Cream puff. 1
嘘とは。
事実の正しい認識を欠くための語謬を区別され、また故意に相手を誤りに導く、何らかの欲求充足の方法、課題解決の一方法、非合理的、反理性的な一方法である。
人は嘘を付く。
自己防衛欲求の充足方法として。
「怖くない、怖くない、怖くない、……怖いけど…………怖くない!」
自分の気持ちを押し殺してまで。
自己顕示欲求の現れとして。
「私達友達じゃなーい。…………なんてね」
それでも嘘を付く。
敬服、屈辱欲求の現れとして。
「本当に美人で綺麗なんだからー。ったく!」
人はウソをつく動物。
自分の気持ち、心に思い描く映像を歪めてまでもついてしまう時がある。
少年は嘘をついた。
「うん、僕が二人の仲を取り持ってあげるよ。大丈夫! うん」
人はウソをつく動物。
秘めた想いを彼女に伝えきれず、切ない彼の思いを彼女は知らず、自分の気持ちに嘘をついた。
少女は嘘をつく。
「昔の……話だって。今はボク、別にどうとも思ってないし、他に……いるから」
心の奥に眠る想いを起こさないように、堕ちていく気持ちは遠い記憶の彼方に連れて、自分の思いに嘘をついた。
嘘は困難な課題を最も安易に解決する非合理的、非理性的方法である。
だから人は嘘をつく。
*
風冴ゆり、吐く息も白くコートを手放せなくなってきたある冬のこと。
駅前の小さなケーキクラブハウス、『PEACH BROWNIE』は女子中高生達の間で人気なお店の一つ。今日も彼女達が店内を占めている。時は十二月、体を寒さが襲う時心まで温めてくれる場所である。特に最近カップルが多く、またクリスマスケーキの予約の手配とブラウニー達は今日も大忙しい。
「やっほー、チクリン元気してる?」
春香と由香が、祐介君の友達の牧野 明と神谷航治と一緒に入ってきた。
彼女達は、美香の誕生日パーティーときに出会った彼らと付き合っている。
「いらっ……しゃい。えっと、予約して……ますね。えっと、二階の四番テーブルです。オーダーの変更はあります?」
「ないない。けど追加オーダーするかもね。じゃねー」
由香は笑って、みんなを連れて階段へと歩いていく。
「チクリンも今度誘うからね」
航治と明は恵に軽く手を振り、二階へと上がっていた。
今日はカップルが多い、と恵は見送りながら思った。
亜矢と彼氏の高橋良晃も、二階でお茶を楽しんでいる。
……みんな誰かと一緒。
それに引き替え自分は……。
恵は小さくため息がついてしまう。
「チクリンどうかしたの? 元気ないね」
晶、英美、光、愛は心配して集まってきた。
光の一件以来、みんなの仲が良くなり、気心合うようになっていた。
他人を毛嫌いしていがみ合っていたのが嘘のようだ。
「べ、別に何でもないですよ」
「ひょっとしてチーちゃん最近寝不足? 徹夜はお肌の大敵だよ。それとも不眠症? それともストレス貯まって下腹痛や便秘、不正性器出血とかしてない? だとしたら鉄欠乏性貧血かもしれないよ」
「英美ちゃん……ちゃんと寝てるから、大丈夫。みんなお仕事お仕事。今日も忙しくなるよ」
恵は英美の頭を撫でながら明るく声を上げた。
それぞれの仕事に戻るみんなに笑顔を向ける恵。
けど内心は違った。
『どうかしましたか?』誰かにそう言われる時は必ずどうかしている。
いいえと否定しながら、それに気付いて認める。
そこで今度は意識してそのような振りをしてみせることになる。
恵には気になる異性がいた。
それはこの店、『PEACH BROWNIE』の経営者の子であり、孤独に打ちひしがれていた時、助けてくれた彼、美浜祐介。
恵にとって良き理解者であり良き相談相手である。
電話で悩みを打ち明けたり、バイトが終わった後は駅まで送ってくれたり。
けどこのひと月ぐらいの間、まるで無視されたように逢ってくれない。
声も聞いてない。
やけに気にかかり、何故か寂しかった。
最近は夜明けまで、電話がくるのを待っている。
「……はぁ~」
ため息を付くようになったのはこの為だろうか。
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