また逢えて 4

 ある種の予感を感じながら良樹がゆっくりと振り返ると、果たしてそこに須藤亜希子が立っていた。


 ──髪、切ったんだ。


 私服姿の彼女から、今さらながら、そんなことに気付く。

 ベリーショートの残した前髪の下から、彼女の真っ直ぐな性格を一番よく表している大きな黒目勝ちの目が、ずっとこちらを向いていた。


 良樹は、どういう顔をすべきか戸惑ったふうに、亜希子を見返す。周囲ににじんだ空気から、彼女がもうずいぶんと前からこの場にいたことはわかった。


「須藤、オレ……」


 彼女が寄ってきて距離が詰まるのを待って、良樹は切り出した。



「さっき聞いた──」 亜希子は落ち着いた声で遮った。それから彼女の目がついと逸れる。「それに、いまは聞きたくない」


 そんな表情は柔らかく、良樹やクラスの男子の誰も知らない、不思議な色を帯びていた。


「…………」


 良樹は何も言えなくなり、ただ亜希子の顔を見返す。

 ふと、そんな良樹の視線に気づいたように、視線を戻した亜希子が頷きながら笑った。


「でもよかったよ。──これで、宮のコト、嫌いなままにならないですむ」


 何か憑き物が落ちたようなその笑顔に、良樹は戸惑い、そんな良樹に何も言わせず亜希子は言葉を繰り出した。


「ちゃんとできるじゃん。自分の気持ちに、素直になること」


 良樹は、どういう顔していいかわからない、といった面持ちで亜希子を見返す。


 すぅ……と、亜希子は胸に手を当てて、目を瞑って、深呼吸した。──そして神妙な面持ちになって云う。


「あのときは、ホント、ごめんなさい!」 思い切り頭を振って下げる。「あんなに感情的になっちゃって、恥ずかしかった、な、と……」


 それから、すっと右手を差し出してくる。その白い腕が、ちょっとだけ震えていた。


「──これで終わり! だから」 最後とばかりの宣言。「……これで仲直り」


 それから顔を上げられないまま固まる彼女に、良樹はそっとその手を握って返した。


「うん……これで、仲直りだ」


 彼女の腕から、ふっと力が抜けていく。


「……ありがと──」


 亜希子は頭を上げ、目を細めて良樹を向いた。

 良樹は、彼女の目はやっぱり真っ直ぐなのがいいと、そう思った。



 そのあと良樹は、亜希子と邦弘を見送った。

 ぽんぽんと軽く頭を叩いてきた傍らの邦弘に、亜希子が抗議するように腕を振り回し、背伸びするように顔を向ける、そのムキになった表情に自然と笑みが溢れていくのを、良樹は新鮮な面持ちで見送った。


 ──二人はお似合いなのかな?


 きっとそうなのだろう。

 それから携帯電話の時刻を確認する。

 ──約束の時間まであと10分と少し……。


 良樹は駆けだした。


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