第58話 一方その頃3の話


振り向けばそこに立っていたのは黒が目立つゴスロリ服を着た何処かしら大人びた雰囲気を出している少女と何か変なマスクを着用していて、黒色の研究服を着ている男性と思われる人が立っていた。

そして、3人は気づくであろう。

彼女からとんでもない魔力量を感じ取れること、それは隣にいる男の存在が小さく見えるぐらいに。


「で、貴方達は誰なの?」


少女は3人に問いかける。

その問いに答えたのは美空だった。

美空は己の危険信号を鳴らしつつ、少女の問いに答える

下手に嘘をつけば何をされるか分からない為、正直に話すことにした。


「わ、私達は・・・フィルネル王国から来た者です・・・」

「フィルネル王国の人?なぜこんな所に?・・・なの」

「そ、それは・・・」


とってつけたような語尾を言う少女は繰り返し聞く

そんな、美空は言葉を詰まらせる。

下手に言えば、フィルネル王国に報告にされ、連れ戻されるかもしれない。

ましては相手の格上の存在であり、そのプレッシャーのせいかまともに思考が働かなかった。

今思えば、ちゃんと真実を話せば良かったと後悔をする。

この人たちはフィルネル王国の人達とは限らないのだから。

すると、隣にいる被り物の男が何やら少女と話しているようだ。


「あのー、疾嘉さん」

「にゅ?アブラムシさんどうしたんですか?」

「いや!?アバダギッスよ!?」


そんな少女は涼しい顔で隣にいる男をわざとらしく名前を呼び間違える※アバダギについては第11話参照

男は耳元でコソコソ少女に話しかける。

傍から見たら、変な被り物の男が少女に何やら意味深な事を言ってるようにしか見えなかった。

そんなシュールな光景を3人は大人しくじっと見ていた。


しばらくして、話し終わったのか

男と少女は離れて、こちらを見る。


「さて、貴方達の正体が実の所はどうでもいいなの」

「そ、そうですか・・・」


その瞬間、疾嘉と呼ばれる少女が魔力を上昇させた。

3人は圧倒的な魔力量の前に思わず、戦闘態勢なる。

彼女は手を開いた状態で3人に向けて、そして言う。


「でも、私達の存在を見られた以上は逃がしておけないなの」

「いやー・・・君達には恨みないけど、相手が悪かったね、うん」


そんな、男は被り物のせいで表情が見れないのか声だけ聴くと若干ふざけたような声をして言う。

そして、隣にいる少女の魔力が手に集中する、3人は察した。


ここで避けなければ、確実に死ぬ。


いくら、異世界から来た勇者でも無事にはすまない。

何故、友人を探しに来ただけなのにこんな目にあってしまうのか

今更、後悔したなんて言わない。

だから、ここでどうやって乗り切るかを考える。

きっと、彼なら最後まで考え続けるのだから。

そこで美空は説得しようと試みるが・・・


「ま、まって!」

「待たないなの、紅黒の火柱(プロメント・ダーク)」


そんな少女はにっこりと可愛らしい顔で笑うがその裏に腹黒さが滲み出ているのが分かる。

彼女は手に溜まった魔力を放出させると黒と赤が混ざった炎が地面から柱のように噴き出し、放物線上を描くように3人に向かって無数の炎が襲い掛かる。

その勢いに避けようとしたが、間に合わずそのまま直撃し、ドーム状に大きく爆発させる。

黒煙が爆風によって疾嘉達に振りかかる。

誰がどう見ても、消し炭になっただろう。

彼らの生きてる痕跡すら黒い炎によって塗りつぶされ、消されているのだから。


「また、つまらない者を消し炭にしてしまった・・・なの」

「あーあ、こんなに爆発させちゃっていいんッスか?ほら、森まで燃やしてちゃってるじゃないですか!解毒薬のサンプルを取る為にここまで来たのにどうするんすかこれ」

「アメンボ、うるさいなの、それにこれぐらいの爆発なら半壊だけで済むなの」

「アメンボ!?最初のアと文字数しか合ってッスよ!?しかも、半壊でも十分駄目じゃないッスか!?」


二人は人を簡単に殺したというのに、いつも通りの日常会話をしている。

それが、彼女と彼の日常なんだろう。

だが、黒煙からなにやら物音が聞こえる。

それは何かを踏み込む音


その瞬間だった


黒煙から、何かが飛びだしてくる。

その鋭く光る何かは疾嘉の顔に目掛けて突くように攻撃してくる。

疾嘉は油断していた、いつもならここで終わる筈の事なのに、終わっていなかったのだった。

