出逢い… 2
──京都市北区大将軍南一条町……
「…………」
差し出された紙片の中の、わりとしっかりとした筆致で書かれたその京都市内の住所には、当然ながら見覚えなんかなかった。
──ふつー、お店とか名所とか施設とかじゃないのか……? いきなり京都の住所なんて知る訳ないだろよ……。
良樹のケータイはいわゆるガラケーで地図アプリなんかも入ってない。彼女にしたって、そもそもそういう手段を持ってないから、良樹を頼ってるんだろう……。
何のイメージも湧いてこない文字の連なりに、良樹はお手上げとなってしまった。
それがそのまま表情に出たらしい。見上げている彼女の眉が曇る。
「あの……。やっぱり、わかりませんか……」
しゅんとした表情の彼女と目が合う……。
割りとかわいい(今気づいた)その顔立ちに広がった失望の色に、良樹の方は引き下がれなくなった。
「……ちょっと待って」
良樹は周囲に目をやってから、視界の中の一番近い最寄りのコンビニに入った。そのまま雑誌類のコーナーへと直行する。
そんな良樹に面食らいつつ、彼女も後から付いて入っていく。
書棚に京都市内の地図を見つけると、すぃと、良樹は引っぱり出して索引を探り始めた。
「あった……」
索引にあったページを開く。
「……北野天満宮の近くだ──」
北野天満宮ならグループ別行動の訪問候補として調べたから、ルートは知ってる。
「すごい……」
側で地図を覗き込んできた彼女も、〝その発想はなかった〟というふうに、いささか興奮気味に良樹の顔を見上げてくる。
別にたいしたことでもなかったけど、何となく照れてしまった良樹は、それを隠して続けた。
「──最寄り駅は嵐電の北野白梅町だから……」(東京出身者は、やはり鉄道経路中心で考えてしまう。というより、京都のバス路線は、正直全然解らない。)「ここからだと四条河原町まで戻ってから阪急で四条大宮に出て帷子ノ辻で……」
そこまで一気に続けた良樹は、泣き笑いするような困った顔になった彼女の表情の変化から、自分が彼女を置き去りにして話を進めていることに、ようやく気付いた。
彼女はというと、聞きなれない地名の中から辛うじて聞き覚えのある単語を必死に拾い合わせ、良樹の語った交通のルートを追いかけていたが、ついに諦めてリュックの中からメモ帳を引っぱり出していた。
──もう一度いいですか?
と、訊いてもいいか、戸惑ったような顔を良樹に向けてくる。
笑った方がカワイイんだろうな……。
良樹は口を開いた。
「あ、あの……」
「あのさ──」
微妙に声が重なって二人の言葉が途切れる。
良樹は、彼女が口を開くより先に云った。
「一緒に行こうか?おれ ──あ、もし良ければ、だけど……」
最初、彼女はきょとんと、目をパチクリとさせていたが、今度こそ大きく頷いて返した。
「ほんとに、お願いできますか!? ありがとうございます!」
ほぼ予想できた通りのリアクション。良樹はこめかみの辺りを掻きながら頷いた。
「OK……?」 ふぁさと、地図帳を書棚に戻す。「──それじゃ、急ごうか」
さっそく出口に向かおうとした良樹に、彼女が声をかける。
「あ、ちょっと待って──」
──?
怪訝に振り返った視界の中で、彼女は手近な商品棚から人気のタブレット菓子のパッケージを選ぶと、手すきのレジに駆け寄った。
それから支払いを済ませ、入口で待たせていた良樹と一緒に店を出た。
「何も買わないで出るのは、やっぱりよくないですから……」
あ……。
ごく自然に、落ち着いた雰囲気で聞こえてきた彼女の言葉に、良樹は急にこれまでの自分が恥ずかしく思えてきた……。
……こんなコ、いるんだなぁ。
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