第39.5話 私は勇者になってしまったようです・・・(中中中)の話

一週間経って、私達は魔獣討伐に北の国、スノーガーデンに向うことになった。

私達は国王様に挨拶をして、フィルネル王国から旅立ったのだった。


御剣はあの出来事からあまり眠れなくなってしまい、眠くなるまで剣を振っていた、


(眠いけど・・・集中しなきゃ)


道中はゴブリンやオーク達が出てくるが、聖剣によって豆腐のように斬れた後、魔物は浄化されて跡形もなく消えた。

そうして、私達の旅は順調に進んでいた。


―――北の嘆きの洞窟


洞窟の中に入れば、すぐに暗くなり、白い吐息が目立つ。


(暗いなぁ・・・)


クラスメイトの一人の生徒が精霊を呼び出して、洞窟を照らした。


(精霊かぁ、良いなぁ・・・、私も精霊と仲良くなりたかった・・・。)


洞窟が明るくなると、壁には人の顔っぽいものが浮かび上がっていた。

顔だけならまだしも、その表情は全て嘆いているように見えた。

御剣は内心、恐怖で震えているが皆の士気をさげない為に平常心を装った。


(ひえぇー・・・、私はホラーは苦手なんだよぉー勘弁してくれぇー・・・)


洞窟をしばらく歩いていると、魔物が出てきた。

今まで出会ってきた魔物と違って大きさもスピードも段違いだった。

生徒達はビビッて動けなくなっている。


(このままじゃ、皆がやられてしまう!)


私は大きな声で皆に声を掛けた。


「怯むな!今まで通りにやれば大丈夫だ!、魔法隊は火炎魔法を詠唱をしてくれ!」


その瞬間、バラバラだった陣形はすぐに保たれる。

皆の目つきは変わる、先ほどまでの情けない表情するものはいなくなった。

なんとか、魔法隊の攻撃のおかげで奥に進めるようになったが魔物の強さがさらに強くなっていくのが分かる。


その瞬間、魔物の不意打ちされて、腕に傷が出来る。

私はその痛みに耐えて、魔物を切り裂いた。


「っく・・・」


すると、ヒーラーの一人が傷に気づいて回復してくれた。

じんわりした痛みは徐々になくなっていくのが分かる。


「あいがとう・・・」


「いえいえ、黒杉さんに言われなければ気づかなかったので」


ヒーラーの子がそう言ったのだ。

やはり、黒杉くんの視野は広いなぁ、戦えない代わりに自分が何かできないかを一生懸命にさがしている。

彼の姿を見ているともっと守りたくなってくる。

するとアルバートが何かに気づいたのか、私に言ってくる。


「まずいな、予想以上に魔物攻撃が激しいな、このままだと埒が明かないな、一旦撤退しないか?」


だが、今から戻るとなれば魔物に挟み撃ちされるかもしれない、なんたってかなりの量の魔物が攻めてくるんだから。

ここで引くのは得策ではないと思う。

なら、私が頑張るしかなかった。


「大丈夫です!まだいけます!」


大量の魔物が攻めてくる中、私はスキルを唱える。

聖剣はスキルを唱えると、神々しく光り輝いた。


「ジャッジメント・クロス!!」


魔物に十字に斬りつけて光の粒子を放つ

その光に飲み込まれた魔物達は粒子になって浄化されていく。

クラスメイトの一人が言う。


「綺麗・・・」


光の粒子は私の周りを舞うように降り注ぎ、そのまま地面に溶け込んでいくのだった。

思っていた以上に、MPがごっそり持っていかれた。

すると、誰かが私の肩を叩く、振り向くとそこには黒杉くんが立っていた。


「はい、これMPの回復薬だよ」


私は渡された、回復薬を受け取る、その時に黒杉君の優しい手に触れてしまった。

やばい、ドキドキしてきた。

と、取り合えず、お礼だけでも言わなきゃ・・・。


「黒杉くん、ありがとう助かる」


「ハハ、僕にはこれしかできないので...」


「そんなことないさ、君のサポートは的確で助かる。」


私は嬉しくて微笑んでしまった。

だって、これが"初めて"の会話なんだから、どうしよう顔が熱くなってきた。

こんなにも顔が近いと顔が赤くなってないか気になる。


(やっぱ、黒杉君は優しいなぁ・・・)


私はいくつか貰った回復薬を飲んで、最後の一個は大切に懐にしまった。

私達は洞窟をに進むにつれて、プレッシャーが大きくなっていく。

だが不思議と魔物の姿が見当たらないのだ、どうやらプレッシャーで奥にいた魔物がこちらに一直線に向って逃げたのかな?

そのあまりにも強いプレッシャーは私達の動きを鈍くさせた。

此処から出て行けと言わんばかりに殺意を向けてくるのだ。


だが私は


「ここまで来たんだ、今更撤退なんてできない。」


私はそう言って、洞窟に突き進む、長い長い洞窟を


―――――最深部


どうやら、最深部に着いたようだ。

私が一歩踏み出すと、周りに青い火が付く。

奥の方から魔物の気配を感じた、

強い、今までの出会ってきた魔物の中で桁違いに強いのが分かる。

周りの皆は狼狽える中、私は聖剣を構えた。


奥から出てきたのは10mぐらいだろうか?

