第13話 傲慢さの果てに……
55 度し難い〝傲慢さ〟だな……
登場人物
・カール=ヨーアン・イェールオース:
帝国宇宙軍戦艦ベーオゥ艦長、代将大佐、31歳、男、ベイアトリス貴族
・ガブリエル・キールストラ:
帝国宇宙軍巡航戦艦トリスタ艦長、大佐、32歳、男、イェールオースの腹心の友
・アーディ・アルセ:装甲艦アスグラム艦長、大佐、39歳、男
・エリン・ソフィア・ルイゼ・エストリスセン:
ミュローン帝国皇位継承権者、18歳、女
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6月13日 1530時
【
進駐軍の指令として
この時点において未確認艦の動向など、この際どうでもよいことであった。留守を預けた次席指揮官のガブリエル・キールストラ大佐が上手くやるのは疑うまでもない。むしろ問題は
イェールオースは未確認艦の件で
1番
イェールオースが答礼を終えるや、キールストラはその横に歩調を合わせて訊いた。
「聞いたか?」 その声音は硬い。
「──聞いた」 イェールオースは短く答える。
「〝
キールストラは不愉快さを隠そうとせずに傍らの友の顔を窺った。「──正気なのか? ……『
「いや── もはや正気ではないのだろうな」
同じく不愉快そうな
シング=ポラス星系でのエリン・エストリスセンの行動を
トシュテン・エイナルは、〈ミュローン連合〉中興の祖、
今年十六歳でエリン皇女とは
そんな出自の、しかも自らは何らの〝実績〟を示していない少年を〝皇子〟として担ぎ、
エストリスセン家に
二人の大佐はそれぞれの幕僚を引き連れ、
「──
「動揺はない──」
キールストラは言下に応える。「ミュローン筆頭星系ベイアトリスの〝筆頭家門〟たる〈イェールオース〉が率いる艦隊だ ──
さすがにそれは言い過ぎだ──と内心で苦笑しつつも、イェールオースは腹心の友の横顔を見て微笑んだ。
自分の
「星系辺縁に現れた航宙艦は?」
「友軍だった。
キールストラは静かに応じた。「自力で航行しているが片舷の推進力を失っている……大破判定だ」
──ほう、とイェールオースは目線を上げた。
〈アスグラム〉の指揮はアーディ・アルセ大佐が執っていたはずだ。よもや航宙軍の練習巡航艦相手に後れを取ることになろうとは。そんなことは露とも思わなかったが、どうやら
キールストラは続けた。
「既に〈ヴァリェン〉と〈デルフィネン〉を曳航に向かわせた」
麾下の4隻の大型フリゲートのうちの2隻を救援に差し向けた旨を告げる。イェールオースは一つ頷いて追認した。そして確認する──。
「──気になることは?」
「二つ」 キールストラは簡潔に応じる。
イェールオースが目線で促がすと、キールストラは続けた。
「一つは、その〈アスグラム〉から……」
声を潜めるような
「秘匿回線でか……?」
イェールオースは怪訝な
「卿と俺とを〝御指名〟だ」
そう言ったキールストラに、イェールオースは肯いて返した。何にせよ、
「二つ目だが……」
今度のキールストラは目を伏せるようにして言った。「──スノデル伯のことだ」
これにはイェールオースも舌打ちで応じるしかなかった。
スノデル伯クリストフェルはエリン・エストリスセンの実父である。元は大学で教鞭を執っていた
エリン皇女の人格形成には、やはりこの学者肌の父親の影響が大きい。
今回の政変とそれに続くエリン殿下の行動にも、伯は一切関知していないだろう。自身の信条を過剰に主張するようなことのない人物である。彼にとっての行動とは、あくまで他者との〝対話〟なのであり、良くも悪くも〝それ以上でもそれ以下でもない〟ということを実践することのできる、そういう人物であった。
そのスノデル伯が、フォルカー卿の命でその身柄を当局に拘束されたらしい。
情報本部付きのエアハルト・モンドリアン大尉からの情報である。二日前のことであった。
先の〝五世の孫〟──トシュテン・エイナルの立太子絡みの件と併せると、もはやフォルカー卿はエリン皇女の排除で腹を括ったとみてよい。
ベイアトリスの一門衆にとって帝国政府の『
「一門の長老衆は何と言うだろうな?」
「トシュテン・エイナルの擁立には反対するしかないな」
イェールオースの問い掛けに、キールストラは肩を竦めて言う。「──やはり〝慎重〟にではあるだろうが……」
「〝ミュローン二十一家〟は割れるな……」
イェールオースはそう独り言ち、ふと湧いた思いを口にした。
「伯は助からんか」
「おそらく……」
イェールオースの慎重な物言いにキールストラは肯いて言った。
「──
ミュローンの二人にとって、スノデル伯が〝死ななければならない〟という現実については、単にエストリスセンの家の置かれた状況を示す〝符牒〟の一つでしかない。
──度し難い〝傲慢さ〟だな……
そう自らを嗤ったイェールオースが、次に顔を上げたタイミングで
〝ギガンティシュ〟の愛称で
イェールオースは〝
「ミュローンが割れるにしても、ベイアトリスが割れることはない…… それぞれがそれぞれの役を演じるだけだ」
その時にはもう、イェールオースはミュローンの
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