第20話・三店方式
「ねえねえ篠塚君♪」
「なに?」
昼休みの食堂で大橋さんのお話は始まった。
僕の前にはハンバーグ定食が、大橋さんはいつも通り手作り弁当だ。
「知ってる? 日本でギャンブルすると捕まるんだよ」
「うん。知ってるよ」
「でも競馬とかはいいの」
「公営ギャンブルだからでしょ?」
「そうそう。二十歳からだけどね」
どうしたんだろうか?
またなにかの影響かな?
もしそうならギャンブルはやめた方がいいって言わないと。
大橋さんがやるとめちゃくちゃ勝ちそうだけど。
ちなみに僕のお爺ちゃんがギャンブルで身を滅ぼしたので親からは絶対やるなと言われてる。
そのせいもあり、ある程度は詳しかった。
「でね。疑問に思ったんだけど、どうしてパチンコはやっても捕まらないの?」
あー。
それに関して疑問を抱いちゃったかー……。
「えっとね……」
「うん♪」
大橋さんは卵焼きをぱくりと食べて話の続きを待っていた。
日本の闇に触れているというのに呑気なものだ。
「大橋さんはパチンコに興味があるの?」
「ううん。でも昨日ラスベガスのカジノで勝つ映画を観てたらそう言えば不思議だなーって思ったの」
じゃあ調べればいいのにって言いたいところだけど、情報よりお話の方を重要視するから大橋さんなのだ。
僕は色々考えた。
本当のことを言うべきかどうか。
でも言ったら絶対に疑問を抱いてしまうはずだ。
でも嘘をつくと怒られるし……。
「それはね……」
「うん。どうして?」
「あれはギャンブルじゃないからだよ」
大橋さんは目を丸くしていた。
「え? 違うの? でもドラマとか映画とかで今日はパチンコで勝ったからすき焼きだーって言ってるよ? 勝ったらお金貰えるんじゃないの?」
「貰えるよ」
「ならギャンブルでしょ?」
「でもギャンブルじゃないんだよ」
「……意味分かんない」
大橋さんは意地悪されてると思ったのかむっとして僕を睨んだ。
でもしょうがない。
世の中そうなってるんだから。
大橋さんはじとっとした目で僕を見る。
「篠塚君嘘ついてるでしょ?」
「僕はついてない」
「じゃあ誰がついてるの?」
「…………警察?」
「なんで警察が嘘つくの?」
「嘘っていうか……。知らないんだよ」
「え? どういうこと?」
大橋さんは益々訳が分からないと不思議顔になる。
「だからね。警察はあそこでなにが起きてるのかは知らないんだ」
「知ったらどうなるの?」
「……捕まる」
「それってギャンブルだからでしょ?」
「ギャンブルだからだね」
「でもさっき篠塚君はギャンブルじゃないって言ったじゃん!」
「うん。だから警察はパチンコ屋でギャンブルをやってるのは知らないんだよ。だからある意味ギャンブルじゃない」
「でもバレたら捕まっちゃうんでしょ? なんでバレないの?」
「警察は知らないから」
「教えたらどうなるの?」
「べつにどうにもならないよ」
「なんで?」
「警察は知らないから」
「教えても?」
「うん。政治家が言っても知らないって言われるし」
大橋さんの頭上にハテナマークが増えていく。
「全然分かんない」
「まあ矛盾の上に矛盾を積み重ねた結果だからね」
「矛盾しすぎじゃない?」
「しすぎたから成り立ってるんだよ」
大橋さんはやっぱり納得いかないらしい。
「パチンコにハマった人をギャンブル中毒って言うよね?」
「言うね」
「ギャンブルって認められてないのに?」
「認められてはいるんだよ。ただ知らないだけで」
「警察が?」
「そう。だから捕まえられないし、どこにでもある」
「パチンコはギャンブル?」
「うん」
「でもパチンコ店でギャンブルをしてるか警察は知らない」
「そう」
「やっぱり分からないよー」
僕は頷いてハンバーグを切った。
「一切れ食べる?」
「いいの? じゃあいただきまーす♪」
大橋さんはハンバーグをぱくりと食べた。
「どう?」
「うん。おいしいよ♪」
「でもそれには大橋さんが苦手なピーマンが細かくされて入ってるんだよ。野菜ハンバーグだからね」
「え? そうなの?」
「おいしくない?」
「ううん。おいしいよ」
「大橋さんはピーマンが苦いから嫌い」
「うん」
「でもピーマン入りのハンバーグはおいしく食べられる」
「……あ!」
「そういうことなんだよ」
「そういうことなんだねー」
大橋さんは自分の卵焼きを箸で掴んで僕に向けた。
「じゃあお詫びに卵焼きあげるね♪」
「うん。ありがとう」
僕はお金で買ったハンバーグを手作りの卵焼きを交換した。
大橋さんが知らないでいいことが世の中にはたくさんあったりするんだ。
そういうことはなるべく迂回してお話しなければならないんだろう。
僕は冷や冷やしながらも卵焼きを食べた。
追記 正確にはパチンコ店で増えた玉を景品と変える。その景品を交換所はお金で買い取る。交換所が買い取った景品をパチンコ店がお金で買い取る。つまり景品をぐるぐると回してお金を間接的に動かすのが三店形式であるらしい。
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