§03 アンチ・ヴァンパイア
037▽レクチャータイム
白いテントの中の臨時会議室で、
白雪は、その明かりが作る揺れる自分自身の影とまるでダンスをするかのような軽やかさで、メイド服のスカートを揺らし、長テーブルの端へと移動した。
最初に質問をしたのは、警察側の最上席、総白髪の男性だった。
「ほう、そちらの女性が現場指揮官か。
もしや、噂に聞く『知の天使』と呼ばれる方かな」
「それは、私の上官にあたります。
本来であれば彼女が<DD部隊>の指揮を取るべきなのですが、諸事情あって
白雪が
「白雪、さん、と付けていいものか」
「呼び捨てで結構です」
「やはり、コードネームかね?」
「そのような物とお考えください」
「では、白雪指揮官とお呼びしよう。
突入作戦はどうされるつもりか」
そう問われて、白雪は少し間を置く。
「……そうですね。
先に警察の特殊部隊が、地上からの
同じ手はやめておきましょう。
見張りを排除しつつ、別の侵入口を確保します」
そう答えながら、彼女は黙ったままでいる青い長衣の青年に、何か確認するように一瞬だけ目を向けた。
警察の白髪の上席は、
「となると、屋上もしくは最上階からか。
ヘリでも用意するのかね。
必要ならば、こちらで手配もできるが……」
「いえ結構です。
その辺りは、説明が難しいので、実際にご覧になられた方が早いかと。
まあ『見てのお楽しみ』、という日本語表現が正しいのでしょうか……?」
「ふむ」
作戦説明としてもあまりに雑な内容に、どこか煙に巻かれたような顔をする警察関係者達。
これでは相手方も納得いかないと考えたのか、細山課長が説明を補足するように口を開いた。
「ともあれ、吸血鬼は夜に強化される存在。
昼間 ── より正確には
この夕暮れから日没までの決して長くはない時間のうち、いかに早く片をつけられるか。
それが勝負という事です」
「確かに。
日中ですら、
夜になり、能力が強化されるのであれば、手が付けられなくなる」
白髪の警察幹部が深く
「ところで、能力が半減というのは、具体的にはどの程度なのでしょう。
実際の脅威としては、どの程度の格差があるものなのでしょう」
「それは…………」
流石に吸血鬼案件の担当課長である細山も、そこまで詳細な内容は把握していないのか、困ったように目を泳がせる。
ややあって、アヤトが面倒そうに答えた。
「── 文字通りの半分だ。
口で説明よりも書いた方が早いか、ちょっと紙くれ」
そう言うと、アヤトは隣席のセイラからボールペンと書類を借り、書類を裏返して図解を書き始める。
ちなみに言うと、アヤトは別に細山に助け船を出して恩を売ろうとか、他の組織に
『問われたので答えた』というだけの、完全に考え無しの言動である。
しかし、真のスペシャリストである彼にとって、この程度の知識の
彼は、『月』『ヤミ』『血』と書いて、一つずつボールペンで指し示していく。
「吸血鬼の力の源は、この三つ。
まずは、『月』。
文字通りのお月様と、その光だ。
── 新月になると、吸血鬼は能力が低下するって言うだろ? アレだよ」
彼と顔を見合わせ
そしてアヤトは、『月』の文字の上に『△』を書き足しながら、続ける。
「それと同じで、昼になるとお
それに合わせて、月からもらう力も下がる。
大体、半分だ。
身体能力や回復能力を含めた、ほとんどの能力が半減する。
あと、魔術のたぐいが影響を受ける。
── ああ、魔術ってのは、ゲームみたいに手からボーンって出て敵を吹っ飛ばす、あんな感じだ」
アヤトは一旦、出席者の顔を見渡し、彼らの目に理解の色があるのを確認して、次の説明に移る。
「次は『ヤミ』。
まあ分かりにくかったら、夜とか影とかでもいい。
昼でも影ができない訳じゃないが、夜に比べると圧倒的に少なく、薄い。
昼間じゃほとんど役にたたない要素だ。
こっちも魔術に影響がある。
あとは『
── そういうのが昼間は使えなくなる」
そう言って、『ヤミ』と書いた上に『×』を書き加える。
「三つ目が、『血』。
吸血鬼、って名前はダテじゃねえ。
アイツらは、血を吸うことで強化されし、回復する。
『血』こそが能力の大半、あるいは化け物としての存在の基礎だ。
さらには、血自体を武器にもする。
厄介な事に、これは昼でも夜でも関係ない要素だ」
そう言って、『血』の文字の上に『○』を書き足す。
すると、質問の主である、若手の警察官が深く頷いた。
「なるほど、『月・闇・血』の三要素か……」
彼はそう言って、アヤトの図解 ── 『月』と『△』、『ヤミ』と『×』、『血』と『○』を、何度も視線で往復させ、推測を口にする。
「
能力が半減するというのは、そういう意味でいいのかな?」
「ああ、この辺りくらいまで能力が下がると、俺ら異能者や普通の人間でも勝ち目が出てくる。
でも、だいたい半分という感じで、アンタのいう通りの『きっちり50%か』は分からん、別に計ったヤツがいるワケでもない」
アヤトは、それに、と付け加える
「細かい事を言い出せば、月の位置やら、満ち欠けやら、例えば今回みたいに暗幕をはって暗くするとか……。
色んな要素で、
アヤトが説明を終え、セイラにボールペンを返す。
それを見て、白雪が口を開いた。
「それでは、差し障りがなければ ──」
白雪が説明を切り上げようとすると、今まで黙っていた警察関係者の一人、中年の男性が慌てて口を開いた。
「── いや、待ってくれ。
せっかくの機会だ、参考までに対吸血鬼の武装を拝見したい。
もちろん、機密上で可能な範囲で結構だ」
「ええ、結構ですよ。
機密と言われましても、隠すほどの物ではございませんので。
特に銃器などは、
そう白雪は答えると、無造作にメイド服の黒いスカートの
── うおぉ……、と警察と厚労省の男性陣に、動揺が走った。
メイドは、魅惑的な白い太ももを飾る黒いハイソックスどころか、その上のガータベルトの辺りまで、一切
しかし、彼女が見せたかったのは太ももに取り付けた、革製のガンホルダーと、その中身だ。
「これが対魔物・対吸血鬼用の拳銃と専用弾丸です」
ゴトンッ、と重量感あるガンメタリックの金属塊が、合板製テーブルの上に置かれる。
そして、その隣には、反対側の太ももに取り付けられていた、スペアの弾倉が並べられた。
//ーー※作者注釈ーー//
この作品における政治・軍事要素は「なんちゃって」です。
おかしな所があったら「作者がアホなんだな」とご理解下さい。
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