第68話 VSスカラ女王 傷つけるの者の戦い【下】の話


黒杉は、何処までも続く、暗い道を歩く。

下を見れば、石で出来た廊下が真っすぐ奥へと続いている。


「不気味だな・・・音は何も聞こえないし、気配も感じない。だけど、なんだろう・・・この魔力は?普段から消耗していたり、感じ取ったりするとは魔力とはまた別のなにか」


周りの闇からは、魔力が帯びているのが分かる。その魔力には、何か濁ったような、怒りや憎しみ、そう言ったものが感じる。

しかし、その中に、言葉にするのが難しい物が混じっていた。あえて言うなら、輝かしいとかそういったもの、闇の中というのに、何処か神々しく感じる。


「しかし、何処まで歩けばいいんだ?もう、30分も歩いているぞ・・・痛ぇ・・・!鼻が!鼻があ!」


突然、見えない何かに、顔面から思いっきりぶつかる。

鼻から言ったため、その場にしゃがみ、悶える。

しばらくして、痛みが引いたところで、立ち上がり、見えない壁に触れる。


「んー・・・?ここに何かあるのか?」


触れられ箇所は全て、触る。

しかし、扉らしき物は現れず、その場で棒立ちしていた。


「ったく、どうしたらいいんだ?勢いで来てしまったけど、ここで詰むとは思わなかったぞ・・・ん?なんか熱いな」


キシモの顔を思い出しながら、ブツブツと文句を言っていると、手の甲が熱くなっていく。

見てみると、黒い模様が焼けるように、浮かび上がってくる。

身を焦がすような痛み、硝煙が肺を汚染してくるよう苦しみが襲い掛かる。

熱い、燃える、焼けるの繰り返す。


「く・・・ああああああああ!!くっそおおお、何だよこれ!!!」


手を抑え、涎をまき散らす。

地獄のような、痛みはどれぐらい続いたのだろうか。

痛みが引いてくるころには、その模様はハッキリと見えてくる。


「ハァ・・・ハァ・・・クソッ!!」


急に襲って来る理不尽なことに、地面に目掛けて殴る。

しかし、返ってきたのは、ジーンと響く痛みだけだった。

思わず、手をぶらつかせて、落ち着いたところで、再び手の甲を見る。

模様は、獣のような形をしていた。


「・・・狼?そんな形をしているな」


不思議と見つめる。

その状態で、見えない壁に触れると、今度は何かが噛みついてくるような感覚が襲い掛かる。

咄嗟に手を引いて、後退りをする。

そして、今度は黒杉の手の甲と同じ模様をした、扉が浮かび上がってくる。


感じる。この先に、強大な何かがいる。

身体の奥底から、危険信号が鳴る。


「だけど、俺はここで止まってる訳にもいかねえんだ」


そう言って、再び触れる。ゆっくりと自動で奥側へと開く。

石が引きずられる音が鳴りやみ、目を凝らしてみると、何かがいる。

ゆっくりと一歩踏み出す。

その瞬間、身体に重しがついたように重くなり、膝を付く。その部屋のからドスが効いた声が聞こえた。


「ああん?何だァ・・・テメェ・・・誰だ?」

「っく・・・!?」


黒杉は、なんとか踏ん張り、立ち上がる。

そして、立ち上がって気づく、この重さは魔力の物ではない、ただの"威圧"だということに。

目を閉じ、心を落ち着かせる。しかし、相手は返答しなかったのか、苛立って怒鳴り散らす。


「おい!!誰だァテメェ!!返答次第じゃ、食い殺すぞ!アァン!?」

「や、ヤ〇ザかよ・・・」

「アァン!?」


まるで、ヤ○ザ見たいな態度な相手をみて、返って落ち着いてしまう。

そのせいなのか、先ほどまで感じていた、威圧が軽くなったような気がして、背中を真っすぐにさせる。

ここは素直に、応えることにした。


「俺は黒杉 楊一・・・」

「ちげぇよ、そう言うことじゃねぇ!なんでこんな"ところ"に人間がいるんだって言ってんだよ!!アァン!?」


いちいち、突っかかる必要あるのか?

