第46話 ミステリアスガール

「キミヒトさああああん! 死んだかと思いましたよおおお!」


 安全地帯に入るとフラフィーが号泣して俺の胸に飛び込んでくる。あかねに肩を貸してもらっていたが、反対側はフラフィーが無理やり支えていた。ロリズは確実に届かないし、クロエはイリスに肩を貸していた。


「ごめんな、心配かけて」


「本当ですよ! もうやめてください!」


 胸に顔をうずめて泣きじゃくるフラフィーに不覚にもキュンキュンしてしまった。それにしても心配させて泣かすのは失敗したなあ。


 女の子を泣かすなら感動させるか笑わせるかのどちらかって決めてたのにこれじゃどうしようもねえな。


 俺は大丈夫だからとフラフィーの頭をなでながら落ち着かせる。ロンドの連中やあかねから微笑ましい視線を感じるがこの際良しとしておこう。


「それにしてもあかね、あのスキル助かったぜ」


 俺達が絶体絶命になった時颯爽と現れたあかね達、スキルの力で飛んできたがかなりギリギリだった。ダンジョンの階層またぎだとばっかり思っていたから完全に失念していた。


「ダメ元だったんだけどね。私も階層に飛ぶしか出来ないと思ってたんだけど」


「フラフィー、お手柄だった」


 あかねのセリフにイリスが補足をする。どうやら回り道に時間がかかりすぎると全員が焦っている時に、フラフィーがあのテレポートは使えないんですかと聞いてきたらしい。


 そしてあかねもその存在を思い出し発動させたところ、俺の位置に飛べることが出来たとの事だった。フラフィー命の恩人かよ。


「キミヒトの嫁は猫ちゃんだったか」


「羨ましい限りだねぇ」


「確かにキミヒトはたちっぽいもんな」


 うるせぇよ三番目。お前下ネタ好きすぎだろいいかげんにしろ。俺はどっちでもいけるっつうんじゃ。


「あかね、フラフィーもありがとな。クロエとイリスも凄かったぜ、ありがとう」


「私は何もしてないよ。ほんと飛んだだけ」


「私こそなにもしてません……。ただ言っただけで。みなさんが凄かったです」


 確かにフラフィーは言っただけかもしれない、しかしそれでも俺を助けるために知恵を絞ってくれたことが本当にうれしい。ネタキャラだと思ってたのに大誤算だわ。


 そして褒められたクロエとイリスは何とも言い難い表情をしていた。このロリっ子たちは何かありすぎだろう。ミステリアスなロリ可愛いなっていう思いしかないけど抱え込み過ぎだ。


 あとでお叱りしておこうな。


 安全地帯で休んで、俺は装備を整える事にした。まず服がほとんどなくなってるから全部着替える。これ収納なかったらたぶん買ってなかったから助かったわ。半裸で街中うろつくとか流石に勘弁。


 フラフィーはかいがいしく俺の世話を焼いてくれて、なんだか癒されるのが癪だったけど今回はいじらないでやろう。純粋に助かるし。


 しかしロリっ子たちはまだだんまり。言いづらいのもあるだろうし急かす気はないが、俺は彼女らの笑顔が見たいんだ。それにあの大技は俺を助けるためにやってくれたってのにそんなしょぼくれた顔は許さん。


「疾風のロンドのみんな、俺達話し合いがあるからちょっと待っててくれ」


「おう、といっても俺達も休む」


 ロンドのメンバーも装備の点検をするために自分たちのテントの中に入っていった。前人未踏の地の最初からこんなんじゃすぐばてちゃうからな、彼らにも提案しておかないと。


 でもまぁ、今はロリっ子のケアからだな。


「クロエ、イリス、こっちにこい」


「うん」


 いつもならイリスは俺の真横か膝の上とかに乗って誘惑して来るが、今回はちょっと距離を開けてクロエにぴったり。くっそかわいい写真撮りたい。


 じゃなくて真面目な話をしないといけないんだった。こいつら可愛すぎるから思考が乱されていけない。


「あの魔法についてだが、わけありなんだろう? だから今は特に聞かない……と言いたいところだがお前ら黙っていなくなろうとしてる気がするから今聞くぞ。何があってもお前たちの事逃がす気はないから言え」


