出逢ったから… 7

「お?」 席に着くと、そのタイミングで隣から声が掛かった。「帰ってきたねー」


 同じ班の五十嵐融だった。心持ち含み笑いな表情と、横目のジト目が気になる。


「な、なに?」


 気持ち悪くなって訊いた。班行動をバックレたことくらいで融はこういう顔はしない。


「トボけんじゃないの」


 融は静かに箸置きに箸を置くと、次の瞬間、がばっと良樹の頭を抱え込んで囁いた。


「ネタは上がってんのだよ! C組の栗原と岡村がみてるんさ──お前が女の子と一緒に嵐山を歩いてたのを」

「──!!」


 卓上の料理に被害のないよう、されるがままの良樹だったが、はっとして、徹の顔の方に向き直った。


 ──そりゃそうだろ。修学旅行の自由行動だったんだぞ。他のクラスの連中に見られててもおかしくないだろーが!


 自分で自分に毒づく。

 正しく状況を認識したが、もう後の祭りだ。融のにやにや顔が迫ってきた。


「──結構かわいいコだったって? え? いい感じだったんだって? さー観念しろ! このぉ……」


 ──中里……すまん!!


 心の中で彼女に謝っておいて、それでも何とかこの場を収めたい良樹は、ヨレヨレな声で云う。


「み、見間違いだろ……そもそもオレ、嵐山なんかに行ってないし──」


 その絶望的なウソに基づく言い訳は、卓の反対側からの声に容赦なくぶった切られた。


「Hの今井も見てるとよ」 塩崎邦弘だった。メガネ越しの、秀才タイプの目線が冷たい。「──良樹、オマエあとでちゃんと話せよ」


 めずらしく怒気をまとった邦弘ににらまれる。融の動きも止まり、良樹は開放された。


「……わかった」


 良樹は首を竦めてそう云うと箸を割った。

 その日の夕食はすき焼きだったが、こんな感じで落ち着かない。残り時間に追われるようにかき込んで終わりにした。


 ──中里、まだ帰ってないのか……担任に絞られてるのかな。


 そんなふうに思いながら目立たぬように会場内をチラチラと窺ったが、彼女の姿は見つけられなかった。


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