鬼の少女の昔話
「男がその部屋で一緒に住むと言う。お前に家族はいないのか? と少女は聞いた。すると男は答えた」
自分でも頭が緩いのは分かってた。
けど、家族からはその緩さのために追い出されたんだと。
いいのかよ、それ。
学校とか……って、昔話だったか。
するってぇと、教育制度とか保護施設とかもない時代ってことか?
いやその前に……。
「食い物とかどうやって調達してたんだよ」
「山菜採り、川魚釣りとかだな。米はあちこちの農家の手伝いをしてお裾分けにもらった、と言う話だの」
ちっ。
自分の思い出話とも、人伝に聞いた話とも、どっちともとれる答え方しやがって。
っつっても、もうバレバレだろ?
「ま、二日ほどの生活だったがの。その少女の母親が、その部屋に突然現れた。少女をようやく迎えにくることができたというわけだの」
「その母親が、男を誘拐犯だのなんだのと騒いだら、ちょっと面白い」
流石の鬼も呆れたか。
だって俺のことじゃないもん。
「手厚く保護してくれてうれしかった、と言って喜んでおった。恩返しに何かをしてあげたい、とも言っておった」
「緩い頭を何とかしてくれ、とか頼むかな、俺なら」
「つくづくひどいことを言うのぉ」
この娘が怖がらないように、この娘が住む場所からここへと、自由に行き来できる出入り口を作ってほしい、と頼んだらしい。
何と言うか、お人好しというか無欲というか。
億万長者にだってなれただろうに。
「その母親も拍子抜けしとったわ。だがそんな無欲な姿勢が好ましい、ということ。それに今後またこのようなことが起こったら困るということで、その部屋に扉を挿げた。その男には見えんかったようだがな」
だんだん見えてきた。
まるでこの屋根裏部屋みたいじゃないか。
……屋根裏部屋だろ、それ。
だがその男、以蔵にしてはちょっとおかしくないか?
「じゃがその男、意外と欲があってな。神隠しに遭ってここに来る者と話ができるかどうか心配だ。この部屋では言葉は分かるようにしてくれとか、神隠しに遭った者全員がそれぞれの場所に戻れるようにしてくれとか言うてな」
お人好しで欲深いってのも珍しい。
「女の子は母親と共に帰っていった。だが、そのうちしょっちゅうその部屋に出入りすることになった。親切にしてくれた初めての異界の者だったということもあったし、好奇心が強くなっていたということもあった」
そりゃずいぶん便利なこって。
「その男もそのうち面倒に感じたようでな」
「ひどい男もいたもんだ。好意を持った異性を面倒に思うとはな」
「お主ほどではないと思うぞ? 面倒に感じたのは、その部屋への出入りじゃ」
部屋……やぐらを組んで枝の上に作ったんだよな。
……階段とかないのか?
「そこで男は、一階を作り始めた」
待て待て。
二階を作ってから一階を作るって、どんな建築方法だよ!
頭おかしいんじゃないのか?!
……あ、緩いんだっけか。
「遊びに行けば、いろんな物を食わせてくれる。しかもどれも美味かった。そうしたら、また母親に願い事を一つ加えてくれと娘に頼んだ」
欲深い無欲。
なんだそりゃ。
「食い物が必要な者を受け入れられる部屋にしたい。そんな扉にしてくれ、とな」
慈善事業もいいけどよ。
度が越えると流石にな……。
「そのうち、娘はその男の手伝いをするようになった。もっとも手伝いと言っても、二人で一緒に生活する時間が増えた、というだけのことじゃがな」
家族から追い出された男か。
たわけもの とか言うんじゃなかったか?
社会に出られそうな感じもしないし……。
そんな男と、鬼との生活。
しかも場所は人通りが少ない道のそばとなりゃ、奇妙な部屋ができても丸見えじゃないし、誰も気にしないか。
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