#018:拙速な(あるいは、号泣なる謝罪TAKE2)
「何とぉぉぉ! お詫びをぉぉぉ、申し上げていいのやらあぁぁぁ! 自分はぁぁぁ、そのぉぉぉぉ!」
いつぞやの号泣謝罪を、自分がやるはめになるとは思ってもみなかった。いや、号泣はしていないけど。とりあえずこの申し訳が立たない感を何とかしようと、僕は必死でカワミナミさんに向けて謝り倒した。しかし、
「……落ち着け。君が思っているようなことは何もなかった。ただ、私が酔いつぶれた君を背負って自分の家まで運んで寝かせただけだ」
カワミナミさんは何事もなくカップを口に運びつつ、そう告げた。へ?
「そ、ふーん、あ、そうなんですねー。あーでも何でパンツ一丁なんでしょう?」
お前がそれを聞くな的なことを思わず口走る僕だが、まだ混乱から冷めきれていないためにしょうがないと言えなくもないわけで。取り敢えず何でもいいからこの場をつなぎたいわけで。
「自分でベッドに潜ってから脱いでいた。『うおっ暑っ』とか言いながらな。それから即寝に入ったが、今朝がたあたり、激しい唸り声を上げてうなされていた」
そりゃうなされるわ。自分の絶叫で目覚めたくらいだし。
「す、すいませんでした。そしてどうもありがとうございました」
このぐらいしか言えない……とんだ失態だ。と思いつつも、いやこれもDEPとして使えるんじゃね? 的なダメに毒されかかった思考もよぎる。もう駄目だ。いろんな意味で僕は限界だ。
「まあ落ち着いてその椅子にでもかけていてくれ。いまコーヒーを淹れる」
どこまでも自然体なカワミナミさんは、魅惑的な後ろ姿を見せながら奥のキッチンの方へと向かうのだが。
僕は慌てて脱ぎ散らかしたジャージを手早く身にまとっていく。履いてたパンツはボクサーブリーフ型の比較的新しいやつだった。良かった、よれよれのだるだるのじゃなくて。それにしてもなぜ脱いだ! 家でも寝る時、脱いだことないのに!
「……」
勧められたダイニングテーブルの椅子の一つに腰掛けると、改めて部屋を見渡してみる。1LDKだろうか。シンプルながら広い。そして窓から臨む景色は高い。高層型タワーマンションの20階以上と見た。僕の住む築18年の木造アパートとは趣きが全く違う。
「こういう広いリビングで寝起きすることに憧れていた。まあひとりだからここだけで生活には事足りるしな」
いい香りが漂ってきたと思ったら、僕の前にカップが置かれた。酔い明けのコーヒーは何物にも代えがたい。何かまだ夢の中みたいだ。美女とモーニングコーヒー。カワミナミさんは柔らかそうなソファに体を沈めると、すらりとした美脚を組んでカップを口にやった。僕と斜めに接する位置だが、目のやり場には非常に困る。
「え、えーとえーと、カワミナミさんはなぜ、そのダメ業界ですか? そちらに興味をお持ちになったんで? こんな、いい部屋に住めるお人であらせられながら」
取り敢えず何か喋らないと、とだが緊張してか、僕も口調が定まらない。ひと(丸男)のことは言えないな、と思いつつ、僕は素朴な疑問を口に出してみる。このヒトとダメとの関わり合いがどうにも理解しづらいわけで。
「逆だ、少年」
カワミナミさんは僕の方を向いて、少し意味ありげな表情で微笑んで見せた。初めて見るその魅力的な微笑にどぎまぎしながら、しかし僕はその後のカワミナミさんの言葉に衝撃を食らったのであった。
「……もともとはデブでノロマないじめられっ子だった。ダメ人間コンテストが、私を引き上げてくれたんだ。そして、立ち直らせてくれた。自殺することだけを夢想に……生きがいにして、どうしようもなかった自分を」
え?
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