第23話 夢の中の鬼ごっこ

「……ル、ドール!」


 幼い少年が私を呼ぶのが聞こえる。目を開けば、真っ黒な髪に赤い瞳をした、どこか見覚えのある少年の姿があった。


「君は……?」

「私です、ドール。イヴです」

「はあ!?」


 その言葉に私は飛び起きる。まだ七つか八つくらいにしか見えないこの少年がイヴだって? 驚愕する私に、イヴだと自称する少年はやれやれと肩をすくめて指摘した。


「気持ちは分かりますが、あなたも私と同じですからね。幼い頃からあなたはそんなにかわっ……小さかったんですね」

「かわ? っていうか、小さいって言うな!」

「事実なんだから仕方がないでしょう!」


 なぜかイヴは顔を赤くしてそっぽを向く。かわ、とか言いかけていたが何を言いたかったんだ?


 そんなイヴはとりあえず放っておいて、私は自分自身の姿を確認する。確かにイヴの言っていた通り、七つくらいの子供の頃の姿に戻っていた。あの頃お気に入りだった白と紫のワンピースまで着ている。本当にこのワンピースは大好きだったから、もう一度着られてちょっと嬉しかったのは秘密だ。


「ここは恐らくディルの心象風景といったところなんでしょうが……私たちまで子供の姿になってしまったのは何故なんでしょうかね」


 心象風景、とイヴが断言できる理由は私にも容易に察することが出来た。私たちの目の前に広がっていたのは、ニックと出会ったあのスラム街だった。ここはイヴやディルの故郷でもある。そして恐らく、彼が幸せだった思い出は全てこの街での出来事だったのだろう。


「ディルは子供のままでいたかったのかも。そうだとしたら、どこかに子供に戻ったディルがいるということだろうか」


 ずるっ!ごん!


「「え」」


 私が何気なくイヴに問いかければ、私たちのいる道の突き当たりの曲がり角から誰かが盛大に滑って転んだ音がして私たちは即座に様子を見に走った。そこには地面に打ち付けたのだろう真っ赤になった額をさする金髪の少年が座り込んでいる。間違いなくディルだった。


「ディル……?」


 私が恐る恐る声をかけると、ディルと思われる少年はハッと顔をあげる。泣きそうな顔がもっと泣きそうに歪んで、そして私たちが止める間もなく一目散に走って逃げ出した。


「あ、ちょっと待て!」


 彼の後を追って走るが、彼が突き当たりを曲がったところで完全に見失う。私の後をついてきたイヴがうんざりとため息をついた。


「まともに追いかけても撒かれますよ……ここは私たちの庭ですから。抜け道なんかいくらでも知ってます。どうにか二人で先回りして挟み撃ちにしなければ」

「もしかしてこれは鬼ごっこのようなものか」

「そうなりましたね」

「父上はディルがどこまで行っても逃げるだろうとおっしゃっていたが……。まさか、鬼ごっこをすることになるとは思いもしなかった」


 けれど、置かれた状況に反してワクワクしてしまう自分がいた。子供に戻ってイヴとディル、大好きな親友二人と遊べるのだ。


「よし、イヴ! 作戦立案はお前に任せたぞ!」

「なんでそんな楽しそうなんですか! 仕方がない、ついてきてくださいよ!」

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