そんな、態度に少しずつイライラし始める。

しかし、ここで攻撃的になっても仕方ないと思いながら、冷静になって話し続ける。


「少し話すと長くなるは、いいか?」

「いいから、ささっと話しやがれ!アァン!!」

「俺は、現実世界で死んでしまった。だけど、キシモって胡散臭い男に、ここの扉の先にいる奴と誓約をすれば、生き返ると言われたんだ。魂は残っているが、肝心の器が使い物にならなくなってしまった」

「だから、このオレ様と【魂魄共鳴】しろって?」

「ああ、だから・・・」

「ハハハハ!!!!」


謎の声は、高らかに小馬鹿何したように笑いながら言う。


「ハハハハ!!このオレ様と誓約?フハハハハ!!笑い過ぎて腹が痛いわ・・・」


しかし、それとは反して、暴虐的な魔力が襲い掛かる。

今度は威圧なんかじゃない、これは明確な敵意を感じる。

明らかに異常なそれが、囲っていた闇を払い、姿を見せる。

現れたのは、10m程ある大きな白狼、両前足、両後ろに縄のようなもので、縛られていて身動きが出来ない状態でいた。

そして、胴体には、心臓と思われる場所に、剣が突き刺さっていた。


「面白い、実に面白いな!!ア”ァ”ン”!?」

「うぐ・・・!」


声と剣幕だけで、吹き飛ばされそうになるが、何とか踏ん張る。


「このオレ様・・・フェンリルと知って、言うのか!!この戯けが!!この忌々しい縄さえなければ、食い殺してやったのになァ!アァン!!」

「フェ・・・フェンリル?」


フェンリルと言えば、北欧神話に出てくる神様だっけ・・・?

どう見ても、神様の風貌ではなく、化け物だった。

だが、分かるのはとんでもない奴が目の前にいるという事だった。

しかし、ここで諦めるわけにはいけない。皆とアイリスの為にも。


「だけど・・・どうしたらいいのか・・・」


相手は誓約をしたくないと言う。

フェンリルが縛られている縄を見る。

生き返る為に、これしかないと思い提案を持ちかける。


「あの、フェンリル様」

「アァン!?」

「提案というか、俺と賭けをしないか?」

「このオレ様に賭け事だとォ?面白い事をいうじゃねえか・・・アァン?」


黒杉はゆっくりとフェンリルに近づく。


「俺がこの縄を解いてやる、そして、この縄を首に巻き付けられたら、お前の負け。そして、俺はお前に食われたら負けというのはどうだ?」

「ハハハ!!オレ様がそんな、人間の戯言を付き合うと思うのか?アァン!!」

「はは、つまりだ。偉大なるフェンリル様ってのは、人間如きに負けるのが怖いってことか」

「アァン!?」


そんな、見え見えな挑発にのるフェンリル。

思ったとおりに沸点が低い、そういう奴に決まってプライドが高い。

そのまま、話し続ける。


「いいか、縄を解いた瞬間に、俺を喰らえば良い話なんだぞ?フェンリル様が負ける要素なんて、何一つないの上に、これ以上にない条件なんだぜ?それなのに・・・ひ弱な人間に負けると思ってるわけなんだな?」

「んなわけないだろうがァ!!アァン!あまり馬鹿にするなよなァ!!」

「縄に縛られたままじゃ、威厳も何もないね。悔しかったら、掛かって来いよ」


そう言って、フェンリルの前で唾を吐く。

フェンリルは、毛を逆立てさせ、目が血走る。


「殺す殺すコロスコロスコロスコロス!!アァアアアアン!!」

「おいおい・・・やはり、神様っておっかないな・・・」


漏れ出ている魔力が風圧になり、襲い掛かる。

そのまま、フェンリルは太い綱を噛みちぎる。


「おいおい!その縄を簡単に千切れる者なのかよ!なんの為の綱だよ!!」

「うるせぇえ!こんなもん腐ってやがったから、いつでも壊すことができるんだよ、馬鹿めが!!アァン!」


そうなると、いつでも抜け出せたってことかよ!!

