40 総員! ──衝撃に備え‼
登場人物
・タカユキ・ツナミ:HMSカシハラ勅任艦長、22歳、男
・コトミ・シンジョウ:同船務科主管制士、23歳、女、ツナミの幼馴染み
・トウコ・クリハラ:同砲雷長、22歳、女、通称『氷姫』
・ユウ・ミシマ:同副長兼船務長、22歳、男
・イツキ・ハヤミ:同航宙長、23歳、男
・エリン・ソフィア・ルイゼ・エストリスセン:
ミュローン帝国皇位継承権者、18歳、女
・カルノー:アスグラム宙兵隊長、宙兵隊少佐、35歳、男
・オーサ・エクステット:宙兵隊上級兵曹長、25歳、女、接舷攻撃支援機小隊長
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〝
一小隊三機の接舷攻撃支援機に纏わりつかれた巡航艦に、レーザー砲撃を警戒して展張された濃密な
6月11日 0845時
【H.M.S.カシハラ /
「──敵機動機、
この状況に至るまでカシハラは、機動機の小隊に対し2発ずつの
「くっそ…… これ以上近くにまで入り込まれたら……っ」
近距離防御管制を受け持つヨウ・ミナミハラ宙尉は、敵機動機の取る〝いやらしい〟距離感──
「……砲雷長! パルスレーザ、対空戦闘? 指示を──」
比較的有効射程に幅を持ち追従性能にも優れるパルスレーザで敵機動機を追尾迎撃するか、その判断を砲雷長であるトウコ・クリハラ宙尉に仰ぐ。そのやり取りには、砲雷長が応えるよりも早く、つい先日まで戦術長補だったタカユキ・ツナミ艦長が割って入って応えた。さすがに速い。
「──パルスレーザー、機動機を目標、指命撃方──後部5番から8番を使え! ミナミハラっ、機動機の方はCICの指示のもと貴様が対応しろ‼ 電測管制は接舷艇の動向だけ伝えてくれ! 機動機の方は逐次報告しなくていいっ」
「了解っ!」 ミナミハラは
「──了解」
コトミはツナミの指示に従い、敵の接舷航宙機動艇の動向に絞って報告を上げた。「……接舷艇──〝エコー01〟と呼称──
「砲雷長──パルスレーザー1番から4番、左砲戦!」
「…………」 この指示にクリハラは艦長席を見遣った。「──
その密度にもよるがパルスレーザは散乱砂の幕の中では減退が激しいし、そもそも閉ループ制御系の射撃統制では目標検出時のノイズで着弾観測の精度を落とす。砲雷長であるクリハラには有効な射撃精度を得られるとは思えなかった。
「牽制はする」
戦術科の上役を務めていたツナミがそう言って頷いて見せたので、クリハラも頷き火器管制卓に向き直る。
「──左砲戦、2番砲塔、3番砲塔……セクタ・グリーン、9時の方位、37000の目標」
砲雷長の目標の指定を確認し、ツナミは号令した。
「撃ち方はじめ!」
「撃ちーかたはじめ」 クリハラは短く息を吸ってから復唱、
カシハラの左舷、2番と3番のレーザ砲塔が敵小艇を指向する。普段であれば目にすることのない火線が、高密度の散乱砂の幕が焼かれることで微かに瞬いて見える。
6月11日 0845時
【H.M.S.カシハラ /艦橋】
その火線を艦橋の窓に降ろされた装甲シャッタの内側に映る映像で見遣った副長──ユウ・ミシマは、状況を
「航宙長 ──
「──あと13分20秒」
ミシマは今度は〝舵輪を握る〟マサミ・コウサカ宙尉を向いた。
「操舵士 ……用意は?」
「OKだ、任せてくれ」
「機関はどうか──」
最後に手元の端末から機関長のユキオ・オダを呼び出す。
「──
スピーカーの音量をそっと上げて、オダの落ち着いた声が指令席に座るエリン皇女殿下の耳に入るよう計らう。
そのタイミングで、
ミシマは〝実戦〟の展開の速さに、内心で冷静さを装うことが難しくなってきたと感じ始めていた。
エリンは表情を変えず、ミシマらに一つ頷いた後は、ただもうすっと前方を見ている。
6月11日 0850時
【
巡航艦のパルスレーザの砲身に指向され回避機動に入った接舷航宙機動艇の指揮卓で、カルノー宙兵隊少佐は複合モニタの戦況を見やりながらタイミングを計っている。
