第7話 男はおっぱいが好き

それからほどなくして、美湖さんから、次の観光協会での会議まで一週間時間があると聞いた。それまで情報を集める傍ら、俺は、旅館の手伝いとして、お土産コーナーの棚卸しと、陳列をしていた。

「たく、七重め……自分から労働の喜びをとか抜かしていたくせに、サボりやがって」

日曜の朝、俺が、旅館の手伝いをしに行こうと七重を誘ったのだが。

『日朝アニメを見ないないと他の神との会話の話題に乗れない』

などと言い、那奈美とテレビにかじりついていた。神様の会議での話題は、ほとんどが日朝アニメだった。……本当に大丈夫かこの国。

仕方なく、一人で作業を始めたが、意外とお土産の量が多く、売れているものと売れてないものを仕分け始めると膨大な量になっていた。

「こんなんじゃいつまでたっても終わらないぞ」

「宗吾さーん!手伝いましょうか?」

「うお!誰だ……ってなんだ、美夜か」

俺は、着ていた作務衣の袖で、汗を拭くと、いきなり肩を叩かれて、俺は、驚いて、振り向くとそこには、美夜が少し、意地わるそうな顔で立っていた。

「いやー、そこまで驚いていただけるとは思いませんでした。あははー」

「あははって……暢気だな」

美夜は、初めて会った時の着物姿とは違い、俺と同じ作務衣姿で楽しそうに言うが……七重が着る時の数倍は不健全だった。

大きな胸を作務衣が、強調し、今にも零れ落ちそうな大きさで目のやり場に困る。

「そ、その。なんだ?どうした?」

「いや、一人でお土産を棚卸しから陳列までやっているってお母さんに聞きまして、心配になってきたのですが……うわ、量多すぎません?この量を一人でやろうとしていたのですか?手伝いますよ」

そう言い、美夜は、俺と運ぼうとしていた段ボールを持とうとしてくれた。正直、今善意に俺は、感動したが、それ以上に胸元に目が行ってしまう。

「宗吾さん、どうしました?まだ今からやればお昼には終わりますよ」

「だ……大丈夫だ。それよりきつくないのか?」

「大丈夫です!私だって旅館の娘です肉痛い労働には慣れています!」

……そうじゃなくて胸の話なのだが。

しかし、俺は、そんな邪な気持を押さえつけ、あくまで、平静を装う。

「じゃあ、肉体労働は、俺がするから、美夜は、在庫の残り数を数えてくれないか」

「えっと、良いのですか?在庫を数えるのはやぶさかではないですけど、それだと、宗吾さんばかり汗をかくことになってしまいますよ」

申し訳なさそうにする美夜であるが、女の子に肉体労働をしてもらう方が個人的には、気が引ける。それに、在庫管理は、俺より長くここにいる美夜にしてもらった方が効率的であった。

「大丈夫!あまり美夜に無理をさせると那奈美に殺される。それに、俺は、美夜が手伝ってくれるだけで嬉しいからな」

「ふふ、宗吾さんって優しいのですね。じゃあ、私は、在庫を数えますが、無理そうなら言ってください!手伝います!」

「ありがとう美夜」

俺は、荷物を降ろした美夜に在庫管理表を渡すと、俺達は、作業を始める。

「なあ美夜、つまみ系統とお酒は、会計の前に置かないか?夜は、食事終わりのお客様が、飲み直しに買ってくれるし」

「そうですね。確かに、おつまみをいっぱい買うお客様は、いらっしゃいますし、地酒なんかも買われる人が多いので良いと思います」

「だろう。それに、後は、部屋に置いてあるお茶請けも売れる。お茶請けは、旅館に入った人が、最初に口にする可能性の高いものだしな」

「ですが、これは売り上げが、余りよくないものですが……と言っても確かに、このまま、置いておくだけでも在庫を腐らせるだけですしやってみます!」

こうして、俺と、美夜は、陳列と棚卸しを始めた。一人でやる時よりも、効率良くそして、分からない所は、美夜が教えてくれたため、作業は、倍以上の速度で進む。

「美夜って、何をするにも楽しそうにするよな。家の手伝いもそうだけど、前の観光協でやった会議でも、ただ意味のない事を喋っているだけの会だったのにニコニコと色々な人の話を聞くし、凄いよ」

「そうですか?私は、この町が大好きですし、むしろ自分の生まれ故郷が嫌いな人なんていないと思いますよ」

余裕が生まれた俺は、ふと思ったことを口走ると、美夜は、当たり前の様に、口走る。

「そうか?那奈美は、自分の生まれ故郷の事をぼろくそに叩いていたし、田舎なんて嫌いとまで言っていたぞ」

「もう宗吾さんも知っていると思うので言っちゃいますと、お姉ちゃんの趣味って、基本的にここの土地でするには不便なんですよ。電気屋さんも本屋さんも隣の市まで行かないとないですしかと言って、電車やバスがいっぱい走っている訳じゃないですし」

美夜は、困ったように言う。確かにオタク趣味は、電化製品を多く使うし、アニメショップに行くにも時間を調べていかないといけないから、気軽に行ける訳でない。噂だって広がるのは早いから、オタク趣味を隠すのも大変そうだ。現に俺が、ここに住み始めてまだ数日だが、みんなもう俺がfxで失敗したことを知っているし、正直、暮らし辛いのかもしれない。

