第6話 カミングアウトまで part 3 「絶望だね」

前回の続き。

わたしをどん底に陥れる事件が続き、夫がカミングアウトした後に…




夫に対して聞きたいことは山ほどありましたが、まずどうしても知りたかったのが、なぜ私に一言も相談せず、娘たちに打ち明けてしまったのか。娘たちは当時まだ7歳と9歳でした。


「なぜ、私に先に話してくれなかったの」

「どうして、カミングアウトするのを娘たちがもっと大きくなるまで我慢できなかったの?」。



「どうしても言い出せなかった。勇気がなかった。離婚されて、愛や娘たちを失うのが怖かった」と夫。




これは痛かった。娘からの報告でノックアウトされ、さらにその切り傷に粗塩を擦り込まれるような痛みに、心と脳が悲鳴をあげました。


1997年に知り合い、20年近く一緒にいたのに。こんなに重大なことをわたしに一言も相談できないほど、夫婦関係は壊れていたのだなと改めて気付き、悲しみが一層増しました。




娘たちが成人するのを待たずにカミングアウトしたのは、当時通っていたカウンセラーやトランスジェンダーの会のアドバイザーに「年齢が低ければ低いほど、子供たちはトランスジェンダーの親の変化を受け入れやすい」と助言を受けたからだとか。




彼の説明が耳にはいりませんでした。自分の「女性になりたい」という欲望を押さえきれず、私に相談もせずに小学生の娘たちに打ち明けてしまった彼に絶望しました。




前にも書きましたが、「今まで我慢し続けて、つらかったんだろうな」といった彼への労りの気持ちなどはこれっぽっちも浮かばす、彼のおろかさ、無責任さ、自分勝手さへの怒りで、爆発しそうになりました。


今振り返ると、わたしこそ自己中で残酷でした。ごめんなさい、アリッサ。

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