人と鬼の間に生まれた子供 そして今に至る
「なぜ、こちらに孫ができる程年月が経ってからそんな噂が流れるのか、とな。なぜあの男がそう呼ばれなかったか……」
「年追うごとに、その部屋に来る連中の人数が増えていったからじゃねぇの? こっちには何の責任もない。勝手に噂を流す連中に文句を言えっての」
「……人間なら寿命で死ぬ。それでもあの男のしていることが未だになお続いている。そう信じておった」
「裏切られた、か?」
「……留蔵、と言う名前に覚えはないか?」
「ないな。あるのは」
「以蔵、そして徳蔵、と言う名前には?」
……まぁ、分かってたけどさ。
「見たことのない曾爺さん。そして育ての親の祖父さんの名前だ」
「……実の親は?」
その説明、何度目だろうな。
言い飽きたけど、説明しなきゃ分かってもらえないよな。
「子供の頃事故死した。祖父さんと祖母さんが育ての親」
「そうか……。孫……そして玄孫のお主には、苦労かけたな」
……申し訳ないが、俺には何の感慨もない。
「俺には、今目の前にある米研ぎのことで頭がいっぱいだ。ここを継いでからはずっとここに缶詰めだよ。あんたにだけは、ここに何度も来ることを許してやる」
つまり目の前にいるこの鬼女は、俺の高祖母ってことになる。
そんな相手にどんだけ上から目線な物の言い方するんだって、我ながら思うけど、つい口に出ちまった。
「留蔵が……お主の中で生きている……そう思えてな……」
……泣かれてもな。
俺の何かの助けになるわけじゃなし。
「……驚いた……コウジ、人だと思ってたら、他の種族も混ざってたのな……」
斧戦士、人の会話に混ざってくんな。
「俺……いや、俺だけじゃねぇ。俺の世界の連中だけじゃねぇ。ここにきてお前に世話になった連中、みんな言ってるんだ。お前への恩返しできねぇかってな」
「恩を着せてるわけじゃねぇ。気にすんな。困ったときは互い様……」
「互い様じゃねぇよ。俺達が、一方的に助けてもらってるだけなんだよ」
斧戦士も斧戦士で、何か悲しそうな顔してやがんな。
もらい泣きか?
「大金を払うなりなんなりしてぇが、それが通用しねぇ。貴重なアイテムも、そっちじゃ使い物にならねぇ。このままじゃコウジ、あんたが報われねぇ」
「この部屋を利用する者がいなくなるのが一番の恩返しってことになる気がするが?」
シリアスな話題持ち掛けんなよ。
俺にだってどうしようもない問題だしよ。
「コウジ、と言うのか。我が玄孫ながら初めてその名前を知った。……すまんの……。妾はカウラ。カウラ=エズじゃ」
「……謝ることじゃねぇだろ、別に。謝られても困ることだしよ」
冒険者達の様子を見ると、何となく気まずそうにしてる感じ。
しょうがねぇじゃねぇか。
見たこともない相手だし。
家系図とかもねぇし。
親近感なら、そいつより目の前の斧戦士の方がよほど高い。
名前も聞き覚えがないし。
……とは言え、恨み言もない。
他の冒険者の連中と同じ、無関心なだけ。
「まぁこの暮らしに何かこう……俺の生活の糧を得られるようになるならそれで十分かな」
テンシュさんからの提供がなきゃ、俺はたちまち干上がること間違いない。
これが仕事になりゃ何の不満もないが、仕事どころか面倒事だわな。
「ならこうしよう」
「ん? ……おいっ」
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