第40話 瞬間移送機 宣伝作戦


わずか30分ほど、メグは中居と摩耶に説明をしている途中に階下から大きな声が響いてきた。


「いやー!すごかったわ!」


「本当に夢を見てるようだね!」


「もー!感動ー!」


「マジで簡単に渦森山までいけたなー」


「せやから言いましたやんか!」


ざわざわと興奮した声が階段を上がってきた。


秀と星に連れられて、お化けトンネルから瞬間移送で渦森山まで行った先輩達が帰ってきたようである。


声のトーンからして全員瞬間物質移送という人生初の経験をしたのであろう、興奮で覚めやらない様子である。


「ガラガラガラ」


部室のドアが開いた。


先輩たちはホワイトボードを前にして中居と摩耶にレクチャーをしているメグの姿を捕らえた。


「メグ、行ってきたぞ!本当に驚いた。こんな貴重な体験をさせてもらってありがとう」

とゴジラ先輩は興奮して言った。


「本当にびっくりしたわ !昔にSF 小説で読んだ通りだったわ!」ラスカルがまだ興奮している。


「しかしこれが現実社会に出たら今の旅行会社や運輸会社など物流を業務とする会社は全部潰れてしまうんじゃないか?」


光りながら新谷が疑問を呈する。


「そうよね。私たちがこの技術を取得したら日本の旅行業、運送業は一変するわよね」


「そうだな、そうなったら俺たちは一躍大金持ちだな!」播磨がネズミのくせに「獲らぬ狸の皮算用」を始めたようだ。


その会話を聞いていたメグは笑いながら答えた。


「先輩たち、いかがでしたか?瞬間移送の乗り心地は?」


「最高だった!」ゴジラ


「あれ使って旅行会社やろうぜ!」新谷


「そしたら明日からは間違いなく大金持ちだな!」播磨



「先輩たちに質問!あなた達が赤ちゃんから子供になる時にハイハイから歩けるようになったわよね。その時に歩けるようになったからといって大金持ちになると思ったかしら」


「いやそうは思わないわ」ラスカル


「そうだな成長したら誰でも歩けるようになるから・・・」ゴジラ


「そうなのよ。私たちは誰でもが瞬間物質移送ができるようになる世界を目指しているの」


「そんなことができるのか」


「それが出来まんねん」


「そうなんだナ。みんなが等しく瞬間物質移送が使える社会作りに取り組んでほしいんだナ」


「今こうして摩耶ちゃんと中居先生にレクチャーしているのも、そういう社会が来ることを願って教えているのよ」



ゴジラが改めてホワイトボードに書かれている文字をもう一度読み直した。



「物質と精神か・・・」


「そうなの。みんなは今物質文明の中にいるの。それは分かるわね?高校で勉強して大学に行って会社に入ってお金を貯めて欲しいものを買って幸せな生活を手に入れる。そういうのが『幸せ』だと新井先生は今朝言ってたのね」


「そうだな。俺達が進学校のここに来たのも漠然とそういう意識があるからだろうな」ゴジラ


「私は親に勧められてこの学校に来たの。でも当然親もそういう意識があるからなんでしょうね」ラスカル


「俺もそうだな」新谷


「でもね、今からはそういう物質をたくさん溜め込んだ人が裕福な人という定義が崩れ去るのよ」


「どういうこと?」ラスカル


「すなわち精神が豊かな人のみが豊かな人生を手にする人という時代が来るのよ」


「それはある意味宗教じゃないのか?」ゴジラ



「そう、宗教はそもそも人生を豊かにする目的で出てきたものなのだけど今の宗教というのは完全に本線から離れて、単なる集金マシーンと化しているわ。これがそもそもの大間違い。」


「今までの宗教とは違うのか?」新谷


「これからの宗教と言うのは精神の高さのみを教える所ね。もちろんお金は一切取らないわ」


「そうなんだナ。精神が豊かになればみんなも簡単に瞬間物質移送という技術が手に入るんだナ」


「先輩たち、さあそこに座って。授業の続きをやるわ」


とメグはもう一度ペンをとりホワイトボードの前に立った。



「ミスマルノタマ」と彼女はそう書いた。


「ミスマルノタマ?」先輩たちが首を傾げる。


「これからここに座ってる皆さんでミスマルノタマの纏いかたを勉強します。って実物を見てもらったほうが早いかな?ちょっとあんたたち、実物を見せてやって。少し疲れるかもしれないけど」


「「了解」」

そう言うと2人がおもむろに目を閉じて何事か唱えだした。


するとまたたくまに秀と星の周りに直径2メートル位の金色の輝く魂が出現したのである。


「おー!」

と大きい歓声が部室内に沸き起こった。


「全く、今日は驚きの連続だな」ゴジラが言った。



「先輩たち、見ました?これがミスマルノタマよ。あんたたちもういいわよ。今見たのが私たちカタカムナ人がまとっているタマの事。いつもは無色透明なんだけれどもちょっと疲れるけれども集中してウタヒを唱えれば今みたいな形で具現化することができるの」



「それを纏えば瞬間移送ができるのか?」


「そう、修行すれば誰でもできるんだナ」


「修行はどのくらいの期間かかるのかな?」ネズミが計算を始めた。


「そうね、多分一生懸命やれば1ヶ月でミスマルノタマを身につけることができます」


「そんなに短期間で大丈夫なの?」


「大丈夫よ。そうすれば皆さんは私たちがいなくてもお化けトンネルから今日のように好きな神社まで瞬間物質移送ができるようになります」


「本当か?それは?」


「本当よ、今日は秀と星のミスマルノタマで先輩達は渦森山まで行ったの。今の地球の人口70億人の中で瞬間移送機を使えるのはたった私たち3人だけなの」


「せや、誰でも乗れる便利な機械があるのに操縦士がワイらたった3人なんや」


「だから先輩たちにも早く操縦士になってもらいたいんだナ」


「あのー、その前に1つ質問していい?」

ちっちゃな手を挙げてラスカルが聞いてきた。


「はい堀先輩、何?」


「基本的なことだけど、今日体験した出来事は秘密にしなければならないの?それとも誰かに話してもいいの?」


「もちろん、どんどん話して欲しいのよ!そのことによって1日でも早くこの装置のことを多くの人に知って欲しいの」


「ほんとか?俺も他のやつに喋りたくて仕方がなかったんだ」


「俺もだ、早く自慢したいと思ってたところだ」


「君たちはどのような拡散方法を考えているんだ」

と中居先生が質問した。


「説明するわ」

とペンをとってメグがボードに書いた。


「今ここに先生を入れて6人の人がいます。明日から10人にこの装置のことを話してください」


1日目 6x10=60


と書いた。


「するととんでもない話を聞いた人間は、また他の10人に話したくなるので60人が600人になります。まるで都市伝説が瞬時に広まるようにね」


2日目 600


「さらに、それぞれが次の日も10人に話すことになります」


3日目 6000


4日目 60000


5日目 600000


6日目 6000000


7日目 60000000


「このように1週間で6000万人に知れ渡るの。これはSNSなどを通じてやればもっと拡散するかもしれないわね。要するに日本人口1億2000万人に知れ渡るまで10日もあればいいと思ってるの」

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