気のせい」


「見えてますけど」


「うんうん気のせい気のせい」


「転生させてくれた女神様ですよね?」


「うんうん気のせい気のせい」


 どうあっても俺の事を認めないらしい。祈られて逃げる神様ってのもどうかと思うけどあの激務を見てたら逃げ出したい気持ちも少しわかる気がする。これ以上仕事増やすな的な意味で。


 善意で行っている行動、仕事かもしれないけどそれで罵倒され続けたら疲れもするわな。


「とっても美しい女神様、見えてますよ」


「いやー美しいとか言われたら見えてるって認めざるを得ないなぁ。迷える子羊よ、神のご加護があらんことを。じゃ」


「いや消えようとしないでくださいよ!? なんでそんな逃げの姿勢なんですか!?」


 逃げようとしていたが俺が声をかけたことで止まる。すんごいめんどくさそう。


「えー、じゃあ何の用でしょう」


「そこまであからさまに嫌そうな顔するってどういうことですか。普通に感謝しに来ただけですよ」


 俺の言葉を聞いて首をひねり、何を言われているのかわからない顔をする。しばらくそうしていると思い当たったのかすごくうれしそうに破顔した。感謝慣れしてなさすぎだろ。


「えええ! 私に感謝してくれるんですか!? 本当に! ありがとうございますありがとうございます! とっても嬉しいです私感謝されるために呼び出されたの初めてなんですやったぁ!」


 何この女神ちょっと可愛い。女神として人に感謝するのはどうかと思うけど不憫な生き方してきたんだなぁと思わされるわ。


 でも感謝されたことないってどんな世界に人を送り込んでるんだよ。


「え? 信者になりたい!? しかも教会じゃなくて私個人の!? いやーこまっちゃいますね! でもいいですよ! いっぱい感謝してください! 私が加護を授けてあげますよ! 何がいいですか!?」


 この人絶対騙されやすいと思う。褒め殺ししただけでなんでも言うこと聞いてくれそう。


「いやそういうのは良いんで。本当に感謝を伝えに来ただけなんですけどなんでそんなにテンション高いんですか」


 加護はくれるなら欲しいけどなんかだましてるような気がしてもらうのも気が引ける。それなら愚痴聞いてからちゃんともらうほうがいい。


 結果よりも過程を重視しちゃうよ俺は。


 ごめん嘘ついた。女神様面白いからただ話聞いてみたいだけ。面倒だから加護そのまま欲しいけどもらえたら帰っちゃいそうだし。


「神にもランクがありましてね、自分が担当した魂からの感謝によってランクが上がっていくんですよー。いろんな世界に送ってるんだけどみんな感謝してくれないんだよねー」


 そうだろうね。愚痴ってた人地獄に叩き落としたんでしょ? 感謝される要素が微塵も見当たらないんだけど?


「だからさー、もういっそのこと呼ばれてるところに適当に割り振ったりもしてみたんだけどそれでもだめでさー。もうやけになってるよね」


「やけになってたら感謝されるの難しくないですかね……」


「ランクあげするより好きにやった方が楽しいかなって」


 だめだこいつ早くなんとかしないと。……今日ダメなやつにしか会ってないな。フラフィーもそうだしロンドの連中もそうだしあかねもそうだし女神もそうとかおかしいだろ。


「でも君のおかげでちょっとランク上がったかな。こんなに感謝されたのは初めてだよーありがとー」


 敬語だったりため口だったり威厳が全く感じられない。聖なる力は感じるし浮いてるから女神っぽいちゃぽいんだけど俗物に染まりすぎてる感。


「女神様がそれでいいならいいですけども。感謝なんて毎日されてるんじゃないですか?」


 教会で祈りをささげている人は良く見る。どんな世界でもそれは共通事項だろうし教会の本部がある国なんてまさに大量だろう。


「いやーそうでもないんだよねぇ。普通は私個人にじゃなくて神全体にだから薄まっちゃうし、純粋な感謝を込められる人なんて一握りなんだよねぇ。みんなアレしてほしいコレしてほしいとか言ってくるし。他にも信託がどうとかで教会の人間には関わっちゃいけないし」


 そういう話はよく聞くな。神の声を聴いたから俺が一番偉いんだとか言って教会を私物化してどんどん悪い方向に進んで行くやつ。願い事しに来るのもあるあるだな。


「じゃあ俺のは女神様個人に感謝だったから直接届いたと。姿まで見せる必要あったんですか?」


 最初めっちゃぐうたらしてたし人に姿を見せることはないだろうと思う。というかあれで姿見せる事あるとか言われたら威厳がめり込んでいきそうだ。


「普通は見えないよ? 感謝が強すぎたんじゃない? 敬え!」


「ははー」


 とりあえず拝んどいた。ロリに会わせてくれてありがとう。転生してここまでハッピーなのはこの世界で俺だけだろうな。あかねもそのうち恩恵にあずかるだろうが。


 感謝のベクトルが性癖に偏ってるのはとても問題がある気がするけどしかたない。むしろその力で自分自身を取り戻したと言えなくもない。イリスがいなかったらどうなってたかわからんしな。


 あとはもしも他の勇者達の呪いが解けたら感謝も増えるだろう。それでどのくらいランクとやらが上がるのかはわからないがこの女神も喜んでくれるだろう。


 でも女神様も疲れてるみたいだしそろそろ帰るか。感謝も伝えたし充分だろう。


「それじゃ女神様ありがとうございました」


「待って」


 俺が声をかけて立ち去ろうとすると女神様は俺の事を止めてきた。物理的に俺が動けないくらい強固に。なんでやねん。ここまでしなくても止まるっちゅうねん。


「もう少し……ここにいて……」


 懇願するように語る女神は涙を流していた。今まで感謝されたこともない女神、その心情はどのようなものか。


 そこに自分を認識できるほどに感謝してくれる存在が現れたらもう少し噛みしめたくなるものなのかもしれない。自業自得とはいえ不憫な女神をみてると少し優しくしてあげようという気持ちもすこし沸く。


 それが俺がここに残ることで軽減されるなら甘んじて受け入れよう。でも唐突な緊縛プレイはやめてね。


「……はぁわかりましたよ」


「やったぁ君がいなくなると強制的に戻らなくちゃいけなくなるからね。眠かったから助かるー」


 女神はもう一度伸びをする。涙はあくびか何かですか。サボりたいだけかよこの女神。


 でも感謝の気持ちは本当だし、疲れてるのはわかりきってるから少しくらい付き合ってやるか。何かしらの加護もくれるっていうし。

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