第63話 運命と決意の話


「村人?ハハハ、冗談はやめてくれ、村人にそんな力があるわけないだろう?」


村人だと、言うことを信じてもらえずに、ニルヴァフは笑う。

黒杉は、軌光石を取り出して、ステータスを表示させて見せた。

「まさか、本当に・・・」と呟いて、少々驚きながら、ステータスを見つめる。


「どうだ、信じてもらえたか?」

「にわかに、信じられないが、本当のようだね」


ニルヴァフは、顎に手を当てて、微笑んだ。

そのまま、足を組んで、黒杉たち見た。


「さて、満足出来たところで、本題に移ろうか」

「やっとか・・・」


ニルヴァフは、何やら目で合図するように仕草を見せると、ビャクヤがニルヴァフの隣に移動する。

気を使ったのだろうか、それとも警戒していないと意思表示を示しているのだろうか。

何にせよ、ビャクヤが移動してくれたことで、先ほどまで緊張が解れる。


「スカラ女王は、私と結婚すること、君たちは知っているだろう?」

「まあ、そうだな、あの場所にいたからな」


スカラ女王の話題を出すと、言いづらそうな顔する。

ニルヴァフは、テーブルを指でトントンと叩き、妙に落ち着きが無かった。

かなり深刻な事そうだ。


黒杉は、その様子を見ながら、静かに聞くことにした。


「彼女はね・・・元々、オレとの結婚を、望んでいなかったんだ」

「・・・?その話と今の事件に、何が関係あるんだ?」


黒杉の質問に、ニルヴァフはため息をする。

同時に、隣に座っていた、アイリスとクレナもため息をする。

皆の反応で、困惑してしまう。


「ヨウイチ・・・鈍感」

「ご主人って、変なところで鈍感だよね・・・」


何故か、2人に飽きられてしまう。

っえ?今の俺が悪いのか?

そう思いつつ、ニルヴァフは話し続けた。


「つまりだ・・・彼女は、オレと結婚したくないから、こうなってしまったんだ」

「え?」


そんな理由でとか・・・言おうとすれば、きっと二人に、何か言われてしまうだろう。


黒杉は、失言を言いそうになり、口を軽く噛む。

しばらくして、アイリスが話す。


「女王様は、ほかに好きな人がいた・・・」

「ああ、そうだ。スカラは、スノーガーデン国を犠牲にしてまででも、その人と結ばれたいそうだ。その相手は、知らないけどな」


話を続けく旅に、ニルヴァフの表情は暗くなる。

確かに、自分の結婚相手が、この国に大被害をもたらしたのだ。

良い気分ではないのは確かだろう。

自分の住処になる場所に、血と火の臭いが充満しているのだから。


そう思っていると、クレナが勢いよくテーブルを叩き立ち上がり、視線が彼女に集まる。

そのまま、興奮気味で話し始める。


「ちょっと!王子はこのままでいいの!」


その、唐突な発言で、俺は頭を傾げる。

いったい、どうしたんだ・・・。

隣のアイリスも、うんうんと頷く。

話についてこれずに、戸惑い、置いてけぼり状態だ。

どうしようか・・・完全に俺自身が気まずくなってきたぞ。


「ハハハ、困ったなあ・・・オレだって、こうはなりたくなかったさ」

「だったら・・・」

「だが、ダメだ」

「どうして・・・!」


ニルヴァフは下に俯くが、優しくクレナに微笑む。

二人の間で話し続ける。


ちなみに、未だに話しについて行けてない。

どうしたら、良いものなのか・・・。


「すまないな、嬢ちゃん。彼女をなんとかしなければ、このスノーガーデンは・・・滅ぶ。例え最強の騎士とは言えども、無敵ではないんだ」

「でも・・・」


己の無力さに、クレナは唇を噛む。

何が何だか、分からなくこっそりと聞く。


「いったい、何が起きてるんだ・・・?」


アイリスはニルヴァフを見つめながら、頷く。

その状態のまま、話はじめる。


「・・・ニルヴァフ王子は、王女のことが好き・・・でも、王女は、王子じゃなくて、他の人に恋をしてしまった・・・だから、この決められた、政略結婚が嫌だから、暴れまわっている・・・」

「なるほど・・・」


アイリスは話し続ける。


「だから王子は・・・この国を守る為に、王女を殺そうとしている」

「・・・」


現在、スノーガーデン国の騎士たちは、機能しておらず、化け物に慣り果てている。

唯一の希望が、他の国からの騎士たちの援護。

そして、確定ではないが、あの女王を倒さなければ、永遠にこのままだろう。

その女王殺しを婚約者である、ニルヴァフが最強の騎士を連れて、実行しようとしていたのだ。


皮肉なことだ。自分の愛している者を殺さなければならない。

この世界の神たちは、本当に腐ってやがる。


「ヨウイチ・・・こんなの悲しいよ」


二人は悲しい顔をして見つめる。

すると、ニルヴァフが立ち上がる。

そのまま、クレナに近づいて、その大きな手で、頭をくしゃくしゃに撫でる。

その時の表情は、穏やかだった。


「ハハハ、嬢ちゃんよ。そんな悲しい顔をすんな、こればかりはどうしようもない事なんだ。国を裏切ったら、決まってその諸悪の根源を絶たなければならない、例え、スカラを助けることが出来たとしても、いずれは処刑されるだろう」

