出逢った後に 7

 宮崎くん……。


 軽く伏せるように外してた目線が、ふっとこちらを向く。

 真っ直ぐな目線──はにかんだ柔らかい笑み。

 わかりやすいくらいに照れ屋さんだよね。

 あの魔法の言葉は、まだ消えてないのかな……。

 彼と二人、いろんなことをしてみたい──。


 二人の〝想い出〟は、どんなだろう?



 たとえば雪の降った冬の日──

 夜のうちに積もった一面の雪の公園で、彼を意識したわたしは「きれい」って燥ぐ。

 彼はちょっと遅れて付いてくる。どんな顔して付いてくるんだろ?

 わたしはチラと横目で彼の顔を窺うの。

 吐く息が白いのに目を細めて──「でも寒いね」って、彼を見て笑う。

 それからわたしが転びそうになると、彼は腕を伸ばしてわたしの手を掴む。わたしは云うの……「ありがとう」って……。

 きっと彼は、くすぐったそうに目を細める。


 ──あーあ、嬉しそうな顔……。捨て去っちゃうのって、惜しいよね……


《嫌だ……。》



 夏には優柔不断な彼に怒ってみせて、二人は初めて喧嘩する、とか──

 憎まれ口を云う自分を止められないわたしに、彼はたぶん精一杯に不機嫌そうに唇を硬くして目を伏せる。

 そのあと一週間──ううん、3日が限度かな──口をきかなくて、夏休み前のある日の放課後、彼が黙って小箱を差し出すの。

 わたしも黙って受け取って、家に戻ってから自分の部屋で包みを解く。中からは、あのうさぎの紙人形──

 握っているように棒がくっ付けられてて、その先に白い旗が括りつけられてる。添えられたカードには「ごめん。」と一言。それから……「P.S. ○○のミックスベリーのフローズンヨーグルトで許してください」──たぶん美緒あたりの入れ知恵だ。

 わたしはにんまりと笑って、うさぎをちょんと揺らす。


 ──仲直りだね。二人はいつだってやり直せる……。でしょ?


《ああ、かみさま……どうか、お願いです……》



 はじめてのキスは桜の下がいいかな──

 陽射しは柔らかくて、春の匂いに満ちてる……そういう日がいい。

 花びらがゆらゆらと舞い降る、そんなある日。

 照れ屋さんの彼に、お道化たわたしが軽く顔を上げるように、「ん!」と唇をとがらせる。

 目を閉じたわたしは、もう何度もスルーされたレクリエイションの再演のつもりでいて、いつもと違う彼の気配に、その日は違った展開になることを知るの。

 ゆっくりと、ぎこちなく重ねられた唇の感触に、わたしのこころは舞いあがる。


 ──そういう未来だって、きっと、きっと、在ったんだよ……


《わたし、やっぱり──》


 ──約束された未来なんてないけれど……未来があれば──生きてさえいれば、人はそうなることを希える……


 小さく、こころが震えた。


 確かにそこに在った未来を、彼の笑顔を、手の温かさを、息遣いを、わたしのこころが希う。

 わたしが望んだ、わたしの未来を取り戻したい、って──


 わたしは、生きていたいんだ。

 死んでしまったら、好きな人といっしょに感じたい、こういう嬉しさが、ぜんぶ、なくなってしまう。

 生きていたい。


 わたしのこころが叫ぼうとする。


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