「しかし、それならなんで美夜は、この町が好きなんだ?オタク向けのお店以外……例えば、若者向けの洋服屋とかだって隣の市に行かないとないだろう」

「別にそこら辺は、通販で済みますし。それに私の趣味と言えば、手芸とお料理ぐらいです。お料理も、手芸も道具や食材くらいは、この町にだってありますし。顔見知りのおばちゃんのお店に行けば、割引だってしてもらえます」

……確かに、女の子の趣味ではあるが、確かに料理や手芸なら、その場にあるものでもできる。しかし、俺は、美夜を凄いと思った。

「美夜は、凄いな。どんなことにでも前向きに迎えて、俺なら、そんなことはできない。いやなことがあれば、後ろ向きに考えてしまうし、人のせいにしてしまうかもしれない。しかし、美夜にはそれがない、俺はすごいと思う」

「わ……私なんて凄くないですよ!運動も勉強も人当りだって、お姉ちゃんのほうが全部上です。敵ないませんよ。それに私だって嫌なこともあるし、後ろ向きに考えます」

俺が、美夜を褒めるが美夜はそれを一向に認めようとしない。しかし、俺が見るに那奈美に比べても美夜は、劣る所が少ないと思う。

「そりゃ、人間は聖人じゃないから、嫌なことがあれば、後ろ向きにだってなる。けどそれを踏まえても美夜は、前向きだし、それに美夜だって、那奈美に勝てるようなところがいっぱいあるぞ?」

「そんなことないですよ。私なんて、勉強も運動も苦手です。比べてお姉ちゃんは、次期巫女候補で、勉強も運動もできて、クラスじゃ人気者で……妹ながら、分かるのですよ。あぁ、この人には、なにをしたって勝てないって」

途端に諦めた様な笑いをする美夜。こういう顔を俺は知っている。両親が死んで何もできなくて、金にしか興味のない親族の家を転々としていた時の俺と同じ表情であった。

たった今、美夜を明るく前向きといった自分の浅はかさを実感してしまう。美夜も人間だ。悲しいことも、後ろ向きになるなら、俺は何をする?

そんなの自分が一番分かっていた。

「美夜だって、凄いぞ。いきなり転がり込んできた俺を優しく受け入れてくれた。それに、ちゃんと自己分析をしようと言う心意気がある。まあ、いささか過小評価ではあるが。それに料理も得意でスタイ……何でもない」

「えっと、その恥ずかしいです。褒められるのも、その、じろじろ見られるのも」

「す……すまん。悪気あった訳じゃないんだ」

俺は、美夜の凄い所を並べている途中でとんでもないセクハラ発言をしそうになっていた。しょうがない、美夜は物凄くスタイルが良い。

那奈美だって、普通の同年代と比べれば、スタイルも悪くはない。

しかし美夜は、那奈美よりも、背が五センチぐらい高く、出る所は出て、引っ込むところは引っ込んでいる。

俺とて、男だ。女性らしい部分には、どうしても目が行ってしまう。

それに、気が付いてか、美夜は、ジトっとした目で、俺を見て、顔を赤くする。

「宗吾さんのスケベ。私だって馬鹿じゃないです。自分の体をエッチな目でじろじろ見られて、恥ずかしいのですよ。怒っています」

「すみませんでした!俺だって、確かにそういう眼で見ていました!」

はい、プライドなんてありません。俺は、正直に美夜に謝ると美夜は、ムスッとした表所から、面白そうに笑う。

「ふふ、冗談です。けど、嬉しいです。そうやって、面と向かって褒められたことなんてなかったので、エッチな視線さえなかったら、きっと私は、宗吾さんに惚れていたかもしれないです」

「ありえないだろう。俺なんて、fxで失敗して転がり込んだ場所で無様に生き恥を晒すような男だぞ?そんな男に惚れるような奴はいないだろう」

「いえいえ、そんなことないです。宗吾さんは、私なんかのことを評価しておいて、自己評価が低すぎるじゃないですか」

美夜は、少し困ったように俺の冗談をかわしてくる。素なのだろうか、物凄くその笑顔は、可愛いもので、見ているだけで心が浄化されそうになる。

「そんなことはない。俺は自分の悪い所を百は言える!」

「なら、私は、宗吾さんの良い所を二百は、言いますね」

「なら俺は……いや待て、なんだ?このプロポーズみたいなセリフ。死ぬほど恥ずかしいのだが」

俺は、美夜に言い返そうとしたところで気が付いてしまう。こう言うのを俺は、テレビで見たことがある。

俺のツッコミに気が付いたのか、美夜は、悪戯っぽく笑っていた。

「あ、バレちゃいました?今のセリフ、録音して、お姉ちゃんと七重様に聞かせてあげようと思ったのですが」

「やめてくれ、絶対に気持ち悪がられる。アイツらは、俺に対して容赦が、ないから怖いんだよ……」

「そうですかね?確かに七重様は、気味悪がるかもしれないですが、お姉ちゃんに関しては喜ぶような気がします」

絶対にしない。七重は、俺をからかって楽しむだけだろうが、那奈美に関しては、きっと本気で気持ち悪がる。

「自慢ではないが、俺は、那奈美に直接嫌いとまで言われたからな!」

「……お姉ちゃん、不遇過ぎる」

一体何が不遇なのか?そんなことはない気がして、この後、なぜ那奈美が不遇なのか、作業をしながら、美夜に聞いたのだが、知らないと、一点張りで一向に応えてくれなかった。

なぜ不遇なのだろうか。

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