第25話 現実逃避の終わり

 ひとしきり泣いた後、ディルは後ろで見守っていたイヴに気づいて仰天した。


「イヴ!?」

「今更気づいたんですか。あなたの痴態はしっかり見届けさせていただきました。フレディにもばっちりお伝えするのでご安心を」

「やめて! 兄貴には言わないでっ!」


 彼は冷たく告げるイヴを慌てて制止する。それからまじまじと目の前のイヴを見つめて、先ほど私に告げたのと同じような言葉を告げた。


「イヴ? 本当に、本物か? 夢? 幻?」

「それさっきドールにも言ってましたよ。本物です。ドールが私を自由にしてくれたんです」

「その喋り方、何? お前、そんな喋り方してたっけ?」

「十年間でいろいろあったんです、それくらい察してください!」

「久しぶりの再会なんだからそんなに怒るなよ」

「怒ります! 私たちがどれだけ苦労してここまであなたを迎えにきたと思ってるんですか!」

「……ふふふ、あはははは!」


 幼い頃兄弟のように育ったという二人の言い合いが体が子供であることもあいまってとても可愛らしくて、思わず私は笑ってしまう。それにつられて、ディルとイヴも笑い出した。今までもずっとこうして三人で笑いあっていたような気さえする。


「……楽しそうなところを邪魔して悪いのだが。そろそろ現実に戻らないと、向こうにいる仲間たちがもたないぞ」


 そのとき、どこからともなく父上が現れた。父上の姿を見て、ディルがゲッと潰れたカエルのような声をあげる。


「ベ、ベルモンド卿……!?」

「やあ、久しぶりだねディル。うちの息子やその婚約者に随分迷惑をかけてくれたようだが」

「ひいいいいいい! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 俺が全部悪かったんです! どうか命だけは! 命だけはお助けを……!」


 目が笑っていないのに微笑んでいる父上を見て、すかさずディルが土下座した。父上はしばらく怖い笑顔を浮かべていたが、やがてやれやれと首を振ってため息をつく。


「今回のことは許してやる。帰ってきたらすぐうちの屋敷に来なさい。いいな」

「はい!」

「よろしい」


 そう言うと父上は私に優しく微笑んだ。そしてここに来るときに投げたのとよく似た、白色の球体を渡してくる。


「これを空中に投げなさい。ここに来た時のように、お前たちを元の場所に帰してくれる」


 そんな父上に、私は一つ尋ねた。


「これは父上の固有魔法なのでしょう? 固有魔法には代償が必ず必要だというのなら、父上も何か代償を払っていらっしゃるということですよね?」


 私の言葉に、父は笑顔のまま首を振る。


「そんなことは気にしなくていい。ここまで自分たちだけで頑張ってきたのだから、このくらいは親の力を借りておきなさい」

「でも……」

「ほら、はやく帰らねばアイラたちが大変なことになるぞ」


 そう言われて、私の心は決まった。


「父上、ご協力感謝します」

「ありがとうございました。ドールのお父様」

「あざっす……後でちゃんと説教されにいきます……」


 私たちは父上にお礼を言って、三人はぐれないよう肩を組む。


「さあ、帰るぞ!」

「了解です」

「おう!」


 私は力一杯白の球体を空に投げる。それは空中でパン!と音を立てて弾けた。そこから溢れ出たまばゆい光が私たちを包んでいく。


「無事に帰っておいで」


 父上の言葉を背中に受け止めながら、私たちは組織のアジトに戻っていった。

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