#096:集光な(あるいは、自演乙)
コンビニを出て狭い路地を少し行くと、建売と思わしき似たような雰囲気の一軒家が立ち並ぶ区画に出た。その家々に囲まれて、申し訳程度に砂場とブランコが設置された正に猫の額といった感じの公園に、僕らは入っていったわけで。
かろうじて三人が座れそうな微妙な幅のベンチの端と端に腰掛け、紙カップからぬくもりの残るコーヒーをすする僕と永佐久ちゃん……傍から見たらカップルとかに見えるのだろうか。しかし僕はもう、そこまで浮かれる気分にはならなくなっている。
いろいろあって、いろいろ疲れた。昨日まで東北にいたということが信じられないくらい、果てしなく濃密な時間があったわけで。時刻はもうすぐ11時。激動の今日がやっと終わる。
「……」
園内を照らすライトは入口の方にひとつあるだけで、そこから少し離れた所にあるベンチ周りはかえって暗く感じる。僕は手足の先から少し冷えて来たのを感じ、安物のブルゾンのチャックを首元まで引き上げると、紙カップで手先を温めてみた。
公園に着くまでも、座ってからもずっと無言だ。左隣でうつむいたまま身じろぎもしない永佐久ちゃんのシルエットを、目だけ動かして探ってみる。こうして二人きりで対峙すると、実況の時とかに出しているあのツン感とかはやっぱりキャラなんだろうなと思う。
「……」
キャラか。僕もまた演じていた。メイドとかって、そうでは無くて。
「……ムロト」
永佐久ちゃんがぽつりと呼ぶ声に僕の思考は霧散し。
「何で、自分がそんなにも女性が好きかって、考えたことある?」
僕の顔を見つめ、そんな事を聞いてこられるわけで。口調は何かもう自然体だ。これが本物の永佐久ちゃんか。
「いや、やっぱり魅力的なわけで、その……みなさん綺麗だったり可愛かったり、そりゃ自分じゃなくたって好きになっちゃうわけで」
僕は自分の考えもまとまらず、そんなわけのわからないことを口走ってしまう。
「そうじゃなくて」
永佐久ちゃんは顔をそらすと、そう呟く。そうじゃなくてって……
「まあいいわ。じゃあ例えばの話をするけど、この私が、あんたのこと好きだって言ったら……まあ、前にも言っちゃった記憶あるけど、あれは無しだからね!! ……言ったら、どうすんのよ? マジで、真剣に好きだって告られたら、あんたどうするつもりかって、聞いてんの!!」
え……女性から告白されたことなんて一度もないし。いつも僕から行って、それでいつも玉砕するのが……いつものことだったから。
「考えて。考えてみてよ」
ベンチに手を突いて身を乗り出し、永佐久ちゃんは僕に難題の答えを迫る。薄暗いのと逆光気味なのとで、その表情はよく見えないけど。真剣に聞かれている。真剣に聞かれているんだ。こっちもちゃんと答えないと駄目だ。本当の駄目になってしまう。
でも……僕の頭の中はぐちゃぐちゃだ。いやしっかりしろ、室戸岬!! 応える。そして自分と向き合うんだ!! 自信ないながらも、僕は永佐久ちゃんの顔をちゃんと見据えて考え始める。
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