第63話.ダンジョン(2)
「ふん!」
俺の一太刀で敵は粒となって消える。
背後に巡らせた雷魔法のお陰で危険な目には合わずに、15Fを突破した。
だが、流石に数が多くなりすぎて一人ではキツくなってきていた。
15Fを突破した時には既に12時間が経過していたので、今日のところは15Fのセーフティーエリアで休むことにした。
セーフティーエリアには、70人ぐらいの冒険者がいたが、その中で一人でいたのは俺だけだった。
やはり、みんなパーティーを組んでいるだな。
てか、ダンジョンで一夜を過ごすってのも普通なんだな。
転送システムでも有れば違うんだろうが、そんな便利なものはないようだ。
やっぱ現実は厳しいのか。
さて今何個魔石を取れたのだろう。
確認してみると、53個だった。
ここに来るまでに500ぐらいは魔物を倒したのだが、浅い階層じゃこんなもんか。
今日は疲れたし、さっさと寝るか。
次の日、起きるとごつごつしたとこで寝たので体の節々が少し痛かった。
次からは16Fに挑む。
魔石のドロップ率は20%である。
16Fからはニードルラビット、ワーウルフ、ソルジャースピア、ソルジャーアントが中心的に出てくる。
どの魔物も単体ではDやCランクだが、群れをなして行動する魔物ばかりであり、群れを相手にするときのランクはBかAとグッと上がる。
それだけ、厄介な相手というわけだ。
外でさえ、その数には手こずるのに、ここはいくら倒しても復活してくるダンジョンであり、数も多い。
苦戦することは必須だろう。
セーフティーエリアを離れて2分、俺の前に現れたのは6体のソルジャーアント。
ソルジャーアントは歩行型の蟻の戦士で、槍を武器としている。
基本、巣から離れるときは5体以上で行動するらしい。
そして、敵に遭遇したとき、敵を強者だと判断すると1体が仲間に増援を求めに行く性質がある。
このソルジャーアントは、俺を見るなり1体が反対側に逃げ、残りの5体が俺を足止めしようと向かってきた。
仲間を呼ばれるのは面倒だ。
「サンダーガン。」
人差し指から小さな雷の球を作り、それを助けを求め逃げてったソルジャーアントに向けて放った。
物凄い早さで発射された球は5体の隙間をすり抜け、胸を貫いた。
5体は通り抜けた球を追うように後ろを振り返り、仲間が死んだのを確認した。
もう助けが来ないことと、助けを呼びに行くことが出来ないことを悟ったソルジャーアントは勢いよく向かってきた。
そんなソルジャーアントに対し、投げナイフを用いて5体とも倒した。
ダンジョンで戦っていくうちに、剣で斬り殺すより、投げナイフの方が疲れないし効率的だと気づき、中距離の敵にはそうするようにしている。
弓矢の方が得意なのだが、投げナイフの方が速い。
投げナイフと魔石を拾い、さらに奥へと進んだ。
時々休憩をしながら、6時間ぐらいで20Fに到着した。
20Fの最後にはセーフティーエリアがあるので、そこまで急いでいこうとするとだが、扉がその行く手を阻んだ。
「こんな扉今までなかったぞ。」
これは、あれか、ボス戦みたいなことか。
なにが出てくることやら。
俺は気を引き締めて、扉を押した。
中に入ると扉は勝手に閉まった。
そこに広がるのは、縦横100mぐらいはありそうな広場。
奥には、セーフティーエリアに繋がっているであろう通路が見える。
だが、それまでの道を黒い影が埋め尽くしている。
そして、ひときわ大きな黒い影が1つ。
それはソルジャーアントの大群だった。
その数なんと50。
そして、中央には他のソルジャーアントよりも大きな者がいる。
頭には王冠を被っており、ソルジャーアントはその者を守っているかのようだ。
そいつの名はソルジャーアントクイーン。
ソルジャーアントの女王である。
ソルジャーアントの大群全てが一斉に俺の方を向いた。
その光景――気持ち悪さに圧倒された。
この戦いは、一見すべてのソルジャーアントを殺さないといけないように思えるが、実は1体を倒すだけでいい。
ソルジャーアントクイーンを倒せばこの戦いは終わる。
実は、クイーンはソルジャーアントよりも弱い。
その強さはゴブリン程度だ。
しかし、頭はキレる。
多くのソルジャーアントを統率しているのだから、頭が良くない訳がない。
言うなればクイーンは王であり軍師なのだ。
外ではクイーンを倒せば、ソルジャーアントは統率力を失い、簡単に倒せるようになる。
だが、ここダンジョンではクイーンを倒せば、ソルジャーアントも死ぬよう設定されている。
10~20の適正ランクはCランク。
この大群をCランクの1パーティーだけでは、全滅するのが目に見えている。
でも、Cランクの冒険者でも、クイーンだけを倒せれば20Fを突破することは可能なのだ。
普通のパーティーなら、弓職が狙うのだろうが俺には魔法がある。
ぶっちゃけ、ソルジャーアントの大群を全滅させることは簡単なのだが、面倒なのでやめておく。
俺を認識したソルジャーアントの大群が俺に押し寄せようとする中、魔法を放った。
「サンダーガン。」
魔力をあまり使わないわりに、攻撃力の高い魔法を使用し、頭1つ分飛び出ているクイーンの頭を狙った。
「な!」
その瞬間、ソルジャーアントが予想していなかった行動を取った。
サンダーガンの軌道上にいる10体のソルジャーアントがジャンプをし、サンダーガンを受け止めようとしたのだ。
そこまで力を注いでいなかったサンダーガンだが、その貫通力は凄まじい。
8体のソルジャーアントの胴体を突き破ったが、9体目で止まってしまった。
まさか、我が身を犠牲にして守るとは。
恐るべき忠誠心だな。
てか、これC級冒険者太刀打ちできるのか?
弓でクイーン狙っても、ソルジャーアントが盾となって防ぐのならば厳しいと思うのだが。
まあいい、それならそれでやり方はある。
「サンダーガン。」
もう一度放つと、さっきと同じように数体のソルジャーアントが我が身を投げ出す。
俺は1体目のソルジャーアントに当たる前に、人差し指を上に向ける。
すると雷の球が上に軌道を変える。
特訓の末に、放った後の魔法をコントロールすることが出来るようになっていた。
雷球をクイーンの真上まで、移動させるとそのまま落下させた。
ソルジャーアントはなすすべもなく、クイーンが絶命するのを見ていることしか出来なかった。
クイーンが絶命すると同時に、おびただしい数のソルジャーアントも粒となって消えた。
「ふう、終わったか。」
ソルジャーアントの魔石を集める。
クイーンからのドロップは、良質な魔石とクイーンの王冠、そして、クイーンのフェロモンが原料の香水だった。
クイーンの香水は、男を魅了する匂い――フェロモンを出すので貴族の女性に人気があるみたいだ。
中々、採れるものではないので高値で売れる。
20階層のボス部屋の次産間隔インターバルは、1週間。
それまでは、ここは素通りできる空間となる。
流石に6時間も戦ってると、体力的にも精神的にも疲れるな。
さっさと、セーフティーエリアに行って休むか。
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