三つ首の犬だった、その表情はあまりのも獰猛だった。

今でも、攻撃してきそうに私達に殺意を向ける。


すると、アルバートさんが驚いた。


「何故!こんなところにケロベロスが!?」


「どうしたんですか!アルバートさん!」


「何が何も、本来はケロベロスはここに出現などしないのだ!」


「な、なんだと?」


アルバートが言うには、元々地獄にいる魔物らしく、ヨハン国王が封印した魔物らしい。

生徒達はその話を聞いて、命乞いをする、死にたくない、助けてという叫ぶ声がちらほらと聞こえて、完全にパニック状態だった。

私も正直、怖くて足が震えている、だけど・・・

目を閉じ、深呼吸をした。

私は黒杉くんの姿を思い浮かべると安心できた、さっきまでの震えは消えて覚悟を決める。


(そうだ、私はクラスの皆と黒杉くんを守らないといけないんだ)


聖剣を構え、皆に一喝する


「諦めるのはまだ早い!!!」


私は踏み込んだ、誰よりも早く、誰よりも強く。

私は小さくつぶやき、スキルを唱える。


「『一閃漣真(いっせんれんま)』・・・!」


私はケロベロスの首に目掛けて、その一閃の聖剣を鋭く斬る。

斬られた首は遅れて、ゆっくりズレてボトリ落ちる。


クラスメイトは歓声をあげる。


「キャー!みつるぎさぁーん!!」

「流石、御剣さんだ!!」

「や、やったのか?」


おい!最後の奴!そのセリフを言うな!フラグが建っちゃうでしょ!?


その瞬間、嫌な予感がして後ろを振り向くと、ケロベロスの頭が再生されていく

ほら見た事か!やっぱりフラグじゃないか!


すると後ろから。


「な!頭が再生しただと!?」


「あいつの厄介所だ!アイツの核なる所が三つあるんだ!それを破壊しない限りはずっと再生する!」


「その核はどこにあるか分かりますか、アルバートさん?」


「すまねぇ、それは俺にもわからねぇんだ」


「そうですか…」


どうやら、核を潰さない限りは再生し続けるようだ。

私は後ろのクラスメイトに命令をするように指示をする。


「皆!ここで奴を倒すぞ!魔法隊は雷撃魔法を用意!前衛は僕に続け!」


聖剣を再び構えると、ケロベロスは吠えた。

その遠吠えは、ケロベロスの魔力を増大させ、赤いオーラを纏う。

私はケロベロスに向って攻撃をする。


「てぇやあああ!!!スラッシュ!!」


攻撃で傷はつけるのだが、傷は直ぐに塞がり再生される。

だが、山崎くんが追撃してくれたり、晴渡さんが生徒を守ってくれるおかげで安定して戦えた。

二人が時間稼ぎをしたおかげで、クラスメイトの詠唱が終わった。


「よし、撃て!!!」


「「「「「”暴雷の嵐(トリニティ・テンペスト)”!!!」」」」」


激しい雷が束になって、ケロベロスに襲い掛かる。

ケロベロスは足元がふらついている、今がチャンスだ!

私は全力でスキルをぶつけることにした。


(これで決めなきゃ!)


正直、魔物達との戦いでかなり体力が消耗していた。

普段はこんなに無理はしないんだけど、だけど、守らなきゃいけない人がいるから私は戦う事にした。


「天命剣「リミテッド・ソード」!!!!!」


私は渾身の力を込めて、剣を大きく振りかぶった。

ありったけの魔力をこの剣に込めて一刀両断する。


だけど、足りなかった、魔力、力、スピード何もかも。

ケロベロスを倒すまでに至らなかったのだ。


「アオォオオオオオオン!!!」


「な、なんだと」


ケロベロスは傷が徐々に回復してく、私は力を使い果たして歩けなかった。

先ほどよりも、さらに魔力のさらに強くなっていくのが分かる。

ケロベロスは私と憎むように目で狙いを定める。


「っく!ここまでか?」


「アオォオオオオオオン!」


私は色々思い浮かべてながら目を瞑った。


(やだなぁ、此処で死にたくなかったんだけどなぁ・・・)


私は一週間前の事を思い出す、黒杉くんと美空さんとの出来事を

せめて、手を繋ぐぐらいしたかった、恋は叶わくてもいいから、あの優しい手をもう一度・・・。

泣きそうになる心を抑える。


「うおおおおおおおおおおお!!!」


そう思ってた時の事だった、突然の出来事でびっくりして前を見た。

そこには、黒杉がこっちに向って走ってくる。


「黒杉!?」


「届けぇえええええええええ!!!」


私は黒杉くんに突き飛ばされて、代わりにダメージを肩代わりをする黒杉くんの姿があった。

あまりの出来事で困惑した。


(え、なんで!?、黒杉くんがこんな所に!?)


