韋孝寛⑭雍州刺史に転任して故郷に錦を飾りました。

▼故郷に錦を飾りました。


高歓を退けた玉壁の戦から七年の後、

西魏の廃帝の二年(553)、

韋孝寛はようやく転任することになります。


行先は雍州、

故郷である杜陵を含む州の刺史です。


まさに「故郷に錦を飾る」というヤツですね。

おめでとうございます!



『周書』韋孝寬伝

廢帝二年,為雍州刺史。

先是,路側一里置一土候,經雨頹毀,每須修之。

自孝寬臨州,乃勒部內當候處植槐樹代之。

既免修復,行旅又得庇廕。

周文後見,怪問知之,曰:

「豈得一州獨爾,當令天下同之。」

於是令諸州夾道一里種一樹,十里種三樹,百里種五樹焉。


 廢帝の二年、雍州刺史と為る。

 是より先、路側には一里ごとに一つの土候を置くも、雨を經れば頹毀し、每に之を修むるを須つ。

 孝寬の州に臨むより、乃ち部內をして候の處に當りて槐樹を植えて之に代う。

 既に修復を免じ、行旅は又た庇廕を得る。

 周文は後に見て、怪しみて問いて之を知り、曰わく、

 「豈に一州のみ獨り爾するを得ん。當に天下をして之と同じうせしむべし」と。

 是において諸州をして道を夾みて一里に一樹を種え、十里に三樹を種え、百里に五樹を種えしむ。



この頃、

西魏の街道には一里ごとに

土饅頭を道しるべに置いていたようです。


ただ、

土なので雨が降ると壊れてしまいます。


その修理がけっこうな手間だった。


石で造ればそういう手間はないわけですが、

メンテは郷村が行うのが通例ですから、

そこまで手間はかけられません。


そこで、

雍州刺史に赴任した韋孝寛は、

土饅頭を止めて木を植えることにしたようです。


樹木なら雨の後の修復もいらず、

郷村の負担にもなりませんし、

旅人は木陰で休めるようになりました。


三方良しというヤツです。


宇文泰はそれを知ると、

「雍州だけやなくて、全国でしたらステキやん」

と言い、西魏全土で行わせました。


この時は、

一里に一本、

十里なら三本、

百里なら五本

の木を道の両側に植えたそうです。


おそらく、

長安を起点に距離を示すようにしたのでしょうね。


なんとなく、

始皇帝の馳道を思い出させる

エピソードでもあります。




▼江陵を陥れるのにお付き合いしました。


さらに、

雍州刺史の身でありながら、

出征にもお付き合いします。


働き者ですね。



『周書』韋孝寬伝

恭帝元年,以大將軍與燕國公于謹伐江陵,平之,

以功封穰縣公。

還,拜尚書右僕射,賜姓宇文氏。


 恭帝の元年、大將軍を以て燕國公の于謹と江陵を伐ち、之を平ぐ。

 功を以て穰縣公に封じらる。

 還りて尚書右僕射を拜し、姓宇文氏を賜わる。



雍州刺史に転任した翌年の恭帝元年(554)、

西魏は江陵に余喘を保つ梁に出兵しました。


侯景の乱でボロボロになった梁はこれに抗えず、

あっさり滅びてしまいます。


皇帝菩薩こと蕭衍しょうえんの建国より52年、

これが梁の実質的な滅亡です。


この三年後、陳覇先ちんはせんが帝位に即いて陳を建国しますけど、南朝は興味が薄いので割愛。


この軍功により韋孝寛は穰縣公に封じられ、

尚書しょうしょ右僕射ゆうぼくやに任じられます。


実質的な宰相ですよね、これ。


文武両道極まりない。

この時、韋孝寛は46歳の働き盛りでした。


ただ、

その二年後には宇文泰に命じられ、

玉壁に帰任します。



『周書』韋孝寬伝

三年,周文北巡,命孝寬還鎮玉壁。

 三年、周文の北巡するに、孝寬に命じて還りて玉壁に鎮ぜしむ。



北方を巡検した宇文泰が

「やっぱり河東の防衛が弱いし、韋孝寛を玉壁に戻さんとあかんわ」

とでも言ったのでしょう。


結局、

ふたたび東魏との最前線、

河東の玉壁に帰ることとなりました。


玉壁城に拠って河東を維持する任だけならともかく、やはり晋陽の内情を探る諜報網がうまく機能しなかったのではないかと邪推しています。


これだけ諜報や流言の扱いに長じた人も

珍しいですからね。

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