エピローグ:俺の周りは変わったけれど、俺は結局俺だった

 俺が思ってる以上に、俺の噂は広まって浸透してた。

 救世主を否定しようにもできないほどにな。

 そして驚くことに、アンチがいねぇ。

 怪しむ奴はいたけどな。


 だから、そこでも歓迎された。

 そして今、無理やり嫁候補を押し付けられてる。

 こっちが金持ちで、それを狙うってんなら警戒するし拒否もする。

 相手に途轍もない借金があるってのもそう。


 つまり、外堀は埋められてた。

 相手は誰かって言うと、カウラの曾孫。

 カウラから見りゃ、玄孫と曾孫が結婚するってことだ。

 そいつの素性も知らねぇから、即お断りしたんだが、俺の仕事に付き添うっつって……。


 また押し掛けられた。


「名前も顔も覚える気はねえ。それでもいいなら好きにしな」

「はいっ! よろしくお願いしますっ!」


 綺麗な容姿と顔つき。

 それ以外に特別な感想はない。


 そして今に至る。


 屋根裏部屋での雰囲気は良くなった。

 悪くはなかったが、握り飯をただで持っていけっていう俺の基本的姿勢が、連中に心苦しさを感じさせてたみたいだった。

 アイテムと交換を基本的なルールにした。

 どの異世界のアイテムでも、カウラの世界では活用できたからな。


 カウラは身内の俺を今まで放置したことを詫びたかったらしく、その意味でも仕事せずとも一緒に生活させたかったらしかったが、それだとさすがに俺が居心地が悪い。

 金じゃなくアイテムを稼ぎに、屋根裏部屋に働きに出るってとこだな。


 だがそれを良しとしない奴らがいた。

 コルト、シェイラ、ショーアの三人だ。


「カレー……もう食べられないんですか……?」

「コウジッ! こっちにも来て、作りなさいっ!」

「私の仕事の苦労は……報われないというのですか……?」


「それほどの料理、私も食べてないのでお互い様ですよ」


 ちょっと論点がずれてると思うぞ? 現助手。


 ※


 相変わらず他の冒険者から訪問の誘いを受けているが、その誘いに乗る気はない。

 ここで握り飯を作り続けているからこその評判と言うことも分かってるしな。

 これをしてなきゃ、俺は何の取り柄もない一般人も同然だし、この助手だってこんなことをしてなきゃ俺に好意を持つはずもない。


 だから、と言うわけじゃないんだけどさ。


 命からがら逃げてきた連中に、言葉で追い打ちをかけながら握り飯を作る。

 そして、それを食って元気になってここから出ていくこいつらを見送る。


 誰にも言うつもりはないんだけどよ。

 出ていくそんなこいつらのことを好きになってたらしいな、俺。


 だから俺は、今日も握り飯を握ってる。


 了

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