第44話 アリッサに直撃インタビュー3

昔の「探偵!ナイトスクープ」でこんなエピソードがありました。依頼主(成人した子供を持つ中年の主婦)のご主人は依頼主と十数年も口をきいていない。依頼主はなぜ、夫が自分と口をきいてくれないのか、さっぱりわからず、探偵さんの力をかりて、なんとか理由を聞きだしたい。


判明した理由。このご主人はね、奥さんとの小さな口論がきっかけで、意地を張っちゃったんですね。「おまえなんかと口をきくもんか」って啖呵切ったら、いつのまにか、再び奥さんに話しかけるきっかけが掴めなくなっちゃった。引くに引けなくなっちゃって、十数年もの間、口を閉ざしていた。最後にこのご主人は奥さんに泣いてあやまりました。「子供みたいに意地張って、ごめんね、本当はいろいろ話がしたかったんだよ」って。成人した子供たちも「よかったね」って涙を流してた。


わたしは、アリッサに長い間腹を立て続け、「アリッサの話なんか聞いてやるもんか」って思ってた。このご主人みたいに。


もっともっと早くにアリッサの声に耳を傾けていたらよかったな。インタビューなんて口実。わたしはアリッサの本当の気持ちが知りたいのです。



さあ、質問にいってみようか。

「今後の目標は?」「老後はどんなふうに過ごしたい?」



見栄はらず、正直に答えるね。ポルシェを買いたい。それが自分の夢。子供の頃からポルシェが好きで、子供部屋の壁に何枚もポスターを貼っていました。ポルシェはね、高級車というより、走りに重点が置かれてるとこが魅力なの。サーキット用にデザインされたピュアなスポーツカー。


車を運転するのが大好きです。運転しているときはトランス状態、恍惚状態、もしくは入神状態になります。もちろん安全運転を心がけているけどね。自分をすっかり忘れて、神の世界に突入しちゃう感じ?ヨガと同じですね。イヤなことも全部忘れちゃう。残りの人生、一度はポルシェを自分のものにして、海岸沿いを豪快に走りたい。


ヨガは死ぬまで続けます。最近はじめたポールダンスもそう。おばあちゃんになってもがんばりたい。ロサンゼルス在住の女優で、政治活動家、作家、フィットネスインストラクタ−のJane Fondaがわたしの目標。80歳という高齢にも関わらず、彼女は聡明で美しい。ヨガフィットネスを教えているときの彼女の体を見たことがある?まるで、しなやかな筋肉を備えたヴィーナスみたい。心と体を鍛えて、年をとっても内面から美しく輝きたい。


家族について。娘たちには多くを望みません。強い心を持ち、正しい選択をして、幸せになってほしい。もし道に迷ったら、わたしや愛に遠慮なく相談してほしい。


愛はいつも夢に向かって走り続けているから、彼女の夢が叶うよう、側で応援していきたい。



タイに住む母親について。わたしがカミングアウトしたショックからまだ抜けられずにいるのが、とてもつらく悲しい。受け入れてくれるまで、どれだけ時間がかかるかわからない。一生受け入れてもらえないかもしれない。でもこちらから、あれこれがんばってアピールする気持ちはなくて、彼女の気持ちをレスペクトし、そっと見守っていきたいと思う。





パートナーのわたしとしては、ポルシェでずっこけたけど、正直でよい。きれいねお姉さんがポルシェを飛ばしてたら絵になるね。わたしはあなたとともに、貯蓄とか投資についてお勉強したいです。そしたらポルシェも夢じゃない。



次回のアリッサへの質問。「はじめて女性用トイレを使った感想は?」「トランスジェンダーのトイレバトルについて教えてください」。

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