「そんな!王子は本当にそれでいいの!?」

「ああ、良いさ」


そのどうすることも出来ないことに、クレナはさらに興奮する。

ニルヴァフは困った顔をするが、穏やかな表情は依然として変わらない。

しかし、その目に信念を決意を感じ、「良い」とハッキリ言った。


将来、王となる者だからこそ、決断しなければならない。

生半可な、気持ちで王を務める事なんてできないのだから・・・。


「・・・運命というのは、残酷なものだし、勝手なものだ」


そして、ニルヴァフは跪いて、クレナと目線を合わせる。

そのまま、静かに息を吸う。

合わした目線が、クレナの瞳を真っすぐ見つめる。


───沈黙。


そして、少し言葉を選ぶように、言った。


「もし、これが運命(さだめ)であれば、受け入れるしかないんだ。例え、自分が犠牲になろうとも、多くの人を救わなければならない。それが王として責務、義務、やり方なんだ。だから、非道だって思われても良いさ」

「・・・ぐ」


ニルヴァフは悲しそうに微笑んだ。

しかし、その強い意志は、これ以上何も言えなかった。


「だけど、愛したことは忘れないよ。例え、スカラにどう思われてもね。ああ、勿論・・・これから先、永遠に・・・未来永劫にね。だから、そんな悲しい顔をしないでくれ」


───"悲しい顔しないでくれ"

どっちが、その顔をしてるんだか・・・。


黒杉は、ニルヴァフは微笑んでいるように、見えるが。

見逃さなかった。後ろに振り向く際に、悲しい顔をしていたことを。

この逃れない運命を、葛藤している姿を、ただ見つめる事しか出来なかった。


そして、背中を見せて、語り掛けるように、ニルヴァフが話しかける。


「ヨウイチくん、君に頼みたいことがあるんだ」

「・・・なんだ?」


震える声を、抑えようとしているが、漏れ出てしまう。

握りしめた拳が、震える。

そして、ニルヴァフは決断する。


「彼女・・・スカラ女王を殺してくれ」


それがニルヴァフの頼みだった。

赤の他人の俺たちに、王女を殺しを命じたのだ。


「こんな事を言うのも、お門違いかもしれない。だが、オレはきっと彼女に会ってしまえば、躊躇してしまうかもしれない」

「・・・ふむ」


そのまま、振り返って話し続ける。

悲しい顔から、先ほどと同じ、穏やかな表情に戻る。


「私の騎士たちは、この通り、防衛で精いっぱいなんだ、何時まで持つのかもわからない、故に離れられないんだ。」

「なるほど」


「それに、君もここに何か用があって、来たんだろう?大丈夫だ。スカラは国の反逆者なんだ、罪には問わないよ。このオレが保証しよう。」


鋭い。

たしかに、元々は玄武王と戦う為に、ここまで来たんだ。

それと、王子のお墨付きで、罪に問わないと言った。

自分たちの、今後の安全を褒賞されたのだ。


「一人とは、言わないよ。私とビャクヤが一緒について行こう」

「ふむ」


なるほど。

最強の騎士と、ニルヴァフの実際の魔法を見た限りだと、これ以上の心強い者はない。


「それに、彼女と会えるのも最後かもしれない、私はこの目で見届けたいんだ」


最後という言葉が、胸に何故か突き刺さる。

その言葉に黒杉は頷く。


「わかった・・・俺は、元々女王に会って、この町の問題を何とかしなきゃいけなかったから、そっちの方が都合が良い」

「それはよかった」


そう言って、顔は笑顔だが、声に覇気がなかった。


「んでだ、肝心の居場所はわかるのか?」

「ああ、勿論だとも。私に千里眼があるんだ。使うと疲れるけどね」


そういって、自分の眼を指す。

千里眼、種類は色々あるが、ニルヴァフの場合は遠くまで、見ることが出来る、千里眼のようだ。


「場所は、ここから北・・・極寒地獄の雪山"雹狼山"だ」


ニルヴァフはそう言った。

俺たちは、それに向けての準備を始める。

悲劇を待ち受けていることが分かっていても、国の為にと言って、ニルヴァフは歩き出す。


それに続いて、黒杉達も後を追うように、キャンプ地を後にした。

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