明らかに、封印してるから、動けませんって感じだったろうが!?


黒杉は、予想外のことに、一瞬だけ混乱するが、すぐに冷静になり、食いちぎられた綱がこちらに飛んでくる。

そのまま、その綱を掴み、捕まえるように構える。


「死にやがれ!アァン!!」

「うおぉ!?」


鋭い爪が黒杉に向って、攻撃してくる。

風圧のせいで、動きづらく、肩にもろ食らう。

その攻撃は、切り裂かれたようなものではなく、食いちぎられるような感覚だった。

出血する肩を抑え、距離をとる。


「なんだァ?さっきまでの姿勢どうしたんだァ!!アァン!?」

「うるせえ、これからだ!」


黒杉は【仁王】【大元帥】を発動させ、身体能力を向上させ、フェンリルに向って一直線に走る。

それを向かい撃つように、爪で攻撃をするが、身体を捻り避ける。

そのまま、跳躍して、フェンリルの巨体の上に乗る。

今度は、それを嫌がるように、振り落とそうとして、暴れ始める。


「うおおおおお!?やめろおおお!」

「うるせええ!!オレ様の眠りを妨げやがって!!死にやがれ!!!」



─────【現実世界】



「オラオラオラオラオラオラッ!!簡単にくたばるんじゃねぇぞォ!!アァン!?」

「っく・・・!なんだ、この出鱈目な、力と魔力量は!?」


変貌した黒杉とスカラが戦っていた。

スカラは槍を、両手から紅槍を取り出し、振るう。

だが、黒杉は振られる槍を全て、噛み砕く。


「脆い!!脆すぎるぞ!!!アァン!?」

「っく・・・!槍を噛み砕くなんて、聞いたことないぞ!」


その圧倒的な力が、スカラを追い詰めていく。

そんな黒杉と思えないほどの変貌ぶりを遠くから見つめる、アイリスとクレナがいた。


「・・・よ、ヨウイチ!!」

「アイリスッ!」


結界が解除され、よろめき倒れそうになるアイリスを抱える。

クレナは、アイリスの魔力が空っぽになっている事に気づく。


「あ、あんた、魔力を使い過ぎよ!」

「・・・で、でも、ヨウイチが・・・」


そう言って、今でも暴れ続ける彼の姿を見つめる事しかできなかった。

そんな、様子を見て、飽きれた様子でアイリスを見る。


「まったく、アイリスは心配し過ぎよ」

「クレナ・・・?」


そう言って、クレナは憔悴している彼女を横にする。

そのまま、立ち上がって何処かに歩いて行く。

アイリスは、嫌な予感がして、呼び止める。


「ク、クレナ・・・どこいくの!?」

「何って、ご主人を止めるのも、従者の役目なのよ?」

「む、無茶だよ・・・!」

「大丈夫大丈夫!!」


そう言って、背中を見せたまま、顔だけ振り向く。


「確かに、無茶かもしれない。だけど・・・」


そして、笑顔でいう。


「ご主人様の言葉で言うなら・・・上等よッ!!私は諦めない。神も仏も仏陀も、救ってくれないなら、私がその呪いをぶち壊してわよ!!」

「クレナ・・・」

「まあ、仏とか仏陀とか、何言ってるか分からないけどね・・・でも、諦めないってのは同感するわよ。だから、ここで待ってなさい、アイリス!」


腕を刃に変形させて、右刃に紅い炎、左に蒼い炎。そして、長く伸びた髪の毛の先端から、紅い炎と蒼い炎が”合わさり”、紫炎がが燃え上がる。


「紫の・・・炎」

「この状態になるのは、すごい疲れるけど・・・仕方ないわ!」


そう言って、そのままクレナは飛んでいく。



─────【???】



「くっそ!やるじゃねぇか!!ここまでしぶとい人間は初めてだよ!!」

「そりゃあ、どうも!!俺は諦めが悪いのが取り柄だからな!」


そういって、二人の戦いは続いていた。








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