第63話 鎌田の爺い 降臨 4
午前10時
「太田さーん!2番にダースベイダーからお電話です!」もう鎌田さんとは呼ばずにダースベーダーと呼んでいる。
「はーい、今一本電話取ってるからちょっと待ってね」
「また来た!ダースベイダーだ!」と心の中で叫んだ。
今日は神様は太田くんにどんな試練を与えたもうのか?
その1分後
はい電話変わりました太田です。あれ?鎌田さん、おはようございます。あれ、あれ?電話切れてる?」
そこへ女子社員の声、井崎さんだ。
「ダースベイダー、急ぎだからって切っちゃったんですが伝言を頂いています。『今持っている東京ガスがだいぶん上がってきたから、1000株今日の一番高い所で売ってくれ』です。で、今日は一日中連絡がつかないところにいるそうです」可愛くニコリンと笑う井崎さん。
「出たー!またやー!」
「今日の一番高い所で上手く売ってくれ」
この言葉ほど証券マンを泣かせるキーワードはない。
見事なダースベイダーの攻撃である。
同義語として「今日の一番安い所でうまく買ってくれ」というのがある。
それは売りたいほうとしては一番高いところで売りたい気持ちはわかる。俺もそうだ。
同様に買う時も一番安く買いたいであろう。誰だってそうだ。
しかし本音は「そんなもんわかるか!」と声を大にして叫びたいところである。
「そんなもんこっちが聞きたいよ!」が本音である。
そもそも株は相場のものであるから今この瞬間が今日1日の中で一番安いか高いかなんて全てが終わってから始めてわかるものである。
未来がわかるようならそもそも苦労はしない。
よく仲間内で冗談で言ってた「明日の新聞が落ちていたらなあ、大儲けできるのに」の世界である。
例えば今相場の中で東京ガスが仮に1000円しているとしよう。
この株を今持っていて売りたい場合を考えていただきたい。
よしんば、今より100円上の1100円で売りの指値をしようとしたところ、あいにく10円下の1090円がその日の高値だったら、すんでのところで売れないことになる。
これを「売ろうと指値したが10円届かなかった」という表現を使う。
でお客さんからは「下手糞!お前は欲張りすぎだ!もっと上手にやらんかい」と言われるに違いない。
同じくこれとは逆に1100円で指値どおり売れたとしても、その後にするすると上がる場合があって終わりが1200円まで行ってしまうこともある。
「下手くそ!なんでこんな安いところで売るんだ?もっと上手に売らんかい!」とこうなる。
ここのところの理屈がどうも客には理解されていないらしい。
おまけにダースベイダーとは今日は連絡がつかない所にいる。
つまり細かいやり取りができないことになる
「えーい!くそめんどくさいから成り行きで売ってしまえ!そして胸を張って、『そこが一番高い所と思いましたので』と言おう」
太田君はそう決めた。
その方が手数料が読めるし、つまらないことで頭を痛めたくないからだ。
しかし太田くんのこの判断は間違いだった。
成り行きで売ったあとの東京ガスは無情にもあれをあれよという間に上がってしまいその日の終値が一番の高値であった。
あーあ、明日がまた ゆ・う・う・つ
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