疾嘉は瞳孔を見開き顔をわずかに逸らす。

その攻撃された刃が疾嘉の頬を掠める。

掠めた頬から血が細い線のように下に滴るように落ちていく。

黒煙が上がるとそこには凄まじい闘気を放つ美空の姿だった。


「おー、生きてたんですねぇ」


美空と目が合う。

美空は疾嘉に睨む、その目を見た疾嘉は心の中で感心する。

疾嘉は顔に付着した血を手で拭い舐める。


「私の攻撃を受けて生きてるのも凄いけど、貴方のその目も良い感じなの」

「・・・ッ」


疾嘉はそのまま美空の腕を掴み顔近づける。

そのまま、不気味に微笑み耳元で囁くように話す。


「フフッ・・・でも、その行動は悪手なの」


そう耳元で呟いた途端、掴まれた腕から激痛が走る。

腕の激痛は体内の血管が蠢く感じがした、その動きが急にピタッと止まる

その瞬間、血管が破裂し細切れにされた感覚に陥る。

その痛みに美空は悲痛な声で叫ぶ、まるで殺すなら殺してくれと言わんばかりに


「あああああああああああああああああああああああ!?」

「ナイスリアクションなの、体内の魔力の回路をぐちゃぐちゃにさせるだけでこんなにも良い悲鳴が聞けるなの」


その叫びは洞窟に響く。

隣にいる男は若干ドン引きしていたが、疾嘉に至っては恍惚な顔でその鼻水と涙にくしゃくしゃなった痛みに耐える美空を見つめていた。


「美空ぁあああ!!」

「美空ちゃん!!」


その叫び声に聞きつけ、残りの二人が飛び出してくる。

一樹はそのまま疾嘉に向かって攻撃する。

流石に片腕を掴んだ状態で攻撃を連撃されれば攻撃を受ける事になるだろう

疾嘉はそのまま美空の手を放し一樹の攻撃を避けた。


「佐野!美空を頼む!獅子・樹影連打!!!」

「わ、分かった!気を付けてね!」


繰り出される、拳に魔素エネルギーを纏い拳圧を飛ばす、飛ばした拳圧は獅子の形になり無数にある獅子の牙が疾嘉に襲い掛かる。

だが、疾嘉は恐怖というよりも物珍しそうに驚きを見せた。


「おぉ、仙人の技なの!仙人のスキルは珍しいから興味ありますねぇ」

「美空に何しやがった!」


感心の言葉を贈る疾嘉だが、一樹はそんなのには眼中には無かった。

ただ、友に傷つけられて怒りをぶつける一樹

疾嘉はその猛攻撃の中を軽々と避ける。


「縮地!」

「おぉ!縮地も使えるなの!」


疾嘉から一気に距離を詰めて、中段蹴りを食らわせようとした。

その綺麗な中段蹴りは疾嘉に目掛けて重い蹴りが放たれるが、その蹴りは完全に受け流される。


「でも、少しその蹴りにはブレがあるなの」


疾嘉は跳躍して一樹と"全く同じ様な"蹴りを食らわせる。

急な攻撃と素早い攻撃は反応できずに顔面に直撃する。

小さな体でその重い蹴りは一樹以上の威力が出ている事を感じる。


「カハッ!?」

「"普通"のキックはこうやってやるなの」

「一樹くん!!」


佐野の叫び声が聞こえる。

一樹は岩壁に向って吹き飛んだ、一樹は体勢を立て直すべく吹き飛ばされたまま体を回転してダメージを受け流した。

そのまま、体勢を直して岩壁に激突することなく足で着地する、そのまま顔を上げると・・・


疾嘉が目の前にいた。


「んだよ・・・何でもありかよ!?」

「大賢者だから仕方ないなの」


そのまま、何処からか剣を取り出して一樹に向けて切りかかる。

間一髪、一樹はその攻撃を避ける事ができた、そのままカウンターをお見舞いしてやろうと思った一樹は疾嘉に向って鋭い正拳突きを疾嘉に目掛けて攻撃する。

だが、その攻撃は片手で受け止められて、拳を掴んだ状態になる。

一樹は嫌な予感がした。


「二人目なの」

「ぐ・・・!」


一樹の腕から激痛が走る。

思わず、その腕を一樹は掴み激痛に耐える。

美空とは違って、激痛でいても叫ぶことはなく冷静になることができた。

それは一樹のスキルの【悟り】能力であった。

そのスキルが無ければきっと断末魔をあげていただろう。


「おぉ、魔力回路をぐちゃぐちゃにしても叫ばない人なんて珍しいなの、思っていたより頑丈なの」

「魔力回路・・・?なんの事だ?」

「知らないでここまでLVを上げてたんですか?なんと言いますか宝の持ち腐れっていうやつなの・・・」


疾嘉が言っていた魔力回路の事を疑問に思い、目を瞑って何のことか冷静に考える。

激痛が続く中、一樹は精神統一をする。