「グボァアアア!?」


黒杉くんはそのままケロベロスの突進で吹き飛ばされる。

このままだと、壁に激突してしまう。

私は手元にある回復薬を飲んで全力で走り出して、そのまま黒杉くん受け止めた。

あともう少しで反応が遅れていたら、壁に激突してただろう。


「「楊一!?」」


晴渡さんと山崎くんもこの出来事に驚いて近寄ってくる。


「黒杉!何故君が!」


「そりゃぁ、自分ができることをしただけだ」


黒杉くんは今でも倒れそうになのに立ち上がった。

その立ち姿は見た事ある光景だった。

そう9年前に救ってくれた、あの黒杉くんを思い出したのだ。


(あぁ、やっぱり、黒杉くんは黒杉くんなんだな・・・)


私はその光景は思い出しながら、黒杉くんに触れようとしたが出来なかった。

黒杉くんは私を見て言う。


「撤退の指示を出してくれ、御剣しかできないんだ」


「でも君が...」


私は目を閉じて考える。


(そんなの無茶だ、ただえさえ傷だらけなのに・・・)


だが、黒杉くんの目が私を真っすぐ見て言う。


「大丈夫だ!僕ならすぐに追いつく!」


あぁ、そうだこの人はこういう人なんだ。

最後まで諦めない所に僕はこの人に憧れ、恋をしたんだ。

私はそれに影響されて最後まで諦めなかったのに、ここで弱音を吐くなんてらしくないな。

なら私がすることは一つ


「分かった!すぐに来てくれ!」


「あぁ!」


彼を黒杉くんを信じる事だ!


私は直ぐに指示出した。


「一度撤退だ!これ以上戦っても、勝ち目はない!撤退だ!」


私が逃げようとするとケロベロスは私を追いかけようとするが、黒杉くんは短刀をケロベロスの目に向けて投げて見事命中させた。


「よう!鬼ごっこは好きか?」


私は黒杉くんのおかげでなんとか逃げることができた。


(黒杉くん、私は信じてる)


私は走ってくる黒杉くんを見つめる。

あともう少し、クラスメイトの声が黒杉くんを呼ぶ声が聞こえる。


「黒杉!!こっちだ!!」

「楊一!」

「楊一くん!」


だが、此処で悲劇が起きた。

黒杉くんがあと一歩の所で足場が崩れた。

私が叫ぼうとした瞬間、それよりも早く叫んだ人がいた。


「楊一!!!!!!!」


晴渡さんと黒杉くんは互いに手を伸ばすが、その手は届くことはなかった。


(そんな・・・、黒杉くんが・・・)


生徒達は深い谷底を見つめるが、楊一の姿は何処にもなかった。

そんな中、晴渡さんは現実を受け入れられないのか、谷底に飛び込もうとした。

それを見た、山崎くんは晴渡さんに組み付いた。


「放して!!!楊一!!楊一!!!」


「晴渡さん!!落ち着いて!!」


「美空、落ち着け!!!」


物凄い力だ、生徒達は晴渡さんの剣幕にビビっているのか二人で止める事しか出来なかった。



「私が守るって言ったのに...!どうして!いなくなっちゃうのよ!」


「「・・・」」


私は晴渡さんの"守る"という言葉聞いて黙った。


(結局、私は黒杉くんを守ることが出来なかった。)


私は唇を噛み締めた。

晴渡さんは再び口を開いて言う。


「一樹!貴方までなんで止めるのさ!!親友じゃないの!?」


「俺だって探しに行きてぇよ!!!でもな楊一がやってくれたこと忘れるな!!

何の為に俺たちを逃がしてくれたと思ってんだ!!」


山崎くんの言ってる事は正しかった。

だけど、これには私にも責任があった、あの時私が無理にでも連れて帰ればこうならなかっただろうに。

あの時、私が代わりになれば・・・。


山崎くんの言葉を聞いて、晴渡さんは泣き崩れた。


「どうしてよ、楊一、なんで一人で行っちゃうのよぉ、うぇぇぇ...」


周りを沈黙する中、山崎くんはそれを許さなかった。

山崎くんは怒鳴った。


「美空!いい加減泣くのをやめろ!そしてあいつを勝手に殺すんじゃない!!」


「一樹…?」


「あいつは絶対に生きている、俺は信じてる、だから強くなってまた探しに行こう」


「一樹…」


山崎くんの瞳は真っすぐだった、まるであの人を連想させるように。

きっと、山崎くんも黒杉くんの意思を継いでいるんだ。


そうだ、黒杉くんの死体を見たわけでもない、生きてる可能性がだってあるんだ。

私はその可能性を信じることにした。

きっと生きてる、私はそう言い聞かせた。


「そうだね、勝手に彼が死んだとは決めつけはいけないね」


「御剣くん」


私は皆に言う


「いったん、王国に戻ろう」


私達は僅かながらだけど、黒杉くんの意思を継いで王国に戻ることにした。

帰り道、急に寒気がして、ふと後ろを見ると


板野が不気味に口角を上げて笑っていたのだ。

その姿を見て私は悪寒がした、何故なんだろうか?

何故あの状況で笑っているのだろうか?

私は不安になりながら、王国に戻ったのだった。

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