第45話 出版社社長 摩耶 隆


摩耶は真っ暗な住吉神社奥宮の鳥居のところから階段を降りながら自宅への道を歩いた。

距離はわずか2-3分で家に着く。


「ただいま」


「お帰り。あら?どうしたの今日は右の方から足音がしたわよ。いつもはバス停のある左から帰ってくるのに」


「そうなの、今日は上の住吉神社から降りてきたのよ」


「また何でそんな人気のない物騒な所から帰ってきたの?」


「信じてもらえるかどうかわからないけれども瞬間物質移送機で影松高校から神社まで飛んできたの」


「あはは、またまたテレビの見すぎでしょ」


「もー、本当なんだから」


「もしそれが本当なんだったら今後は通学にバスに乗る必要ないじゃないの」


「そうなの。もう明日からバスに乗る必要はないのよ。瞬間で影松高校まで一瞬で行けるようになったから」


「はいはい、もうおとぎ話はわかったから夕食を食べてお風呂に入って寝なさい」


「もう!お母さんたら。これだけ言っても何も信じてくれないんだから」


摩耶は今まで「誰もいないのに声が聞こえる」であるとか「幽霊が見える」といったオカルト現象を母親に相談しても全く信じてくれなかった経緯があるからある程度この反応は予想できていた。


しかし食卓でこの話を聞いていた父親の反応は違った。


「富士子、もう一度今の話を父さんに聞かせてくれないか?」


地元の雑誌「神戸・シティライフ」の出版社の経営をしている父親の隆が摩耶に尋ねた。


隆は仕事柄、地元の話題や読者がためになるような話を集めるために「面白い話は何でも聞く」と言うジャーナリズムの魂が何かを感じたのである。


それと自分の娘である富士子の特殊能力に関しては小さい時から出版社に投じられた心霊写真の鑑定や神戸市内のミステリーゾーンの解明に当たって非常に力になってくれたことを母親とは違って彼女に感謝していた。


「さぁそこに座って聞かせてくれないか」


と隆は夕食のハンバーグを食べながら富士子に話をするように勧めた。


テーブルに腰を下ろす富士子


「長くなるから私も食べながら話をするわ。いただきまーす」


摩耶は3人のカタカムナ人の新入生の話から彼女たちが今までに教えてくれたこと、神戸市の東灘区の謎、神社の謎、そして最終的に今日は自分1人の力で瞬間移送ができたことを時間をかけてゆっくりと父親に説明した。


「そうか、そういう謎がこの東灘区にあったのか・・・しかも渦森山の名前の由来まで解明できたわけだな」


「そうなの、あの3人は本当にすごいのよ」


「わかった。父さんはお前の言うことを全部信用するよ」


「ありがとう、お父さん」


「まーまー、またそんな浮っついた話を軽く信用しちゃって。大丈夫なの?」

母親の幸子がテーブルについた。


「いや、本当に参考になる話だ。かりに100歩譲って嘘だったとしても、ロマンがあるじゃないか?」


「男の人はいつもロマンばっかり求めて、いつまでたっても子供なんだから。いただきます」

母親の幸子も手を合わせて箸をとった。


「でも私は女よ、お母さん」


「あなたは小さい時からずっと特別な子だったものね。周りの人から毎日白い目で見られて困ったものだわ」


「まあまあ、いずれにしても父さんはその3人のカタカムナ人だっけ?に一度会って話を聞きたいな」


「いいわよ、いつでもアポ取れるわよ」


「じゃあ、日時が決まったらまた報告するよ」


「それよりお父さんの出版社って御影駅の近くだったよね」


「そうだよ、それが何か?」


「明日朝1番で瞬間移送を体験しない?」


「いいなぁ興味があるからぜひ!」


「じゃぁ明日の朝6時ね」


「わかった」


「ごちそうさまでしたー」


食事を食べ終えた摩耶は2階にある自分の部屋に戻っていった。


「さてと・・・メグちゃんに言われたとおり10人に連絡しなきゃ。お父さんお母さんには伝えたから後8人にSNSで今日起こったことを報告しなきゃ」


FacebookやTwitterで写真を交えて今日自分がお化けトンネルから渦森山まで瞬間移送できたことを詳しい説明で拡散する摩耶であった。


ふと窓の外を見ると1000万ドルの夜景の神戸の街の真上に満月が浮かんでいる。


「あそこには今でもメグちゃんのようなカタカムナ人がたくさん住んでいるのね・・・」

ゆっくり手を伸ばして指の先が暖かいことを再確認した摩耶はベッドに入った。






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