「(魔力回路?回路って事は魔力を流れる通路みたいのがあんのか?)」


一樹は精神統一を始める。

疾嘉はその事に疑問に思いその様子を見ていた。

一樹は精神統一し始めると何かが見え始める

それは自分の身体だろうか?青い線が見えてくる。

その青い線は身体中に川のように流れていた。

ふと、右腕をみてみると青い線がゴッチャになった電線コードみたいにぐちゃぐちゃになっていた。


「(原因はこれか?)」


そのぐちゃぐちゃになった電線コードを解こうと試みる。

その器用な手つきで解いていく、その度に痛みが和らいでいくのが分かる。

ここで疾嘉は気づく、一樹が腕の回路を直している事に


「なるほどな、普通のヒールじゃこの傷を治せないな」

「頭に悪そうに見えて意外と飲み込みが早いなの」


一樹の腕の痛みはすでになくなって、再び構えながらいう。

思う節があるのか、敵に対して質問をする。


「なぁ、いくつか聞きたいことあるんだがいいか?」

「む?そうですねぇ・・・私の攻撃受けて生きているわけだし、良いなの」


一樹はその言葉を聞いて、構えるのをやめた。

それを見た疾嘉は一樹に少し文句を言う


「敵を前にして、構えるのをやめるのはどうかと思うなの」

「話を聞いてくれるんだろ、別に話をするっていうのに構えてちゃ集中できないだろう」


そして、ゆっくり深呼吸をして話をする。


「なぁ、本当ならすぐに俺達を殺せたんじゃないのか?」

「何故そうおもうなの?」


さっきから疑問に思った事があった。

疾嘉と名乗る少女はいつでも殺せた筈、きっと彼女なら腕を掴んだ瞬間に殺せた筈なのだから。

それに最初の一撃は・・・


「最初の一撃を何故、わざと外したんだ?」

「な、何の事かなー・・・なの」


疾嘉はわざとらしく目を逸らした。

あの時、佐野が咄嗟にスキル【バリア】ドーム状の光の壁を発動していたのだが、なぜかその炎は避けるようにそのまま地面に落ちた。

あの時は二人はビビッて目を閉じていたが、一樹は見ていた。

それでも疾嘉は拭けない口笛をヒューヒュー言いながら誤魔化す。


「言いたくないなら、別に良いけどさ・・・」

「しつかわからないもーん・・・なの」


そして、一樹は質問を続けた。


「なぁ、俺達は仲間を探しているんだ」

「仲間ですか・・・なの?」

「俺達はフィルネル王国の勇者として召喚されたんだ」


その事を聞いた、疾嘉は眉がピクリ動くのが見えた。

そのまま、手に持った武器をしまい、戦闘状態を解除する。


「なーんだ、そんな事だったら早く言うなのー、勇者を殺したら大変な事になるなの」

「いや、そっちから攻撃してきたじゃねぇか!!」

「グズグズしてる方が悪いなの」


そんな、理不尽な目に合ったが戦闘は一時休戦になる。

疾嘉は腕を組んで立っていると。

隣の男が話はじめる。


「ハイハイハイ!疾嘉ちゃんの軽い冗談でやっている事だからごめんなさいッス!」

「ちょっと!余計な事を言うなの!」

「は?冗談?」


そのあまりの事実に口が空いてしまう。

もはや、冗談レベルの戦闘と被害じゃなかった。

一瞬、怒りを覚えたが一樹は冷静に考えて今はっぐと堪えることにした。

すると、疾嘉は未だに痛みに悶える美空の方に近づく。

疾嘉は抑える腕を掴み、何かを始める。

その瞬間、先ほどまで悶えていた美空は大人しくなり、そのまま気絶する。


「これで良いなの」

「意外とあっさりしてるんだな」

「まぁ、疾嘉ちゃんの廃レベルのジョークは基本的に組織にしか通用しませんからねぇ!普通の一般人だと拷問でしかないッスからね!」


一樹はその拷問というそのジョークは苦笑いするしかなかった。

そして、質問の続きを話はじめる。


「実はこの谷底に仲間が落ちてな、それで探しに来たんだ」

「ふむふむ」

「名前は黒杉 楊一だ、聞き覚えないか?」

「おぉー!あの方のお友達でしたか!なの」

「し、知っているのか!?」


一樹は思わず疾嘉の肩を掴む

しかし、それが嫌だったのか手で払う。


「触らないでほしいなの」

「す、すまん!やっとの手掛かりなんだ、思わずやってしまった。」

「ふーん、まぁいいなの」


そして、疾嘉は話はじめる。



「結論的にいうと、生きてるなの」

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