第19話 昼休み 同時刻



メグに急かされた秀と星は移送ゲート設置のために国道2号線の下にある通称「お化けトンネル」の中間地点にやってきていた。


地上でバスや車が通るたびに「ゴウン、ゴウン」と鈍い音がトンネル内に響く。


「ほな、星、そろそろ始めよか!他の生徒が来る前にパッパとやるで!」

天井が低いため首を45度傾けた秀が言った。


「了解なんだナ」

カバンから筆箱大の機械を出してトンネルの天井に設置する星。

同じく首を45度傾けながらの作業である。


「ほな、ワイがこっちに増幅装置を設置するさかい、おまはんは逆側な!」


「了解なんだナ。慌てず、急いで、正確に!なんだナ」


2人が慣れた手つきでトンネルの両側に磁場の増幅装置と安定装置をそれぞれに設置した。


次にゲート本体の設置にかかる。


ゲートはトンネルをガムテープのような素材で床と壁面と天井に貼り付けて囲む仕様になっている。


カバンから取り出して設置準備をしているとトンネルに通じる階段を下りてくる女生徒たちの声がした。


「あかん、星、一旦中止や!ゲートは後まわしや!」


「一時退却なんだナ」


どたばたカバンに機材をしまいこむ星。


「あれー!秀君と星君じゃあない。こんなところで二人とも首傾げて何してるの?」

小動物坂本が笑顔で話しかける。


「どうせ壁に落書きでもしてるのでしょう?」

クラスメイトの女子がワイワイ言いながら団体でやってきた。


2人が作業をしていた中間地点までやってくる女生徒の団体が秀と星を囲んだ。


天井には筆箱大の機械がすでに設置済みである。

電灯の配線コードの後ろに隠れるように設置しているので目には触れないようになっている。


「ちょっとあんたたち、2人揃ってどうせまた悪い事してたんでしょ?」

茶畑が決め付けるように二人を脅す。


「いやそんなことおまへん!」

「そうなんだナ」


「なんか、挙動が怪しいわよ」


「間違いなく犯罪人の態度ね!」


「マジで何してたのよ?」


「ト、トンネルの定期点検や。大変なんやで」


「みんなが常に安全に通れるか検査してたんだナ」


「またあー、ウソばっかり」


「よく、そんな出まかせがすぐに口から出てくるよねー」


「あ、そんなことより一緒にウイングバーガー食べに行こうよ!」


「そうね、どうせあなたたちヒマなんでしょう?」


「ああ、かまへんで!」


「作業は半分終わったから時間はあるんだナ」


秀と星を囲んだ女生徒たちは、ワイワイ言いながらトンネルを通ってウイングバーガーに入っていった。


「カランコロン」

ドアのチャイムが鳴る。


「「いらっしゃいませー!」」


いつもの女性店長が明るく大きな声で挨拶をする。


しかし今日は隣に同じ制服を着た全く同じ顔がもう一つあった。


「なんや、まったく同じ顔がおるやんけ!」


「瓜二つなんだナ」


「そうなんです。私たちは双子なの」

同じ制服を着た同じ顔が同じ言葉を発するのでまるでステレオのように聞こえた。


「さよかー。どうりで、よう似とるわ!」


「あ、新入生だからみなさんに改めて自己紹介します。私の名前はマイ、ウイングバーガーの店長です!」


「私は副店長のアミでーす」


「二人とも年齢は20歳です。双子だから当たり前よね。みなさん、今後ともよろしくね。私たちも影松高校の卒業生なのよ。いわば、あなたがたの先輩ね」


「あ、先輩なんだナ」


「先輩、こっちもよろしゅう頼んます」


「よろしくお願いしまーす」


「でもマイとアミってかわいい名前ですね」


「ありがとうね、両親の新婚旅行がアメリカのマイアミ・ビーチだったらしいの。そのときの思い出を残したくて私たちの名前をマイとアミに決めたらしいの。なんか適当よね」


「へー、ロマンチックな話ね」


「でも二人ともこんなに若いのに独立してハンバーガーのお店やるなんて偉いですね!」坂本が尋ねた。


「違うの、お父さんとお母さんが2年前に交通事故で死んだから、もらった保険金でやってるのよ。いわばこのお店は両親の形見みたいなものです」


「そうなんですか・・・それは残念でしたね」


「悲しいお話ですね」


「でも、心機一転。姉妹でがんばることに決めたんで皆さんご贔屓にね!」


「はい、応援します先輩!」

一同頭をペコリと下げる女生徒軍団。


「あ、それよりあなたたちはたしか1年3組よね」


「せやけど?」


「さっき桐山君という男の子が来て、何も食べないのにウイングバーガーの一週間分のお金を置いていったんだけど理由わかる?」


「メグのオッパイ触り代やな、あいつ、・・・」


「毎日触るつもりなんだナ」


「よっしゃ、今日はあのアホ桐山のおごりや!ほなマイはん、ウイングバーガー7つな」


「これはメグのおごりなんだナ」


「どっちでもかまへん、ちょうど7人やさかい」


「えー、秀君おごってくれるの?」


「せや、この分やと毎週おごれるでー」


「やったー!」


「ねー?二人を誘ってよかったでしょう?」


「秀君リッチー!最高―!」


「こんなもん楽勝楽勝や」

無邪気にガッツポーズを決める秀。


「これはあとでメグに絞られるんだナ・・・」


「はいウイングバーガー7つね。お待たせ」


「おおきに!マイはん」


「あ、いえ。私はアミですよ」


「すんまへん」


今頬張っているウイングバーガーの原資がどういうカラクリで、どこから来てるか知らない女生徒軍団は無邪気に喜んだのであった。

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