第11話 宙賊の街──〝扯旗山〟(前編)
48 退屈? ユウちゃん──
登場人物
・タカユキ・ツナミ:HMSカシハラ勅任艦長、22歳、男
・ユウ・ミシマ:同副長兼船務長、22歳、男
・シホ・アマハ:同主計長兼皇女殿下付アドバイザ、26歳、女、姐御肌
・ガブリロ・ブラム:
星系自治獲得運動組織"黒袖組"のシンパ、学生、26歳、男
・フレデリック・クレーク:
シング=ポラス選出の帝政連合議会の議員。40歳、男、自意識過剰
・カルノー:アスグラム宙兵隊長、宙兵隊少佐、35歳、男
・オーサ・エクステット:宙兵隊上級兵曹長、25歳、女、接舷攻撃支援機小隊長
======================================
6月16日 1100時
【〝
接岸している船舶のほとんどが〝
憮然とした
彼らにしたところで、見る者が見れば
──実際、今回の人選についてはそのようなものだ……。
などと、ミシマなどは本気でそう思っている。
ツナミ艦長による人選──〝
ユウ・ミシマはミシマ家の直系の子息で、一方の当事者に近しい存在である。言わば宙賊どものスポンサーの関係者という立場で、ミシマ家との折衝にも必要な存在であった。それに艦長のツナミ自身が交渉に臨めないのであれば、彼の代わりはミシマ以外考えられなかった。
シホ・アマハはかつて『ミシマ商会』の副社長室にいた。商会と宙賊との〝商い〟の流れを知る立場だったことを自ら明かした以上、首領と〝渡りを付ける〟のは彼女の役割だった。
ガブリロ・ブラムはその政治的センスはともかく『法制度』には明るかった。──ツナミとしては〝宙賊〟が相手の折衝とはいえ、明らかに法律に抵触するような取引はしたくなかったので、そうであればこれは彼の専門領域であるし、ミシマとアマハが付いていれば変な方向に話が逸れるということもないだろうと、そう判断したわけだ。
フレデリック・クレークの選出については、当初ツナミは全く考えていなかった。
そもそもミシマ家の〝闇〟とも言える宙賊との関係を、この俗な政治家に話すつもりはなかったツナミである。だが
警戒するツナミに、クレークはミシマ家と宙賊との関係についても話してみせ、事も無げに〝蛇の道は蛇〟だと重ねて言った。それでツナミは、どうやらこの男は俗ではあるが無能ではなかったらしいと、自らの考えを改めた。
彼らを宙賊の根城まで送り届ける役目は、先に
ただし彼らはあくまで皇女殿下に隷属する立場であり、建前の上で
6月16日 1120時
【〝
〝
──仮にも〝ミシマ〟の治める地だ…… 〝目を覆うような〟場所であるはずないか……
心中の二人の兄の浮かべる苦笑のイメージを、その心の中でだけ、顔を顰めて振り払う。
いま彼は、〝潜入〟用のカジュアルな私服──白のスーツにデニムのシャツ──という何とも〝チャラい〟出で立ちで、視線の先のアマハが公共空間の固定回線のブースから交渉の仲介者宛てに連絡を入れているのを見遣っている。
通話を終えたアマハが、飛び出したブースから〝軽やかな足どり〟で近寄ってきた。手なんか振って〝はにかんで〟
アマハはプルオーバーのトップにガウチョパンツといった
二人とも普段からは決して想像できない姿だった。
ミシマの
「いま車を回してもらったから…… 退屈? ユウちゃん──」 アマハが
ミシマの方は──
「──そんなことはないよ〝ハニー〟」
そこまでは周囲に聞かせるようにして、あとは声を潜めて囁く──「(何の悪ふざけです……‼)」
アマハは、常の彼女らしくなく、何やら投げ遣りな感じに応えた。
「──〝少しお
言って小さく口を尖らすアマハの横顔に、不覚にもミシマは言葉を失った。
──それじゃ、せめて〝
そんな言葉が喉まで出掛かる。何とか堪えたミシマが言ったのは、別のことだった。
「──じゃ、その〝ユウちゃん〟というの、やめてくれませんか?」
「この街で〝ミシマ〟の名を出したいの?」
「…………」
「ガマンなさい ──せめて〝ダーリン〟にしといてあげるから」
このタイミングで音もなく黒塗りのリムジンが一行の前に停まった。背は低いが丁重な物腰の男が降りてきて、アマハ達に扉を開いて乗ずるよう促す。ミシマは両腕を広げるようにアマハの上体を開放して、彼女が乗車することができるようにした。
6月16日 1145時
【〝
〝
『……練習艦隊の高級幕僚の一人が艦隊の資金を自己の投資先で運転して焦げ付かせてしまった。彼はその穴を埋めるために〝
──と、まあ、こんなところである。
もちろん〝宙賊〟側も『商会』の側も、上層部はユウ・ミシマとシホ・アマハの素性を知っている。このような与太話が一顧だにされようはずはないのだが、末端の構成員は元ミシマ商会外事課の〝お
〝元『ミシマ商会』外事課の女〟が〝ミシマ家の御三男〟を連れ、『商会』の
果たしてアマハの目論見の通り、〝海賊〟の側からこうしてリムジンが回されてきた。
輸送機器としては完全に
小惑星の内側を
一行を乗せたリムジンは、内部の空間をかなりの距離移動して幾層か階層を降りた末に、目的地と思われる〝池〟のある広大な庭の中の瀟洒な建物──『宙賊館』へと近づいて行く──。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます