第38話 たったそれだけの事

「キミヒト……?」


 翌日、クロエが俺の部屋を訪ねてくる。俺の事を起こしにきたのだろう。だがその声に反応する者はそこにはいなかった。


「ねぇ……ちょっと」


 それでもクロエはまるでそこに人がいるかのように声をだす。しかしその声は誰にも届くことはなく、静かに部屋に吸い込まれていく。


「うそよね?」


 いなくなっていると、確信を持つことが出来ないでいる。昨日まであんなに元気だった人物がそこにはいない。


 たったそれだけの事、しかしそれは想像以上のショックをクロエに与えていた。


 そしてクロエはその人物がいたであろう、大き目の布がかけられた寝床に向かって手を伸ばす。


「冗談はやめてよ……」


 そしてクロエが泣きそうな声を出し、何がいけなかったのか考えようとしたときそれは目に入った。


「え、キミヒト何してるの?」


 俺は部屋の隅で体育座りをしていた。


 朝食付きの宿のため、クロエ達の部屋で食事をすることにする。部屋で食事が出来るのはとても便利だ。探索者が周りに聞かれたくない話をするためにそういう措置を取って常習化したんだろう。


 というか他の街で指名手配されている犯罪者とかも普通にいるので、同じところで食事させて問題が起きるくらいなら部屋で食事させるかという考えかもしれない。もしかしたら起きた後かもしれないが。


 ちなみにクロエは終始無言。俺も無言。みんなも無言。イリスだけは通常運転でおいしそうに食事をしている。外の食堂で食べたほうがおいしいが、混んでいるので行くのをやめた。


 というか俺が動かなかったのでみんなが気を利かせてくれたと言ったほうが正しいかもしれない。


「あれ、どうしたんですか?」


「昨日泣いてたしどんだけ悔しかったのか」


「大丈夫なんですか?」


「ほっときゃいいでしょ。フラフィーちゃんは心配性すぎるよ」


 フラフィーとあかねが俺の事をこそこそと話している。そうだよ俺はふてくされてるよ。ロリの空気に満たされた部屋で寝たい人生だった。


「お姉ちゃん、キミヒト、元気ない」


「そうね」


「お姉ちゃん、怒ってる?」


「……そうね」


 クロエは俺の方にちらっと視線を投げかけて答える。妹の質問には素直に答えるあたり本気で怒っているようには見えないが。


 イリスはクロエの態度に疑問符を浮かべていたが、怒りというよりは呆れの感情が強いクロエの事は気にしないことにしたようだ。聞いても答えなさそうだと思ったのだろう。


 そうだろうな。俺がいなくなったと思ってかなり寂しそうな声出してたもんな。位置的にちゃんと見えなかったからわからないが苦しい表情をしていたに違いない。そしたらただふてくされて部屋の隅で気配消してただけとかキレても良い。


 そして俺はクロエから制裁が飛んでこなかったことに衝撃を受けている。というかふてくされてたら結構まじに心配されて申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


 クロエの反応のおかげで愛されているとわかった俺はかなり元気になったが、ぼっちにされたことはまだまだ根に持っています。


「キミヒト、怒ってる?」


「怒ってないよ」


 イリスが俺の横に来て声をかけてくる。平常運転だからこそいつものように接してくる。隣に座られるだけでなんだか癒されるわ。神かよ。いや女神だわ。


 俺はふてくされているので出来るだけそっけないような態度を取りつつ優しい声をだす。本当に怒ってないけど拗ねてますよアピールだ。


 あかねは心底呆れた目をしているが知らん。フラフィーはなんだか微妙な表情をしているがイリスに任せるつもりのようだ。


「キミヒト、今日は私とねる?」


「やったぜ!」


 イリスからお誘いの言葉をいただいたので俺は完全に復活した。


「最低」


「最低ですね」


「……」


 元気になったのでニコニコしながら残りのご飯を食べる。イリスもそれで役割を終えたとばかりに食事に戻る。


 あかねとフラフィーからは蔑んだ視線をいただけたので個人的にはプラスの事しかない。ちなみにクロエはまだ無言。やべぇ、遊び半分だったのにまじで怒らせてしまったかもしれん。


 呆れてるのもあるだろうけど何かフォローしとかんと申しわけねぇ。


「キミヒト、このあと話があるから」


「あ、はい」


 呼び出しを食らった。ロリから呼び出しされるとかドキドキが止まらないぜ。というわけでみんなが装備の準備中、クロエと俺は俺の部屋にいた。


 装備の準備といってもたいしたものはないが、俺とクロエとイリスはまじでなんもない。けどフラフィーとあかねはちゃんと装備してる。偉い、ちゃんと冒険しようという意思が感じられる。


 俺? 結構なめてるよ。


「キミヒト、今度からはああいうのやめてよね」


「ああいうのって?」


 結構どころかめちゃくちゃ真剣な顔で問い詰めてくるクロエに思わず聞き返してしまう。


「急に、いなくなったりとか……姿隠したり、気配消したりとか……」


「……」


 だんだん声が小さくなっていくクロエ。え、めっちゃ可愛いんだけど。あれ、マジで寂しくて怒ってた系統のあれなの。怒られるのは俺がバカみたいなことしたからだと思ってたんだけど。


 真面目な雰囲気に俺がおろおろしているとクロエは続ける。


「不安にさせないで……ずっと一緒にいるって言ったじゃない」


「ご、ごめん」


 顔をうつむかせてそれは卑怯だろ。庇護欲掻き立てられすぎる。


「なんであんなことしたの?」


「なんでって、ぼっちは寂しかったからだけど」


「……それなら、誰か呼べばよかったじゃない。イリスとか、喜んで来るでしょう?」


 その手があったか。いや確かに泣きながら速攻部屋に飛び込んで寝たのは俺だけど。え、呼んでよかった? あの雰囲気は一人で部屋ひきこもってろカスっていうギャグ的な流れだと思ったんだけど間違えてた?


 でもまぁここでの返答はこれだろうな。


「クロエじゃ、だめなのか?」


 とか、と言ってるのを俺は聞き逃さないぜ。女の子、それも好みのロリに対してなら甘い言葉を吐くことに微塵のためらいもない。


 好みのロリじゃなくても面白いことになりそうならいうけど。フラフィーとかからかうと楽しいし。


「別に、ダメじゃない……」


 恥ずかしそうにしながらフードを深くかぶる。俺は死んだ。可愛すぎかよ。魅了なんて使われなくたって俺は常に魅了されてるんだが? いい加減俺をこの幸せという地獄から助けてくれ。


 可愛い女の子に囲まれながら冒険して、幼女に愛されて、これ以上何を望む? そろそろ本気で理性いらないんじゃなかろうか。理性があるから地獄を見てる。理性捨てたい。


 でも捨てたら楽しいハーレムパーティ終わりそうでつらいなあああああ。このセルフ焦らしプレイすらも楽しめるように性癖を歪めていく方針を取るしかないのか。


「何かいいなさいよ」


「可愛い。好き」


「ばか。みんなの準備も終わっただろうし行くわよ」


 結局最後まで目を合わせずクロエは扉を開けて出て行った。正統派ツンデレヒロインって感じでとても好き。でもルートにはまだ入らない。


 攻略ルートに入るときはまじでどうしようもなくなった時だ。一人を選ばないと死ぬみたいなそんな時。まるで死亡フラグみたいなやり取りだったから注意しとこ。

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