Cream puff. 3
二階はカップルが多く、一階とは違う別の雰囲気を醸し出していた。
三番テーブルについていた春香、由香、晶、航治の四人はそんな雰囲気を全く無視して勝手に楽しんでいる。
「あははは、おや?」
由香が笑いながら店内をぐるっと見渡した時だった。
何処かで見たことのある顔を見つけた。
「あれ? あの背の高い子は弘明君じゃないの」
「弘明? 祐介の弟分か」
四人は一同、窓際のテーブルに座る人達を見た。
そのテーブルには三人座っていて、二人の男の子と一人の女の子が向かい合うようにして座っている。
三人とも口を頑なに閉ざしている。
なんだか重々しい雰囲気だ。
「わけありって……ヤツだな」
明がポツッと言った時だった。由香が目を輝かせながら叫ぶ。
「三角関係、愛のもつれよ! 中学生は進んでるねー」
「ゆ、由香さんっ」
春香ははしゃぐ彼女の口を押さえるが、止められそうになかった。
「んー、面白そーじゃん。青春してるねー」
明もそのノリに加わり、二人のハザマを春香は翻弄されることとなった。
呆れて航治は目を反らした。
彼らとは付き合いきれない、そうため息を付きながら階段の方を何気なしに見た。
その時、そこから祐介と晶がくっついてやってくるのが目に入ってきた。
「祐介」
「ん! 祐介? あ、ホントだ。しかもツレがいる」
航治のつぶやきに三人は即、顔を突き合わせた。
気づかれないよう振り向くと、二人は亜矢と良晃が座っているテーブルに座った。
航治はおさげ姿の晶と祐介を見ながら、
「竹林さんとは、別れたのかな?」
言葉を漏らす。
明は目を細める。
「祐介の趣味はああいう子なのか」
由香と春香は互いを見つめ合い、ため息を漏らした。
どうせ恵のことだから、ぼんやりしてて別の子に取られたのだろう。
「……そうか、何でもないんだ」
航治は目を伏せ、一口紅茶を飲んだ。
亜矢と良晃の席に相席した祐介と晶。亜矢は冷たい目で二人を見下していた。
*
「祐介、チッとは気をつかってくれよ。折角美香が追試の勉強で、今頃ヒーヒー言ってる隙に良晃とたのしーい時間を過ごしてるってのに……」
「あははは、ごめんなさい。ちょっと訳ありで」
「訳あり? 晶とデートするのが訳ありねー、祐介」
「まあまあ」
皮肉っぽく亜矢は祐介に愚痴った。
隣に座る良晃は苦笑しながら彼女を宥めるも、怒りはおさまりそうになかった。
愛がオーダーをも持ってやってきたのはそんな時だった。
祐介の姿を見つけると、まっすぐやってきた。
相変わらず彼女の顔には笑顔は見られない。
テーブルにティーセット、ケーキスタンドを置き、晶の前には白いものが入ったマグカップを置いた。
「ち、ちょっと、愛! これまさか牛乳じゃ……私、頼んでないし牛乳嫌いなの知ってるでしょ」
「牛乳は栄養価が高いです、と英美が言ってました。ごゆっくりどうぞ」
そう言い残してサッサと帰ったいった。
晶は、目の前に置いてかれた白い飲み物を見るのも嫌だった。
そっとテーブルの真ん中に押しやると、慌ててマグカップに触った手をおしぼりで拭った。
「晶さん、そんなに嫌いなの?」
「大嫌いよ、匂いがね」
晶は祐介にぼやいて涙ぐむ。
戻ったら、英美に仕返ししてやる。
「牛乳には本来、味も匂いもないんだけどね」
「祐介、それは絞り立ての時だろ。高温殺菌はタンパク質の焦げた匂いが付いて嫌な匂いの元になる。晶はそれを嫌って言ってるのさ。でも匂いのない低温殺菌のもある。牛乳嫌いの晶にもそれなら飲めると思うぞ」
亜矢は笑いながらケーキをフォークで一口食べる。
そう言われても晶は嫌な顔をしていた。
「店で使っているのは低温殺菌だから大丈夫だよ。それに愛さんが言ってたように牛乳にはいろんな栄養を含んでる」
「祐介、ちょっと待った! 牛乳は確かにいろんなものを含んでいる。でもカルシウムとリンが特に多く、鉄やビタミンA、C、Dはちょっと少ない。赤ん坊には不向きな飲み物で、幼児期より早くから飲ませてるとアレルギー体異が出来るってきいたことある。何よりビタミンEを含んでいない。特に不向きな生活してる現代人にとってはいい点もあるが悪い点も多いと思う」
亜矢の力説に、晶は耳を傾ける
「いいか、ビタミンEってのは性欲に関係あるビタミンで、成人が牛乳のみを長く飲用すると、性欲が撃退しちゃうんだ」
「撃退……って、役に立たなくな……あっ」
晶は慌てて口を閉ざし顔を赤らめる。
「晶、そのとーり!。だから乳離れできないヤツは彼氏に選ぶなよ!」
「それって凄い語弊と偏見が……」
祐介は目を細めてつぶやいた。
「何を言う、祐介! いいか、生後二~十二ヶ月で二十%、満二~五歳児で五十七%、快美感の絶頂が見られ、性的精力絶頂は十二~十六歳が最高で性欲の衰退は十代終わり、あるいは二十代始めに起こるんだぞ」
亜矢の話を聞いてるうちに祐介と晶の顔が真っ赤になった。
晶は縮こまる彼の顔に目がいく。
そして鼓動が早く大きくなってくるのを体の奥から感じた。
胸の高鳴りを彼に聞かれちゃう!
晶は必至に自分を自分の腕で抱きしめた。
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