19 ……だから厄介だと言っている
登場人物
・アーディ・アルセ:帝国宇宙軍装甲艦アスグラム艦長、大佐、39歳、男
・メルヒオア・バールケ:帝国宇宙軍情報本部付特務中佐、34歳、男
・マッティア:アスグラム第一副長/航行管制、中佐、36歳、男
・ネイ:アスグラム第二副長/戦闘情報管制、少佐、31歳、女
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6月6日 1340時
【アスグラム/ 第一
艦長席のアーディ・アルセ大佐はメインスクリーンに映る航宙軍の
1時間程前に大桟橋を離れ我が軍の特殊作戦艇を振切った巡航艦は、現在は
聞けばこの
そんな
「それでこの巡航艦は、二度にわたって情報部の特殊作戦艇の接近を跳ね除けたというわけだな?」
『そのようです……』
メインスクリーン端に
言い淀んだ理由は、艦長席横の予備席に座る情報本部付特務中佐メルヒオア・バールケの心証に配慮したからだろう。バールケは表情を崩さずにいる。
『──航宙軍4等級練習艦カシハラ ……モガミ型大型巡航艦の練習艦
同じくスクリーン端に
練習艦という航宙軍の公式発表を信じてよいのか、という意味だ。
仮に練習艦としての
そして航宙軍がしばしばこういった欺瞞を行うことを
「少なくとも機動機3機は撃墜された──
アルセはそう言うと傍らのバールケに問い直した。
「それでこの
「その公算が極めて大です」
バールケは簡潔に答えた。
どのみち特殊部隊が航宙軍艦への接舷移乗に失敗した時点で情報本部による皇女殿下の〝救出保護〟の目論見は潰えている。本事案の情報本部主導はあり得ない。それならば情報を全て提供し協同するのが合理というものだ。
『では砲戦での撃沈はできませんね』『──これは厄介だな……』
ネイ少佐が静かに言うとマッティア中佐が渋い
アルセはバールケに重ねて訊いた。
『航宙軍からの働きかけは期待できないのか?』
「そちらの線も進めています」
『拘束した艦長以下の幹部乗員を使うのか?』
「艦長殿に説得して頂くことになるでしょう」
情報本部は外交部局とも連携し、オオヤシマの航宙軍艦隊本部からの武装解除と投降の
『──ですが、
バールケとマッティアの会話に割って入るようにネイ少佐が生真面目に主張した。
当局を介して皇女殿下の身柄引渡しを要求することは、本国の軍令部も了としていることである。問題は皇女殿下が過激な独立自治運動組織である〝黒袖組〟のシンパと共に行動していたことだった。
──
仮に
最悪、皇族を人質に取られようとも
『……だから厄介だと言っている』 ネイの指摘に苛ついた声のマッティアが応じる。
もはやこの
航宙軍の巡航艦に入ったエリン皇女殿下は、この時点において皇位継承権第一位であり唯一の継承権者となっている。
もし原理原則に従って皇女を失うことになれば、その時には帝政連合の統治権は成立時の取り決めに従って
「何れにせよ、攻撃再会ということになれば接舷攻撃ということになる」
アルセは場をまとめた。「……だがその前に、再度の武装解除と投降を呼びかけるとしよう ──人質の解放もな」
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