#009:鉄壁な(あるいは、Captain,my captain)

「いやいや、相当なもんだ。ネタに事欠くことはなさそうだなぁ。……だが少年、DNCに臨むに辺り、ひとつだけ、気をつけなきゃあいけねぇことがある」


 登録を終えスマホをしまい込んだアオナギが、さすがに酔いが回ってきたのか、両腕をテーブルに突きながら僕の顔を見てそう告げる。改めて何だろう?


「『嘘』がご法度ってことだ。ま、当たり前っちゃあの話。そこがしっかりしてないとただのホラ吹きまくり祭りになっちまうしな」


 嘘……ね。気をつけよう。


「高性能の嘘発見器が対局者には取り付けられていて、嘘が発覚したと同時に全身がえびぞるレベルの電気ショックが与えられる。予告なしに」


 気を……つけないと、絶対。


「さらにはその時点でそいつ含めたそのチームが失格となっちまう。まあ、言動には気をつけてな、ってことなわけだ」


 アオナギの向こう正面では、丸男がぐでりと巨体を投げ出して酔いつぶれている。白目を剥いてごうーごうーというようないびきを(たまにそれが途絶えるのがまた凄い怖い)立てている様を、少し遠くの席から若い男女が撮影している。


 きっとボイヤスで珍獣を発見した件とかで挙がるんだろう。かなりいたたまれなくなってきた。そろそろお開きの空気でしょうか。でもこの物体をどうやって連れていけばいいのだろう……と思うや、思い切り咳き込んだ丸男は驚愕の面持ちで覚醒した。一度目覚めてからは酔っぱらいの帰巣本能なのか、いそいそと帰り支度を始めている。


「少年、蒸し返すようだが、君の名前の件……」


 と、席を立ったアオナギが伝票を掴みながらそう聞いてくる。


「『岬』っていう名前自体も結構珍しいよな。何か由来あんのか?」


 アオナギはどこかふっと素に戻ったような、そんな感じだ。何だ?


「両親が某サッカー漫画の大ファンだったんです。それで実は双子の兄がいるんですが、名前は『翼』。親は『翼くん』『岬くん』と呼びたかったようです」


 または僕らに呼び合わせたかったようだけど。誰が呼び合うか。アオナギは何故か納得したかのような様子でまたいつものつかみどころの無い感じへと戻り言う。


「くっく、かなわんな、少年には。じゃあ改めて頼むぜぇ。予選は来週の土曜日だが、一回集まって対策を練るとする。今週の土曜の午後3時。井の頭公園のボート乗り場前に集合だ」


 とりあえずLINE交換をさせられ、開放されたのが日付の変わる少し前。


 何となくで参加するに決めてしまったけど、不思議と後悔はなかった。お金の事がまず第一にあるんだけど……それよりこの二人にどこか親近感を感じてしまったのかも知れない。


 この、社会には到底受け入れられなさそうなマイノリティーな感じの二人に。


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