107 従者達は真夜中に語らう その4
「どういうことだ? 念のため、聞いておいてやる」
止めるにしても、季白の考えを聞いてからにしようと、期待を込めずに返す。季白がすらすらと説明した。
「いまの明順は一介の従者にすぎません。龍翔様はもちろん、玲泉様との身分の差は歴然。もちろん、そのような事態を許す気はありませんが、玲泉様が強引に明珠を奪ったとしても、泣き寝入りするしかありません」
「それはまあ……。そうだろうな」
まったく忌々しいことだが、季白が言うことは真実だ。
どうしても身分の低い者のほうが割を食う羽目になる。
「ですが、遼淵様の娘であり、龍翔様の婚約者である令嬢に玲泉様が無体を働いた場合にはどうなります? 龍翔様や遼淵様から正式に抗議ができますし、玲泉様を罪に問うこともできます。不問に処す代わりに、蛟家の援助を引き出せる可能性もあるでしょう」
「でも、玲泉サマが遼淵サマに、明珠チャンをぜひ嫁に! って横槍を入れたらどーするんスか?」
安理が疑問をはさむ。待ってましたとばかりに季白が頷いた。
「いままで不明だった明順の素性が明らかになれば、確実に玲泉様と蛟家は動くでしょうね。波の貴族なら、名門・蛟家の圧力に膝を屈することでしょう。ですが――」
季白が思わせぶりに言葉を切る。
「相手は、あの遼淵様ですよ?」
「確かに……」
「それは……」
「一筋縄じゃいかなさそうっスよねぇ……」
季白の言わんとしたことを察して、思わず頷いた張宇、周康、安理の三人に、季白が満足そうな笑みを浮かべる。
「そうです。遼淵様はよくも悪くも、世俗の権力に
「確かに、遼淵サマは宮中の権勢争いなんて、どこ吹く風ってゆー御方でしょうケド……」
安理が心配そうに眉を寄せる。
「逆に、《蟲招術》関係のコトなら、ほいほいつられちゃいそうじゃないっスか? 蛟家が珍しい術が封じられた家宝を持ってきて、『これと引き換えに明珠チャンを……』とか言ったら、二つ返事で頷いちゃいそうっス……」
ありえる。遼淵なら、大いにありえる。
高弟の周康も大真面目な顔で頷いているところからするに、安理が危惧するのも当然だろう。
張宇も不安を口にする。
「それに、遼淵様は決して親子の情に
己の好奇心が満たされることが第一、という遼淵の姿勢は、ある意味、安理に通じるものがある。何とかに刃物状態になるので、遼淵と安理の組み合わせは、張宇としては、できる限り避けたいところだ。
「その点についても抜かりはありませんよ。遼淵様には、何としても龍翔様と明珠を結ばせたい理由がありますから」
「理由?」
問い返すと、季白が自信ありげに頷いた。
「龍翔様が禁呪が解けるまで、明珠と床をともにした場合、何が起こると思います?」
「……龍翔様がもっとお幸せになられる……?」
季白の問いかけに、思い浮かんだ答えを言う。安理が「はいはーい!」と元気よく手を挙げた。
「今以上にオモシロイ龍翔サマが見られると思うっス! いや~っ、からかい甲斐がありそうっスよね~っ♪」
「安理、お前な……。そのうち、龍翔様に叩っ斬られるぞ」
どこまでも己を貫く隠密に、思わず嘆息が洩れる。
「龍翔殿下が精気に満ちて、今以上にご公務を励まれるようになられれば、それは喜ばしいことと思いますが……。同時に、明珠お嬢様という弱点を抱えたと、政敵に知らしめることになってしまいませんか……?」
周康が真面目な表情で懸念を口にする。
周康の心配はもっともだ。張宇も、天真爛漫な明珠が、王城に巣食う
「周康殿の懸念については、わたしもしっかりと対策を考えねばと思っています」
深く頷いた季白が、
「ですが、わたしが言いたいことはその点ではないのです」
と重々しい様子で言を継ぐ。
「龍翔様と小娘が床を共にすれば……。当然ながら、御子が生まれる可能性が出てきくるでしょう?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます