第弐章:ムロトー/ナイトフィーバー/レリGO
#047:唖然な(あるいは、ここは神宮シティアンダーグラウンド)
「着替えるのは後だ、少年。とりあえずエントリーはしとかねえとな」
アオナギは何事も無かったかのように、僕らを促す。うんまあ、そうですけど。何となく釈然としない妙な気分のまま、参加者と思われる人たちが静かに吸い込まれていく離れの建物に向かった。
「……エントリー票を確認します。コード画面を表示させてください」
入口は両開きの黒い大きな扉がこちらに向けて全開にされていて、その両脇には係員らしき黒スーツの男たちが控えている。
アオナギはスマホをさっといじくって、表示させた画面を突きつけると、すかさずそこに係員がバーコードリーダーのような機械をあてがった。
ピピッと言う音が鳴る……OKってことか? 係員は無言で中に入れという仕草をする。
「アタイはセコンドよぉん。ほらこれ」
僕の後ろでは、ジョリーさんも画面を差し出していた。セコンド……それも初耳だけどね。
「おおぅ、ついに会場入りかよぅ。やっぱ緊張すんなぁ」
丸男が武者震いのように体をわざとらしく揺らしてみせるけど。僕も何かは分からないけど、メイド服に包まれたこの身体の奥底から、得体の知れない「熱」のようなものが沸き上がってきているのを感じている。
はやる気持ちを何とか抑えつつ、僕は掲示された矢印に従って、通路突き当たりを右へと曲がるのだったが。
ふいに思い返されるのは、今までのことであるわけであって。
まったく、ここに来るまでに色々なことがあった。アオナギとキャンパスで出くわしてからたったの十日余りだったが、様々な出会いがあり、突拍子もないことが起こったりして、そしてそれに巻き込まれて振り回された。けど。
「緊張ですか? ……自分は、高揚の方が強いですけど」
けど、その丸い背中に向けてそう言ってやる。いま、僕は自分の意思でここに立っている。地下へと降りる階段を一歩ずつ踏みしめながら、僕は戦う決意を新たにする。
「少年。こいつは運命だぜ。お前さんがここにいること。偶然偶然と思っていたが、どうやら俺もまた運命とやらに導かれているのかも知れねえ」
振り返りもせず、そうアオナギが声を掛けてくるけど。運命ね。運命か。言葉は大仰だけど、それはいつも通りの感じだ。よし、いくぞ!!
「……!!」
階段を延々と降り続けて十分くらいか、薄暗い所からいきなり光差す巨大なスペースへと僕らはまろび出たわけで。
そこは何というか、球場のような所だった。いや、正しくないな、そこはまさに球場だったのだった……この神宮球場の地下深くに、もうひとつの神宮球場が……上空をコンクリートに固められた巨大なスタンドやグラウンドが、まばゆいナイター照明に照らされて、僕らの前に姿を現したのであった。
思わず口を開けたままで固まる僕。えーと、何これ。
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