第15話 マリアンの告白

 ニックの隠れ家で、私たちは椅子に縛り付けたマリアンを囲って尋問を始めようとしていた。


「こんなことしなくたって逃げないよ? 俺はあんたらの実力が知りたかっただけで、組織をぶっ潰したい気持ちはあんたたちと一緒だし」


 からからと笑うその様子からは、反省も後悔も感じられない。


「でも、驚いたなあ! イヴを元に戻したのは君の固有魔法ってわけだ。君、パパに見つかったら一生おもちゃにされるよ?」

「パパ?」


 ドールはマリアンの言葉に首をかしげる。


「うちの組織のボス。俺の実の父親」

「「「え!?」」」

「うちの組織の幹部はみんな家族だよ。イヴの持ち主だったのは俺の上姉さんさ。あの人おしゃべりでうるさかっただろ? お前が帰ってこないから、あいつ大慌てしてるんだ。機密情報をお前にベラベラ喋ったみたいだったからね」

「だとしたら、なんでお前は組織を裏切ろうとしているんだ?」


 ニックの問いかけはもっともだった。それを聞いてマリアンは冷たい瞳をする。


「嫌いだから」


 子供みたいな答えをして、ぷいとそっぽを向く仕草はなんだか憎めない。


「嫌いだからって……」

「この世で一番嫌いだよ。だってパパもママも、上姉さんも下姉さんも、みんなアドニス兄さんのことばっかで俺のことなんか気にしないんだからね」


 その言葉に、私は耳を疑った。


「アドニス? それは組織の名前では」

「そうだよ。組織の名前はアドニス。兄さんの名前はアドニス。組織が人を生き返らせようとしてるのは知ってるだろ? 生き返らせたいのはアドニス兄さんなのさ」


 マリアンは憎しみを込めた瞳で宙を睨みつける。


「十五年前、アドニス兄さんは死んだ。なんで死んだのかは知らない。ただ、その死をうちの家族が受け入れられなかったことだけははっきりしてる。あの人たちは本気でアドニス兄さんを生き返らせようとし始めた。最初は夢物語だったんだけど、俺が天才だったせいでそれが現実に出来るって思い始めた」

「自分で天才って言うのどうかと思いますよ」


 思わず突っ込むとドヤ顔をされたので自分の行動を激しく後悔した。


「だって本当だから仕方ないじゃん。パパたちが実験材料として連れてきた死にかけの人たちをいじってたら、なんか強靭な改造人間に出来ちゃったんだよね。それで、その人たちに言うこと聞かせる魔法も作れちゃった。その時俺はまだ十歳とかで、パパたちは俺が成長したら俺がアドニス兄さんを生き返らせてくれるんじゃないかって期待してた。まあ無理だったんだけど」


 あまりにも非人道的な行動の数々があっさり語られたが、とても非難できる空気ではない。マリアンの悲しげな表情がみんなを黙らせていた。


「俺が改造実験で出来るのは生きてる人を強靭にすることだけだってパパは見切りをつけた。それまではちやほやしてたくさん相手をしてくれたのに、それからは俺に会ってもくれなくなった。俺は実験体を兵器に仕立て上げて、彼らをしまっておく地下牢の管理を任された。そこでフレディに出会ったんだよ」


 フレディ、という言葉にドールがピクリと反応する。マリアンに顔を近づけて問いかけた。


「フレディとはどういう関係なんだ?」

「親友だって言わなかったっけ? 地下牢に閉じ込められてるフレディは俺に話しかけてきたんだ。最初は取り合わなかったけど、彼は俺にいろんなことを教えてくれた。フレディだけが本当に俺のことを見てくれた。俺は人体実験なんか遊びと一緒だと思ってたけど、それがどれだけ罪深いことだったのか気づいた。フレディの大事な友達を、俺は取り返しがつかないほど壊したってことが分かったからね」


 そこで初めて、マリアンは真剣な表情で私をまっすぐに見つめた。


「謝っても許されないのは分かってる。でも、言わせて欲しい。君たちに取り返しのつかない酷いことをして、本当に申し訳なかった」


 絶対に許さないつもりだった。でも、彼もまた無知だったのだと思うと責められない自分がいる。スラムで育った私たちも、沢山のことを知らないまま生きていた。分からなかった私たちと同じで、彼は正しいことなど誰にも教えてもらえなかったのだと思うと、なんといって良いか分からなかった。


「……今は責めません。組織を潰す手伝いをしてください。それが終わったらあなたを許すかどうか考えますから」


 その答えに、マリアンは嬉しそうに笑った。喜ばれるような答えを言ったつもりはないのだが。


「ありがとう」



※※※



「一つ、聞きたいことがあるんだが」


 マリアンの話がひと段落ついたところで、ドールが神妙な面持ちで尋ねた。


「アイラとディルはどうなったんだ」


 そういえば、そもそも彼の目的はその二人を取り戻すことだったか。色々なことがあり過ぎたせいなのだが、すっかり忘れてしまっていたことに罪悪感を抱く。


「アイラは実験体として僕のところに連れて来られたけど、今はフレディと同じ牢屋に入ってもらってるよ。もうこれ以上誰かを壊したくはないからね。彼女は誰かを生き返らせるための固有魔法に目覚めてくれると期待してたみたいなんだけど、別の固有魔法に目覚めちゃったから僕のとこに送られてきたわけ。ディルはどうなったか分からないんだ。今パパが一番目を付けてるのはディルみたいだからね」

「ずっと気になっていたのですけど、なぜフレディとディルは私たちのように改造兵器にされなかったのでしょう?」

「それは、二人には固有魔法に目覚める素質があると判断されたからだよ。俺の発明した隷属魔法で自我を奪うと、魔法が使えなくなるからね。魔法は願いの力だけど、自我のない人形は願ったりしない」


 そう言って、マリアンは長いため息をついた。自虐的な笑みを浮かべて呟く。


「なんかさー。こうやって話してると、俺すごくやな奴だよねー」

「何を今更」

「ひどいなー、イヴは。俺頑張るからさ、もうちょっとだけ優しくして?」

「嫌です」

「けち!」


 話がどんどん逸れていったその時、部屋の隅からがさごそと音がした。そこには確か兄が眠っていたはずだ。全員がそちらを向く。やがて、息を呑むほど優美な仕草で、兄エムが起き上がった。


 兄は寝ぼけ眼だったが、あの虚ろな瞳ではない、光のある目をしていた。


「にい、さん……?」


 十年ぶりの再会。私は緊張しながらも彼に近づく。目の前に来た私を見て、兄はゆっくりと口を開いた。


「イヴ……?」

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