#030:奇妙な(あるいは、深紅の秘)
東北道は相変わらず空いていて、福島付近でまた小休憩を入れた後は、すいすいと北上を続けられた。2時間ほどの快適なドライブを経て、現在水曜早朝5時前。仙台宮城で一度高速を降り、市内で美味しい朝食でもという流れとなったわけで。
目星をつけた店が空くまで、ファミレスで一旦落ち着くことにした。空いてたので窓際の4人掛けボックス席2つを占領する。
「……赤と青の服パーツはおおまか出来上がったわぁぁん。ムロっちゃんのおかげよぉん。こんなにはかどるなんて」
ところどころメイクが剥げかけ、特殊の方に傾きつつある面構えのジョリーさんだが、そう言われて悪い気はしない。それより、よく車の中で裁断できましたね。
「おいおいジョリさんよぉ。俺っちの『緑』も忘れんとってなぁ。緑のイメージといやぁ、ドジっ娘末娘と相場が決まっててなぁ、おいらにぴったりなんだからよぅ。特に念入りにお願いするぜぇ」
丸男=緑=ドジっ娘末娘という難解な等式のどこもどう成り立つかさっぱり解きようがないが。お前は黄色でカレー好きの立ち位置だろ。
「……ちょっと、よろしいですか?」
徹夜明けのぼんやりした頭でアイスコーヒーをすすっていると、背後から声を掛けられた。このパターン、ろくなことにならない事は既に学習済みだ。肩越しに振り返ると、薄い茶系のスーツを着て臙脂色のネクタイを締めた痩せた若い男が力ない笑みを浮かべ立っていた。店員かと思ったら違うようだ。
「……アオナギ七段とトウドウ五段とお見受けします」
窓側の席でだらしなくスポーツ新聞を読んでいたアオナギと、これから朝食食べにいこうとしているのにボリューミーなハンバーグをほおばっている丸男に、その男は目を向けている。体の前で手を組み合わせ、やけに慇懃な態度が気にかかった。いやな予感は的中だ。仙台まで来ても、ダメの呪縛からは一時も解放されないのか。
「サインは書いたことないぜー、スカウトだったらあいにく『溜王』に出る面子は揃ってる」
新聞から目も上げずに、アオナギは面倒くさそうにそう返す。
「いえ、あなたがたとひとつ……手合わせをお願いしたいと思いまして」
その男は笑顔を解かずに、落ち着いた口調でそう切り出す。しかしその内容は何というか、唐突に出されるものでは無かった。手合わせだって?
「お呼びじゃねーぜぇー、どっか行きなよぉ」
丸男も全く相手にしない素振り。しかし空気は何か、張り詰めてきている。ジョリーさんも(おそらく)怪訝な顔のまま、何も言わない。
「……私が負けを認めたら、ここにある10万を差し上げます。あなたがたはただ私と仕合うだけのノーリスク。どうです?」
にやりと、目は笑ってない笑顔のその男が、上着の内ポケットからおそらく金の入っているだろう封筒をちらりと見せる。
「……い、いったいどういう勝負をするというんだッ!?」
「落ち着け少年。カネへの食いつきだけは抑える訓練が必要だな。さて、おいお前、挑発に乗ってやるから名を名乗んな。何考えてんのかは分からねえが」
アオナギが面倒くさそうに、ようやくその男の顔に目を向けるが。
「ありがとうございます。しかし知られていないとは私もまだまだ。……新四段、
その男、為井戸は今や不敵と思える笑みを崩さない。ジョジョに高まる重苦しいゴゴゴ感。これは……バトル展開っ……!?
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