胸が肥大化していくという現象はあくまで物語の加速装置であって、その先にあるすばらしい結末を一人でも多くの人に味わって欲しい。大切な相手と出会い、交流する中で気持ちが温かく切なく揺さぶられていく様は極上の恋愛小説のようでいて、そこに現代小説では成し得ない『長大な時の流れ』というSF的な縦軸が組み込まれた傑作。やーすごい。途中何度も唸りました。すげぇなぁと声を上げながら読みました。
感情の機微を表現する文章にはっとして立ち止まり、知らんぷりしてどこかで引用しようかなと思える程の素敵な一文を、物語の途中で足踏みしながら何度も頭の中でくり返しました。
推します。
胸がふくらむ、ということは、女の子が大人になる道中で訪れます。本作の主人公「みのり」は、そんな胸のふくらみが病的(と形容するのが正しいかはわかりませんが)になってしまった女の子です。
冒頭の、昭和から平成に移りたて、80年代末期の雰囲気の美しさ。
そしてみのりを襲った病的なからだの変化から生じる、登場人物全員……クラスメイトの男子に至るまで……の、心の揺れ動きの描写が丁寧で、丁寧で、読み手の心を揺さぶってきます。
彼女に対する想いと相関するように胸がふくらんでいく過程。圧巻です。
孤独を抱えた二人にとって、互いという存在が誰よりも大切に思えたのでしょう。お互いが大切で仕方がなくて、愛してやまないからこそ、この形以外に着地点はありえなかった。存在したのはシンプルかつ圧倒的な愛、だけだったのかもしれません。
普通なら考えられない選択。そこまでの道のりに圧倒的な説得力を持たせる筆者の力量に殴られた思いです。
忘れられない作品になりました。