第十四章④ 折り重なる謎
それからベブルたちは、アーケモスへと戻って来た。ファードラル本人を殺したのだから、“アドゥラリード”の強化パーツを探す必要はもうないだろうという判断を、ベブルが下したのだった。
「そういえば、“ハネヘビドリ”の障壁は、どうやって壊したんだ?」
ベブルは転位装置から降りた。彼の後に、ユーウィ、そしてザンが続く。ザンが返答する。
「君がやったんじゃないのか?」
「はあ?」
「君以外に誰ができるんだよ」
「俺じゃねえから言ってるんだよ」
おずおずと、ユーウィが言う。
「あの……。多分、わたしだと思うんですけど……」
「そんなわけないだろ」「まさか」
ベブルとザンはそう言ったものの、沈黙してしまった。
ザンが口を開く。
「なあ。ユーウィって、君の先祖なんだよな」
「ああ」
ベブルは肯定した。
「そうだよな。だから俺も、彼女を助けにジル・デュールに来たわけだしな」
「ああ」
「そうか、血筋か……」
「あのう?」
ユーウィには、ザンがなにを言っているのかさっぱり解らなかった。彼女が首を傾げると、
ベブルはユーウィのほうに歩み寄る。
「おい。まさか、あの『力』が……、ものを消す力が、お前にもあるんじゃないだろうな?」
迫ってくるベブルを怖いと感じたのか、ユーウィは少しだけどもる。
「あの……。実は……、はい。本当に、時々しか見ないんですけれど……。今日みたいなのは、初めてだったんですけれど……。やっぱり、変、ですよね……?」
ベブルは静かに、首を横に振る。
「いや、変じゃない。俺も持ってるんだ。その『力』。それに、俺の孫もその『力』を持ってる」
「はあ……、そうですか」
「『声』は聞こえるのか?」
「『声』……? 何です、それ?」
ユーウィは首を傾げた。
「聞こえないなら、いい」
ムーガと同じか……。声には出さずに、ベブルはそう思う。それから、今度は声に出して、ユーウィに忠告する。
「だが、その『力』はあまり使うなよ。使いすぎると、意識がなくなるからな。下手を打てば、意識が戻らないかもしれない」
ムーガはすでに、その寸前にまで来ている。ユーウィの場合は、この『力』をまだほとんど使っていないために、しっかりと自分を保っていられるのだろう。
「わ、解りました」
「しかしこれで、ユーウィとベブルの血の繋がりが、より一層はっきりとしたな。だが、そうなると、ベブル、君の母親の石碑はどうなるんだろうか? この『力』を持ったレイエルスの神がユーウィの先祖であるとすると、なぜ君の母が、レイエルスの石碑を持っていたのだろう?」
ザンは考えごとをするために腕を組んでいた。
ベブルは溜息をつく。
「わかんねえよ。調べてみる価値はあるかもしんねえけど」
それからまた、静寂があった。もうなにも、それに関して言うことがなくなったのだ。ベブルが全ての意見を止めてしまったというのが正しいかもしれないが。
三人は踵を返し、いま彼らが出てきた魔導転位装置を見やる。
「……壊そう」
そう、ザンが呟くかのように言った。
「何でだ? デルンは死んだ。この装置は放っておいていいだろ」
ベブルがそう言ったが、ザンは首を横に振る。
「いずれまた、レイエルスの技術を悪用しようとする人間が現れるかもしれない。それに……、もしかすると奴も、死んでいないかもしれないし」
「はあ?」
「あの場で逃げていた可能性だって考えられる」
「どうやって?」
「……死体は見付からなかった」
ザンのその答えに、ベブルは溜息をつく。
「あのなあ……」
ユーウィが口を挟む。
「でも、もしも、ということもあります。この装置を壊して、向こうから戻れないようにすれば安心ですよね?」
「それはそうだが……。もし生きていたら、ここを塞いだぐらいじゃ、どうにもなんねえだろ? 神界レイエルスからこっちに繋がってる時空塔は、ここ以外にもあるんだろうが」
ザンは答えて言う。
「それに関しては問題ない。ソディから聞いた話では、これ以外の時空塔には、権限が必要なんだそうだ」
「権限?」
「ああ。つまり、利用する権限のある神でなければ、使えないんだそうだ。そうだな、例えば、ユーウィのように、籠手にその情報が入ってる場合とかな」
「これ、ですか?」
ユーウィは自分の左手を覆っている籠手を見せた。ザンはうなずく。
ベブルはそれを見て、また言う。
「だが、それじゃ、奴が向こうで籠手を見つけたらどうなるんだ?」
「ないとは言えないが……。それは特に希少な古代の道具だし、普通は籠手ではなく、手そのものが認証に使われるんだ。俺のいた魔界ヨルドミスでもそうだった。だから、権限が含まれた手袋なんて、滅多にないと考えていい。それに、ユーウィの籠手のような、マスターキーみたいなものは、かなり例外だ」
ザンはそう説明した。
「まあ、お前がそこまで言うなら、別にいいが」
ベブルは渋々認めた。
それからザンは、魔剣『ウェイルフェリル』を召喚し、それで魔導転位装置を完全に破壊した。
「あとは、これだな」
そう言って、ザンは青い『ブート・プログラム』を床に転がし、それも剣で斬った。
「これで、完全に、神界レイエルスとアーケモスが分断されたわけだ」
ベブルは両手を頭の上で組み、溜息と共にそう言った。
ザンは魔剣を魔法で消す。
「さて……。終わったな」
「ああ」
ユーウィも、やや放心気味に言う。
「わたしの敵討ちも終わりましたね。これから、わたしはどうしたらいいんでしょうか……」
ザンは頭を掻く。
「父親がいなくなって、焼けた家に戻ってもしょうがないかもしれないな。じゃあどうだ? しばらくの間、黒魔城に来ないか?」
苛立った声で、すぐさまベブルが割って入る。
「おい待てコラ。ユーウィに手ぇ出したら承知しねえぞ。お前が俺の先祖になったら、ぶっ殺すからな。わかってんのか?」
「わ、わかってるって……」
ザンは両手を小さく挙げ、すごすごと引き下がった。
「でも、ベブルさん。行き場がないのは確かです。ザンさん、お邪魔でなければ、しばらくお世話になってもよろしいですか?」
ユーウィ本人がそう言うのでは、子孫の出る幕はない。ベブルは反論しなかった。
「あ、ああ……」
ザンは弱々しい声で了承した。煮え切らない思いを湛えた目で彼のほうをじっと見ているベブルを気にしながら。幸い彼は、今度は、噛み付かれなかった。
「あーあ」
突然、ベブルは大きい声を出した。それから、仲間たちに言う。
「さっさと帰ろうぜ、ザン。お前の城で休ませてくれよ。眠い」
ベブルたちは、アーケモス時間で夜通し神界レイエルスにいたのだ。もう、アーケモスは昼だ。ザンはまた苦笑いする。
「わかった。とりあえず、外に出よう。ソディに連絡するから、向こうに転送してもらおう」
そうして、ベブルたちはこの部屋から出る扉に向かって歩く。
その途中で、ベブルは思わぬものを見つけた。彼は屈み、床の上のものをじっと見る。
そんなベブルの背に、ユーウィが声を掛ける。
「どうしたのですか?」
ベブルは低い声で答える。
「血だ……」
それから、ベブルは立ち上がり、振り返った。
その視線の先には、破壊された転位装置がある。
「まさか……、俺たちとデルン以外にも、ここからレイエルスに行った奴がいるのか……?」
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