Lebe kuchen. 1
気が付くとそこは見慣れた白い部屋に白い天井。
また、目が覚めて、ここなのね。
鼻を突く、嫌いな匂い。
まだ生きてる、まだ生きている。
外の世界と内の世界を行き来し、生きたふりをして、またここに来てしまった。
まるで砂時計のように。
私のraison dêtreはどこにあるのだろう。
彼女の問いかけに答える者はいなかった。
人は幼き時、多かれ少なかれ死の恐怖を感じるものである。
父の死、母の死、兄の死、自分自身の死を恐怖する。
いつかは別れなくてはいけないという確定された事実。
無意識の心の奥でふつふつと芽生えていく。
生きる事、それがすべて死につながっていると分かっていても生きていくことを背負った自分がそこにいた。
生きる理由、その答えを求めながら身体は病に犯されていく。
今を生きる自分、その存在に自分で狂気する時がある。
〝優しい〟って何?
〝寂しい〟って何?
〝哀しい〟って何?
〝楽しい〟って何?
〝幸せ〟って何?
〝死〟って何?
貴方は何を願うの?
私は何を願うの?
どうして分かろうとしないの?
本当はどう生きていけばいいのか分からないだけかもしれない。
誰もが抱えている心の傷に追い立てられるように逃げてきた彼女は、生きる事に臆病になっていたのかもしれない。
*
蝉の五月蠅さが耳にこびりつき、否応なしに照りつけるその日差しは気持ちを滅入らせていた。
駅前にある小さなケーキショップ『PEACH BROWNIE』。夏休みに入ったこともあり、女子高生だけでなく、カップルの予約が多くなっていた。
そんな中に亜矢の姿があり、一緒に来てるのは彼氏の高橋良晃であった。聖美と知見は一目見ようと、やたら二階の注文運びばかりしている。
恵は……というと、カウンターで洗い物、レジ、ケーキを買いに来る客の対応と、一人で忙しそうに働いていた。
「やっほー、恵。元気してる?」
「恵さん、お久しぶりです」
春香と由香がひょっこり店に入ってきた。
恵は笑って二人を迎えた。
彼女達とは妙に親しくなり、そのせいか、店にクラスの子達もよく来ては、恵に声をかけるようになっていた。
だが恵の心はそんな周囲の変化に戸惑い、素直に受け入ることが出来なかった。
「……いらっしゃいませ」
「何、畏まってんのよ。私らとチクリンとの仲じゃないのよ。それより予約入れてあるんだけど案内してくれる?」
由香はカッコつけて親指立てて後ろにいる彼らを指さした。
そこには明と航治の姿があった。
「よっ! 恵さん」
「元気にやってる?」
「さっきそこで彼らに会ったのよ。この前のパーティーの時に知り合ったんだ。二人分しか予約してないけど、四人でお願い!」
「……は、はい」
慌てて予約者リストに目を通しながら、書き直した。
嬉しそうな顔をしている由香の前に顔を出す明は、恵の耳もとに囁いた。
「ホントは恵さんも誘いたいんだけど、バイトしてるし、今度非番の時に誘うからその時にどう?」
「……はぁ、どうしてですか?」
明は口説いているのだけど、恵にはそれがわからなかった。
「明君、なにやってんの」
「べつにいいだろ航治。とにかく席に案内してよ」
「はい、分かりました。それじゃ、二階の五番テーブルにどうぞ」
そう言って恵は四人と一緒に二階へと上がっていく。
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