「キミヒト、変態っぽい」


「っぽいじゃなくてそのものですよ」


「はいそこうるさいです」


 フラフィーの尻尾を思いっきり握る。声にならない叫び声を上げて思いっきり距離を取られる。おお、めちゃくちゃねこっぽい動き出来るんじゃないか。感動した。


「いや、と言ったら?」


「いまここで押し倒して体に聞く」


「……最低ね」


 クロエがあんまりにも暗い表情なので茶化してみたが元気ない。これは本当に押し倒しても抵抗されないやつだわ。周りに見られてるからやらないけど。いや見られてなくてもやらないけど。


「俺は言ったろ。いなくならないってさ。それに一緒に武器作りに行く約束だってしたじゃないか。もしクロエが人間じゃなくてエルフでもなくて獣人でもなくて、魔物だったとしてもその気持ちは変わらない」


「そう言えば、そんな事も言ってたわね」


「お姉ちゃん、言おう」


「そうね、キミヒトなら、信用出来るものね」


 そしてクロエとイリスは、エルフの里での事を語ってくれた。


 話の内容は前に話してくれたこと、それに付け加えて彼女たちの生い立ちだった。それは普通のエルフではなくハーフエルフだという事だった。


「私はヴァンパイアとのハーフ。言ってしまえばエルフからも嫌われた子ども」


「私は精霊とのハーフ。エルフ信仰の対象として崇められてた」


 クロエはヴァンパイアのハーフ、イリスは精霊とのハーフ。母親か父親か知らないけど節操無いにもほどがあるだろ。人の事言えた義理じゃない気もするが。


 あれ、そういえば俺吸血鬼がどうのこうのっていつか言ってたな。あれはたしか奴隷の女の子ならドラゴンか吸血鬼かとかそんなん。


 おいまじかよテンプレエルフかと思ったらテンプレ強種族だったか。あー、確かに言われてみればエルフって金髪のイメージなのにクロエとイリス銀髪だもんな。そんなもんなのかと思ってたわ。


 この世界のまじもんのエルフ見たことないけど金髪の予感がするよな。吸血鬼と精霊使いって銀髪のイメージあるし、イリスの魔法見て少し考えるべきだったかもしれんな。


「私は隔離されてたんだけど、イリスはずっとそばにいてくれた」


「お姉ちゃんの力は強すぎて、私が精霊を通して受け持ってる」


「イリスが離れるとどうなるんだ?」


「暴走するわね。だからイリスも一緒に隔離されることになったのだけど」


「お姉ちゃん、好き。離れたくない」


 大人たちは信仰の対象であるイリスをクロエから離そうとしたらしい。しかしクロエの魔力の暴発を恐れて結局は二人とも隔離との事らしい。


 それでもイリスは信仰されていたので二人とも悪い待遇にはならなかったのが幸いか。里が冒険者に襲われた時も遠くにいたから大丈夫だったのはやっぱり隔離されてたんだな。


「あとは……うん、また後で話すね」


「全部話すのはミステリアスガールとして恥。許せ」


「はいはい。それ以上何かあるのはわかったけどなんかやばそうだから今は突っ込まないでおくわ。とりあえずこっちこい、いやいくわ」


 俺は疲れ切った体を無理やり起こし、ロリ二人を抱きしめる。俺が一方的に幸せを感じてるけど、きっと安心させられるだろう。二人には温もりが足りてない。


「お前たちが何者でも良い。その気持ちは変わらない。むしろヴァンパイアって聞いてちょっとときめいてるくらいだ。いつでも血吸っていいぞ」


「じゃあ遠慮なく」


「まじで!?」


 肩口にかぷりと噛み付いてくるクロエ。あ、これやばい。柔らかい唇の感触だけじゃなく湿った口腔内で触れる舌の感触。興奮度合いが桁違いに跳ね上がる。


 そしてぷつりと肌を突き刺すような痛みが走ったかと思うと、意識が飛びそうになるほどの快感が脊髄を走り抜ける。なんだ、これ。


 もっと味わっていたいと思う気持ちの中、クロエは口を離す。


「ふふ、もらってやったわ」


「お、おう」


 その笑顔はいつものロリっ子の笑みではなく、成熟した女の妖艶の笑みを連想させるものだった。

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