Peach brownie. 2

 街中を、亜矢が乗るTZRが疾走する。

 二人がいきそうな所を探し回っているがみつからない。

 二人が一緒にいる保証もない。

 立ち寄りそうな所は全部探した。


「祐介のヤツ、弘明の所にもいなかったって言ってたし、どこにいるんだ! あいつより、チクリンだ。学校も探したし、何処にいるんだよ」


 鈴が乗るFZRが亜矢のTZRに迫り、並走する。


「母さんが唯さんの所に行って聞いてみたけど、まだ見つかってないって」


 亜矢に伝えると、さっさと追い抜いていく。


「姉貴に抜かれただと! 姉貴といえども、あたいの前を走ろうなんて十年早い!」


 ギアを上げてスロットル全開。

 スピードを出してFZRに迫る。


「音だけ速いマシンに、あたいのTZRが負けるもんか」

「マシン性能の違いが、ライダーの決定的な差でないことを教えてあげる」


 気づけば、姉のFZRと競争を始めていた。

 二台の単車が、美浜市内を駆け抜けていく。

 ……二人を捜していることをすっかりと忘れて。



                  *



「今、何か通っていったような……」


 聖美が嫌な顔をしながら窓の外に目を向けた。

 聖美、知見、美香の三人は、直人の運転する店のワゴン車に乗り、街中を探していた。


「あの二人はすぐ、目的見失って遊びに走るんだから……あ、しまった」

「美香さん。次、私の番ですよ」


 知見は美香の手からコントローラーを奪う。

 それを見た聖美は慌てて奪い返し、美香も負けじと取り戻そうとする。

 彼女達も、当初の目的を忘れ、今では携帯ゲーム機の取り合いでもめていた。

 はしゃぎ声で満ちる車内で直人は一人、息子とその友人の安全を願っていた。


「まじめに探してくれないのか」


 ため息と一緒に直人の口からこぼれた。

 だが、ミラー越しに彼女達の顔を見て、それ以上は何も言えなかった。

 誰ひとり笑っている者はいなかった。


「心配してます。けど、じっとしてられないんです」


 美香は指の動きを止めずに顔を上げた。


「何処探しても見つからない。同じ空の下にいるのに、街中を走り回ったのに見つからないなんて」


 聖美は左側の歩道側へ目を向け、

 

「泣きたくなってしまいますよ、自分の愚かさに、その無力さに」


 知見は鼻をすすりながら右側の歩道側へ目を向けていた。




                    *




「何処に行ったのかしら、あの子達」


 背伸びをする神名は、遠くにぼやけて見える海へと目を向けた。

 ひょっとしたら入水しようとしてるのかも?

 嫌な想像ばかりが、頭の中を駆け巡っていく。


「神名、大丈夫よ。思い詰めないで。陽一、祐介君のいきそうな所わからない?」


 弥生は神名を慰め、振り返り、陽一に聞いてみた。

 神名、弥生、陽一の三人は自転車に乗って、住宅街を探していた。

 だが見つからず、近くの公園で休憩をしながら、これからどうするのか話していた。

 陽一はしばらく黙っていたが、首をひねる。


「あんまり一緒に遊んだことがなくて。とくにこの三年は。小さい頃はあいつ、よく恍と一緒に堤防の方へ行ってたことがあったなあ。母さんが危ないから行くなって怒っても、それでも行ってたし、そこ以外は俺にはわからないや……情けない兄貴だな」

「行きましょ! 絶対そこにいるわ。恵さんも一緒に」


 弥生は二人の背中を押して自転車に乗せ、自分は唯に、河原へ探しに行くことを携帯電話で伝えた。



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