オーサ・エクステット宙兵隊上級兵曹長が率いる接舷攻撃支援機3機は、間もなく
思いの外、巡航艦の抵抗は激しく、その能力を侮ることはできないと、そんな思いを新たにさせられたものの、カルノーに焦りは無かった。母艦のアスグラム艦長、アーディ・アルセ大佐からは、必ずしも接舷移乗を強行する必要のない旨、指示を受けている。
オーサ・エクステットは、目の前に〝浮かぶ〟巡航艦からの間断のない対空砲火に、生きた心地のしない思いで機動機を操っている。
オーサの接舷攻撃支援機小隊はレーザ砲に指向されるや一気に距離を詰めたのだが、近接防空域に入られた巡航艦がいざCIWSを起動させると、
その上、レーザ砲の半数がしつこく追尾してきていた。オーサはレーザ砲に捕捉された警報を耳にするや、
──こんな〝裏技〟…、実際に行うことになるなんて……‼
彼女にとって〝仇〟でもるこの
──この艦にエリン皇女殿下さえ乗っていなければ……‼
6月11日 0850時
【H.M.S.カシハラ /
各砲座の残弾計の表示がアッという間に半減し、いまもさらに減っていっているのに、砲雷長のクリハラは、思わず白い顔をツナミに向けた。しかしツナミはとり合わない。手練れの〝機動機乗り〟の操る接舷攻撃支援機を
「接舷艇の方はどうなっている?」
ツナミはもう一方の脅威に意識を向け直す。
「──
砲雷長のレーザ砲による牽制は最低限の効果を挙げていた。この相対位置であれば
『艦長──』 左舷
いったん
ツナミは装甲艦のその動きを判ってはいたが、何を出来るというわけでもなく放って置いた。が、現実に
6月11日 0858時
【
モニタの中の戦況を食い入るように見入っていたカルノー宙兵隊少佐は、もう一度時刻を確認した。
──時間だ……。
「〝仕掛け〟の準備は?」 カルノーは
「──いつでもいけます!」
力強く肯いた管制士に、カルノーは重ねて訊く。
「アスグラムは?」
「下方、距離8千を逆ベクトルで並進中── 相対速、マイナス12キロ毎秒……(相対)位置、替わりました」
カルノーが心の
叛乱艦──カシハラが
「よし! やれっ」
カルノーは管制士に指示を下した。
そして管制士が復唱するのを聞きながら、モニタに映る艦影に、知らず問い掛けていた。
──さて、訓練生諸氏にこの〝
6月11日 0859時
【H.M.S.カシハラ /
カシハラが
これまで
突如艦の周囲に現れた複数の熱反応に、CICのコトミは声を張り上げた。
「──熱源! 推進剤の点火と推定!
艦内にたちまち
「まさかの直接攻撃⁉ ──皇女殿下が乗っていれば当てては来ないんじゃなかったの……」
電測員のジュンヤ・タカハシの裏返ったその声に反応する士官はいなかった。
「砲雷長!」
ツナミは艦長席から砲雷長のクリハラを向いた。一々指示を確認するのでは間に合わない。──ツナミの目線を受けクリハラは、『
「CIC指示の目標、レーザー砲、対雷撃射撃はじめ!」
軌道遷移の加速を開始したカシハラは回避機動を取ることができない。またこの至近距離では
艦の両舷8基16門のパルレーザは、CICの目標指示のもと、連接された
目に見えぬ火線が、
6月11日 0900時
【H.M.S.カシハラ /艦橋】
カシハラのパルスレーザの弾幕は、最適の
だが正面──
『SSDSの指示、間に合いません!』「──ダメだ! 抜ける……っ!」
「──宙雷1発……来ます‼ ──〝直撃〟ですっ!」
その1発は──狙ったわけではあるまいが──、当に艦橋の在る03層へと真っ直ぐ直撃コースを進んで来る。
「(くっ……)」 航宙長席のイツキは、様々な悔恨と共に歯を喰いしばった。
「総員!」
副長席のミシマは、それが無駄なことだと解ってはいたが、側らの席に座るエリン・エストリスセンの身の前に立って、装甲シャッタの降りた艦橋の窓の外から向かい来る
「──衝撃に備え‼」
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